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その41・年一でやる奇行

「──ということで到着したわ」


「早っ」


「リュムレインから半日もかからない距離だもの。初見だと間違いなく心が折れるくらい見つけるのが困難なだけで、あらかじめ場所を把握していれば造作もないわ。道中で盗賊も魔物も出なかったしね」


『あのゴーレム騒動であらかた逃げちまったんだろうなぁ。きっとよぉ、ここら辺はしばらくの間は無風だぜ』


「その分、逃げ込まれた他の地域が割を食いそうだな」


「それはまあ、今を時めく人気者の英傑さんたちにまかせましょう。ここ最近、たまたま何度か人々を救って話題をかっさらっているだけの私達が、そこまで体を張る必要はないわね」


「ないといえば、ないな。ちょっとは気の毒だと思うがそれだけだ」


『隠居の身みてぇな立ち位置のはずだしなぁ、俺たちってよ。ここまで来たのも、昔のやり残しや気がかりの解消と、お目当てのブツが欲しいってだけだっつーのに、何の因果で世直し旅なんかになっちまってんだか…………ったくよぉ』


「聖女というのは、今も昔も、死んで生まれ変わっても不死者になっても、苦難が付きまとってくるものということかしら」


『全く、忌々しいもんだぜ』


「同感ね」


「どこまで拒否しても前世からの宿命が追ってくるんだなあ……」


「他人事のようにしてるけど、あなたももう十分こちら側に組み込まれてるからね?」


「言うな」


 ……そうさ、この世界のなんかよくわからない混乱をもたらす流れにじわじわ包囲されかかってるのは、自分が一番よくわかっているんだ……

 それならできるだけ楽して時勢に乗るために頑張るんだ。

 下手にもがいて激流に呑まれてしんどい目に合うのではなく、むしろ身を任せ、どうにかして緩やかなルートを漂ってやる。俺は無の力という究極のオールを操る船頭だ。世界なんぞにこの小舟を沈めはさせない。

 待っているのがたとえカオスに満ちた滝つぼだったとしても、俺は凌ぎ切ってやる。この豪快にして繊細なオールさばきでな。


『なんだぁ? シオンのやつ、急にキリッとした顔で、棒を左右に振り回すような動きをやりだしたぞ。凛々しくてたまんねぇけどよ、それはそれとしてやべぇな』


「この子はたまに奇行に走るのよ。でも、うん、カッコイイわね……」


<だめだこりゃ>


「ウォウッ……」




 ソルティナに腕を引っ張られ、俺は正気に戻った。


 なんか荒波をものともしない熟練の船乗りみたいな、そんないい気分になっていたが、細かいことはよく覚えていない。たまにこういう不思議なことが自分の身に起きる。

 信じられないくらい凛々しい顔つきで棒らしきものを振り回す動作をしていたというから、巨大な海の魔物と一戦交える妄想にでも浸っていたのだろうか。



「……見た感じは、ほんと、ただの鉱山の跡地だな。いやまあ、そうなんだけどさ」


「道がもっと荒れてたら、先に一つ目ゴーレムくんを歩かせてきれいな更地にさせたんだけど、そこまでする必要はなかったようね」


『物騒なことを涼しい顔で言うなよ……』



 山の岩壁に人力で掘られた真っ暗い大穴が、ぽっかりと開いている。

 かつて現役で採掘されていたときの名残らしき、地面に敷かれた砂利の道。それをしばらく進み、やがて、それが獣道に近い草まみれになり果てたくらいで、この大穴が姿を見せたのだ。


 不死の王が秘密裏に作り上げた禁断魔術の研究施設、蛇の瞳である。


 ……と言っても、人間やドワーフの間で噂になるくらいバレバレなので、あんまり秘密になってない。

 不死の王の手下に口の軽すぎるお調子者でもいたんじゃないのか。




「ファング、暗くなる前に帰るから、それまでお留守番をよろしくね」


「ウォフッ!」


「お前でも使えるような魔法の道具とか、もしあったら持ち帰るから、そんなに期待しないで待っててくれ」


<吉報を待つ>


『じゃあ行くとすっか。幌馬車に忘れもんしてねえか気ぃつけろよ』


 ここまで聞いてると遠足かと思われるだろうがこれは正真正銘の探索である。


「ロードス、先に言っておくけど、よほどのことがない限り、なにかあってもファングとコークスで何とか切り抜けてくれよ。この大物が廃坑のそばでドカドカ活躍したら崩落するかもしれんからな」


<了解>


『そこまで心配することもねぇよ。仮に崩落して生き埋めになってもよ、この俺がいれば大丈夫だぜ?』


「その台詞、つい最近どこかで聞いた覚えがあるわね」


「俺もだ」


 なんなのこのアンデッド聖女。そんなに生き埋め展開が望みなの? 普通は生き埋めになった時点で大丈夫では……って、この内心の嘆きにも覚えがあるんだが。

 もしかして、今後も地盤とか天井とか危なそうな場所に行くたびに、ナナは自信満々に同じ発言をするのだろうか。……ウザ。


「ウザいからもうやめてね」


 言うなよお前はよぉ。


『なんだよ、せっかくお前らの身を案じて俺はさぁ……』


 ナナがぶつくさ言ってヘソを曲げたが、このくらいなら慰めなくてもいいだろう。

 最近、知恵をつけてきたのか、事あるごとに甘えようとしてくるからなコイツら。安易になでなでを乱発することで、それに慣れてきて、さらに過激な行為でないと満足できなくなったりしたら、非常に困るのだ。


 うらやましいだって?


 俺の苦労も知らずにそう思う奴は全員整列してくれ。一人残らずケツを木の棒でしばいてやるから。


「出だしからケンカすんなよ。ほら行くぞ。お宝が俺達を待っているんだ」


 そうであってほしいという願いを込め、俺は二人を急かすことにした。




「…………これは先を越されたわね」


「だろうな」


 大穴に入って数分歩いたくらいの場所、ちょっと天井が低くなった辺りで、割れた板やちぎれた鎖の残骸が散らばっているのが、ソルティナの作り出した魔法の光に照らされて露わになっていた。

 願いはかなわなかったのだ。そう、残酷な現実には、かなわなかったんだよ……


「探索した後、念のためにここを封鎖しておいたのよ。まあ誰も来ないだろうし、来ても何にもないからどうでもいいとは思ったけど、一応ね」


『ヒューッ。なあ、二人とも見ろよ。この鎖、綺麗にスッパリ断ち切られてんぜ。こいつぁなかなか腕の立つ奴の仕業だなぁ、おい』


 床に散らばる鎖のひとつを手に取り、ナナが口笛を吹いて感心した。


「やるでしょうね、あの女なら」


 心当たりがあるのか、とは今更聞かなかった。



 女戦士パルトール。



 俺の幼馴染の前世であった聖女ソルフィアスを裏切った仲間の一人にして、今では真帝国の騎士団長を務めるまでに出世した女性である。



 それはともかく、目ぼしいものが奪われたのが確定したのでもう真面目に探す気がおきない。あーあ、聖女コンビに任せて外に戻ろうかなあ。

今週は火曜、木曜、土曜の同時刻に投稿します。

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