その67・聖女と邪聖女
また新顔が増えたし、この際いい機会なので、世直しと混乱を不規則にもたらす聖女御一行のメンバー紹介をしよう。
・シオン。言うまでもないが一応言っておくと俺である。
目つきのあまり良くない栗毛の短髪十三歳。顔の出来はソルティナいわく中の上。
主な武器はトワイビュート。エルフ族の技術の粋が生み出した魔法金属によって作られた鉄鞭の一種で、持ち主の意志によって自由自在に変化する万能武器だ。見た目よりずっと重いので普通の人間は容易に扱えない。
・ソルティナ。黎明の聖女と称えられたソルフィアス・ノーティンの生まれ変わり……というか、ガワだけ変わっただけで中身は本人そのもの。前世は享年二十四で今世はまだ十三。ソルティナさんじゅうななさい。
腰まである豊かな銀髪を振り乱し、銀の瞳に映った獲物をボコボコにするのが日常。黙って動かないでいれば美少女なのに勿体ない。
武器は特に用いず、素手や蹴り、投げ技などを好む。困った時はとりあえず殴ればうまくいくと強く思っている危険人物その一。
・ナナ。正式名はナーディマルネーナ。ナーディ・マルネーナではなくナーディマ・ルネーナである。ナーディマとは聖霊とか聖獣とかそんな意味の言葉らしい。
こちらは享年十七歳。眠っていた二百年を加算するととんでもないご老体になる。
薄茶色で横髪の長いショートヘア。左目が青く、右の眼窩はポッカリと空いていて、常に赤く輝いている。もしかしたら今後右目が見つかったりするのだろうか。
武器はなし。大地の女神を祭る地下神殿で見つかった石のナイフを所持しているが、ナナ本人は捕えた獲物を捌くときくらいしか刃物を使ったことがないとのこと。なので、護身用というより装飾品になっている。
感情が大爆発すると大地がつられて大変動する厄介な性質を持つ。危険人物その二。
・ディアーネ。本名はディアーネ・マルレーン。盤石な繁栄をもたらすという神託を受け、エスタガス王国の男爵家に生まれるが見た目がよろしくないだけで冷遇されるようになり、しまいには婚約者に濡れ衣を着せられギロチン送りとなった。
享年といっていいのかどうが微妙だが、まあ本人は邪聖女として生まれ変わったと主張してるので享年十七歳にしておこう。なら今はまだ一歳未満なのか。
真紅のくりっとした双眸に、背中まである黒のもじゃもじゃしたくせっ毛が、金持ちや貴族に飼われている猫っぽさがある。猫令嬢ってあだ名はそこから付いたのだろうか?
武器はないし、そもそも使ったことすらないだろう。なにせ男爵家のご令嬢様である。スプーンより重いものを持ったことがない生まれなのだ。
一度死んだことでタガが外れ、人の倫理とかどうでもよくなったらしく、生命を操るたぐいの神聖魔法を周囲から精気を吸い上げる用途で使うことすら躊躇いがあまり無くなった危険人物その三。
・ファング。狼かと思って拾ったらクレセントウルフという上級の魔獣だった。まだ一歳になるかならないかというのに子牛くらいデカくなっており、今後のエサ代が不安である。
毛並みは青が混じった灰色。
動きを止める停滞の視線や口から吐き出す電撃、空中ジャンプに魔力ブーストからの体当たりと、本来なら主戦力で活躍させるべき数々の能力と優れた戦闘力を兼ね備えているのだが、他の面子が異常なので結果として影が薄くなり、探索や伝令役にまわされている。
・コークス。名も知らぬ流浪のおじさん二人組が残してくれた馬車馬。
見た目も汚く、荷馬車を牽引する力もそこそこだったが、ソルティナのお祈り飼い葉を食べてるうちにムキムキとなり、今では鼻から蒸気を吹いたり口から燃える硫黄じみたものを吐いたりと、元気いっぱいになった。これが本当にまだ馬かどうかと問われたら、ギリまだ馬じゃないかなと答えるだろう。
・ロードス。ゴーレムリーダーという突然変異のゴーレム。
大きさはだいたい十センチほど。
名前の通りゴーレムを支配する力があるが、それにはとにかく時間がかかるので、他人の協力が無ければその効果を発揮することもままならない。
アイテム解析、魔法道具の体内収納など、意外と様々な能力を有しており、それを使って内部に収めている魔法の宝石によって、今では熱線を自在に放てるようになっている。
・サイクロプスゴーレム。リュムレインを襲ったゴーレムの中でも群を抜いて巨大な存在だったが、俺達の活躍によってロードスの操り人形となった。
大きさはだいたい十メートルほど。
その巨体から繰り出される破壊力はすさまじく、極太の鎖の端と端にくっついている、トゲトゲだらけの巨大な鉄球を振り回して叩きつけてくる。
他にも、頭部の単眼を攻撃すると電撃によるカウンターを繰り出したり、掌から火炎球を打ち出して遠距離攻撃をしたりと、魔法系の技も持っていたりする。
