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その65・何もしてないのに落ちた

「こりゃまた、あちこちからわらわらと集まってきやがったな」


「退屈しのぎにやって来たのが大半だと思いますわ。娯楽に飢えた地域では事故や事件でさえ心躍る楽しみになりえますもの」


 ああ、火事とかわざわざ遠くの区域からやってきてまで見る奴いるよな。


「他にやることないのかね」


「あるような村に見えますの?」


 俺は苦笑してかぶりを振った。



 何もない村で起きた、前触れなきボロ屋倒壊。

 一体どうしたんだと村人が集まり、上からストップかかってるので本業が全く進まない大工のおっさん連中が暇つぶしに寄って来て、しまいには駐在してる兵隊さんまで安物の槍を肩にかついで駆けつけ、ワイワイガヤガヤ大騒ぎだ。


 俺と、このディアーネという危ない聖女はというと、互いに簡潔な自己紹介を済ませた後、その騒ぎを森の中から遠目に見ていた。


 倒壊の原因だが、劣化が進みすぎて勝手にぶっ倒れたって結論に落ち着くんじゃないのかと思う。仮にこの聖女の魔法の痕跡があったとしても、年数による劣化と魔法による劣化の区別なんて、それこそ熟練の魔術師か錬金術師でもいないとわかるまい。大工でも流石にその見極めは無理ってもんだろ。

 そう考えると俺達二人が隠れる意味はないんだが、変に目立っても嫌だし、念のため騒ぎが下火になるまで様子見していよう。



「身を隠すのにちょうどいい場所でしたのに。残念ですわ」


「口喧嘩をこじらせてムキになるからだ」


「耳が痛いですわね……」


 なんかやけに素直だな。突っかかってきたり恨みがましい目を向けてこないのは助かるが、しかし素直さの理由がわからないと、どうにも不気味なものがある。

 あとなんか距離が近い。やけに詰めてきてないか。背後から寄り添って背中に当ててくる乳の圧がだんだん強まってきてるぞ………………うん、意外と豊満だなアンタ。


「こんなにくっつかなくてもよくね?」


「あら、もしかして照れてらっしゃるの? 大人びた喋りの割にはウブなんですのね。ですが、そこもまた可愛いですわ」


 俺の肩に顎を乗せ、ディアーネが甘く囁いてくる。


 一ヶ月も放浪生活を送っていた割には、こうして密着されてるのに汗臭さや埃臭さが全くしない。定期的に行水でもしてるのだろうか。だとしても無臭どころか、春の若草や花のような香りがするのはおかしい。……もしや、命を支配する力を持つ聖女ならではの香りなのか……?

 俺が不思議に思ってついクンクンと匂いをかいでいると、


「そ、そんなに嗅いでどうなさったの? ひょっとして、わたくしが不快な匂いを体から漂わせているとか?」


「いや、いい匂いだよ。ずっと嗅いでいたいくらいだ」


「そ、そうでしたの。それは良かったですわ。で、ですけど……そんな、ずっとだなんて、そんなにわたくしを喜ばせないでくださいまし」


「もしかして照れてるの?」


 さっきのからかい文句をそのままお返ししてやれ。


「も、もぉっ……いじわるな方なんだから…………」


 見られたくないのかスッと顔を伏せたが、おそらく困り顔で赤面してるんだろうな。

 だけど、仮にも令嬢だった女性がこの程度のやり取りで照れるというのもおかしな話だ。態度の端々にも、褒められ慣れてない感じが見え隠れしているし、普段から家族や婚約者に冷遇されていたのかな。

 聖女ってのは他を圧倒する性能の代わりに男運や家族運の引きが最悪なクラスなのかもしれん。


 ……あれ、だとしたら、こうして色んな聖女と絡んでいる俺は図抜けて最低の男ということに………………うん、この説は無しだな。


 にしても近いなぁ……こんな現場をうちの聖女どもに見つかったら、左右からほっぺたつねられながらグチグチ文句を言われそうだ。

 サバサバしてるようでいて湿気が強かったりするからなアイツら。



『ちっ、まぁた新しい女を引っかけてよろしくやってやがるぜ』


「目を離すとすぐこれね。まいっちゃうわ」




 見つかった。




「どうしてここに」


「……空き家がいきなり崩れただのなんだので騒ぎになってるから、嫌な予感がしてね……。ナナやファングと一緒に騒ぎの発生場所へ向かいながら周囲を探っていると、森の中から見知った気配と初見の気配が同時に感じられたわけ。おわかり?」


「さいですか」


 これはもうどうやっても言い逃れはできんな。


「えっ、新しい女って……貴方、まさかその年で二股かけてますの?」


「そこまで生々しい関係じゃないんだが、かといって違うともいいづらい」


 一緒にいると楽しいし好きっちゃ好きではあるが、『こいつら俺の女だグヘヘ』ってほど粘っこい執着とか露骨なスケベ根性はないけど……でもその手の欲が無いわけでもない。

 時々エロい目に合えればそれで十分かな。


『おたくが加入したら三股だな』


「はぁ……。よくよくわたくしは、色男に縁のある運命なんですのね」


 またヘコみだした。気分屋すぎるぞこの姉ちゃん。


「もしかして俺って色男なの?」


 ダメもとで自分の顔を指差し、ソルティナに聞いてみた。


「そうね……美男子ではないし、目つきもそんなに良くないから人を選ぶ顔つきだと思うけど……私は好きよ、あなたの顔」


 クセの強い珍味みたいな評価されて複雑な気分になった。


「ワイルドだとか、鋭い目つきだとか、どこか陰があるとか……言いようがあるだろ」


「それで有頂天になってあちこちに現地妻を作られても困るもの」


 そんなもん作ったそばからお前たちに後腐れないよう念入りに破棄されそうだが。


「え、俺ってそんなに女好きだと思われてるのか?」


「そのザマでよく問いかけられたわね」


 ぐうの音もでないな。

 ソルティナからしたら、どこの誰かもわからない姉ちゃんが甘えるように俺に抱きついてんだから、思案する余地などハナからないか。

 確かにソルティナの言う通り、アホな質問したわ俺。


『この短けぇ間にあっさり女一人落としてるってよぉ、末恐ろしいぜ』


「落としたというか勝手に落ちた」


「加害者の決まり文句ね」


 言葉のグレートソードでバッサリ切りすぎだろ。容赦なさすぎる。


『悪りぃことした輩はなぁ、みんなそうやって他人事みたいに言うんだよ。それにだ、どっちにしてもお前が何かしでかした結果なんだろぉ?』


 そうかもしれないが、でも何が発端なのかわからないんだよマジで。何がそんなにこの猫姉ちゃんに刺さったんだ? わからなすぎる……


「明確にこう何かしたっていうのは覚えがないぞ。ちょっと険悪な感じになって喧嘩したのと、その前に、外で小便してるの見たくらい……あっ」




 試 合 終 了 の お 知 ら せ。




 ──和やかな会話の時間は俺の自滅で打ち切りとなった。さあ、ここからは俺が洗いざらい何もかも白状するまで終わらない詰問カーニバルの開幕だ。つらい。

今週は、火曜、木曜、土曜の午後五時に投稿します。

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