見た目にそぐわないと思われがちだが、ゴーレムはれっきとした魔法生物の一種なのでその手の芸当を割と当たり前にやるのだとか。
──今後また聖女が増えたりしそうだが、現時点での顔ぶれはこんな感じである。
「お互い苦労しましたのね……」
『まぁな。直にお礼参りできなかったのは歯痒いけどよ、その分こいつが派手にやってくれたみてぇだし、ざまあみろってとこだな』
「私は私で、裏切り者のとどめをあなたに奪われたから、その点はお互い様ね。目の前でみっともなく死んでいったのを見れたから、溜飲が下がったけど」
「自分で手を下せただけ、わたくしは幸運だったのかしら」
「幸運な者はそもそも処刑場に立たされないわよ」
『ひひ、そりゃそうだ。しいて言うなら、不幸中の幸いってなもんだぜ』
「それまで受け取った不幸の詰め合わせに比べたら、ささやかすぎる幸いですわね」
聖女三人が顔を突き合わせ、それぞれの運の無さを井戸端会議くらいの軽い感覚で、どこか朗らかに皮肉交じりで話していた。
これまで味わってきた人生の悲哀を語り合っているのに、悲壮感があんまり感じられないのが凄いな。タフという言葉はこいつらのためにあるのかもしれない。
ディアーネの引き起こした惨劇を見たせいで精神が潰れたという聖女は、所詮、ただの聖なる力の使い手に過ぎなかったのだろう。
「かわいそうな素性の告白合戦はもうそのくらいでいいだろ。ところで温泉や火山はどうなったんだ」
「温泉はまだ手つかずのままよ。ついこないだまでアリの縄張りだったもの。まあ、行こうと思えば行けるけど、小屋すら無い場所に点々とお湯の湧き出る箇所があるだけらしいわ。掛け湯か足湯しかできそうにないわね」
『火山はどうもお怒りが鎮まったみたいでよぉ、モクモクと真っ黒い煙を吹いちゃいるがまた溶岩を派手にまき散らす様子は、今んトコねぇな。遠目で見ただけなんで、実際に間近で拝もうとしてたら、この騒ぎさ』
「そっか」
なら火山にでも行ってみるか。温泉の方だと、小屋建てたり、湯に浸かれるように穴掘って石とか敷き詰めたり漆喰塗ったりとかやらされそうだしな。露天の浴槽についてはナナの力を使えばたやすいんだが、小屋はどうしても自力で建てなきゃならん。飲酒か狩りかひなたぼっこしかやることない大工さん達にでも頼むか?
「温泉なんてあるんですのね」
「火山が近いしな。そういう場所には湧いてるらしい」
『……どーでもいいぜ』
ナナがうんざりという顔をしていた。ホントに熱い湯で洗うの嫌なんだな……
「あれ? どうしたファング」
「グルルルル……」
ファングが毛を逆立てている。どこからどう見ても警戒態勢ってやつだ。
「あらあら、これは穏やかじゃないわね」
ソルティナが不敵に笑った。待ってましたといわんばかりの嬉しそうな笑みだった。
──周りの木陰から、謎の人影がいくつも現れた。頭数は十数人ほど。いずれも鮮やかに染められたコートを着込んでいる。なのでお隣さんの出身で間違いない。
話し合いで済ませるつもりなど毛頭ないようで、姿を見せると同時に、剣やナイフ、手槍などをコートの内から取り出し、こちらにいつでも飛びかかれるよう一定の距離を保って身構えていた。ますますソルティナが喜ぶ展開になっている。
(あー、エスタガスからの追っ手だな。さっさとここから立ち去るべきだったか)
詰問から解放されて気が緩んでいたのと警戒を解いていたのもあって、全く気づかなかったな。いつの間に囲まれたんだか。
気配から察するに、英傑やそれに準ずるレベルの強者はいないようだが、だからといって一山いくらの雑魚でもない。恐らく一人一人が熟練の兵士や冒険者と互角くらいの力量のはずだ。
……あれ、その程度ならやっぱり雑魚な気が……
「……何か騒ぎが起きているので、関係ないとは思いつつも、念のため立ち寄ってみましたが……まさか、こんな近場に隠れ潜んでいたとは思いませんでした。おかげで帝国中をくまなく探し回る手間が省けたというものです。これも神の御加護でしょうか」
追っ手らしき連中の中で一人だけ小柄な者が、透き通るような少女の声でどこか独り言のようにこちらに語り掛けてきた。
「その声……もしや?」
声に聞き覚えがあったのか、ディアーネが声の主へと数歩近づいた。
すると、その動きに呼応したかのように小柄な人物が被っていたフードを脱ぎ、隠していた素顔をこちらへと晒した。
「久しいですね、男爵家の悪女。おぞましきディアーネ」
「やはり貴女でしたのね…………聖女リリエル」
こうして、正気を失って会話もままならないと噂されていた聖女と、全てを失ってしがらみから解き放たれた邪聖女が、波乱を含んだ再会を果たしたのだった──
今週は火曜日の投稿の他、
水曜、木曜、金曜の午後四時にも投稿します。




