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その39・八つ当たりより有効活用

 これまでの様々な情報をすり合わせてみた結果、ソルティナのかつての仲間、女戦士パルトールにとっくの昔に先を越されている可能性が出てきた。

 不死の王の研究施設、蛇の目玉だか毒蛇の尻尾だかにあるのかないのかわからない財宝や武具の内、目ぼしい物は既にあらかた狩り尽くされた後かもしれない。

 幸運な一番乗りか、美味しいところが食われたあとの残りカスに群がるスイーパー(猛獣のような牙を持ったカラス型魔物、死肉が好物)になるかどうかは運次第か。




「その女戦士って、深いこと考えるのが苦手なサバサバした脳みそ筋肉系だって話じゃなかったっけ。なんか、お前のその話と違って、したたかで抜け目がない感じだぞ」


「そう思ってたんだけどねー。人ってわかんないものだわ」


「猫ではなく、虎でもかぶってたとか」


「彼女が普段はガサツで大雑把なフリしてたって言いたいの? ちょっとそれはないかな。あの立ち振る舞いは、素だったと思うけどねえ」


 といっても、よくよく考えると、吹き荒れる嵐のようなこの超脳筋娘が他人の気配ではなく本心を察することができるとは、あまり……いや、全く思えない。

 もしかしてこいつの仲間ってみんな一癖ある腹黒だったんじゃないのか。そうじゃなきゃ、共に死闘を乗り越えた聖女の処刑に加担しないよなあ。

 ……まあ、あまりに手に余るという事で、私情や利害関係を超えた一致団結して人の形をした怪物を始末しようとしたという結論も否定できないが。


「私が火刑になる時にあの女の姿が見えなかったのも、もしかして、密かにこちらに戻ってきて、施設に隠された宝物庫をくまなく荒らしていたのかもしれないわね」


「だとしたら恐ろしい強運だな。そのおかげで盛大な聖女大爆発に巻き込まれずにすんだわけだし」



「うぅ~~ん…………あれぇ、ここ、どこぉ……?」



 仕留められた野猿のようにコークスの背中に置かれていた金髪令嬢が、ようやく意識を取り戻したようだ。あんな体当たりを受けたら数日間は昏睡してそうだが、そこはまあ、こんなのでも英傑の一角ということなんだろう。


「やっと起きたわね」


 やっとじゃないだろ。よくぞ起きただろ。お前の基準おかしいわ。

 だいたい、お前が神聖魔法で癒してやればもっと早く復活できただろうに、


「さっき撥ねられた件を覚えていたらきっと私達に牙を剥くと思うのよ。なら、治さないで弱ったままにしておけば、ねじ伏せるのも手間がかからなくていいし、不利を悟って暴れるのをやめるかもしれない。なのでここは放置で決まりね」


 対応が人間ではなく野生動物へのそれなんよ。


「なんか、身体のあちこちが痛いですわぁ……なんなんですのぉ………………ん? 貴方たち、どこのどなたですの……? それと、ここは、どこなのかしら?」


 その呟きを聞いて、朗報とばかりにソルティナが悪い笑みを見せた。


 リュムレインに大急ぎで到着した前後の出来事が、何もかもわからなくなっているという様子である。どうやらソルティナにひき逃げされた時に、記憶がいくつか外れて吹っ飛んだのだろう。

 それと彼女が戦場まで乗り付けた馬車だが、その御者はというと、ドワーフ族のモンバムおじさんがここを離れ、ナナ達がこちらに来るまでの空白の時間に、ソルティナの『虚心の正拳』を喰らい、不要な記憶を消されていた。

 つまりソルティナは、この短い時間で二人の人生に謎の出来事を植え付けたことになる。人の心を何だと思っているのか。


 ちなみにモンバムおじさんが無事なのは、ソルティナに「今回の一戦の語り部になるのはいいけど、あの金髪巻きをかっ飛ばしたのは内緒にしてね」というお願いを大人しく受け入れたからである。

 断ったら何をされるかわからないと思ったのか、おじさんは二つ返事で頷いていた。



「お嬢様は、この巨大なゴーレムの一撃をまともに受け、吹き飛ばされたらしいのです」


「ドネル、それは本当なの?」


「申し訳ありません。私も気を失っていたため、詳しいことはわからないのです。ですが、失神した私を介抱してくださったこちらの方々が、そう説明してくれました」


 そろそろ話に割って入るか。


「ま、そんな感じで間違いないですよ」


『……やっぱお前らのほうから飛んできたんじゃねーか……。ったくよぉ、そんならそうと、素直に言えや』


「理由はどうあれ怒られそうだから黙ってた」


「ごめんなさいね」


『あのなぁ、いくら気の短けぇ俺でもよ、こんなデカブツがやらかしたことまでお前らに責任求めたり、八つ当たりしたりなんざしねぇよ』


 八つ当たりどころか正当な怒りなんだが、その真実は今こうして闇に葬られようとしていた。


「さらに続けると、お姉さんがどこかに飛ばされた後、このゴーレムを懲らしめたのが私達なの」


「…………………………………………は?」


 ボロが出る前に話を戻したソルティナの説明を理解できないのか、目と口を丸くしてキョトンとする金巻。


「冗談、ですわよね」


「お嬢様、冗談ではなく真実です。私も未だに信じられませんが、お嬢様があのゴーレムの鉄球で、んうっ……!?」


「どうしたのドネル、額をおさえて」


「いえ、何でもありません。急に頭が重くなったような……気のせいですね。……それで、お嬢様がこの場からいなくなられた後、こちらのお二人が巨大なゴーレムを地面に抑え込んで動けなくしてから、そこにいる小さいゴーレムが、何かの術を用いて巨大なゴーレムを操ることに成功したのです」


「にわかには信じがたい話ですわね」


 ですよね。俺も当事者じゃなかったらまず信じない。


「けれど、幼い頃からわたくしに仕えてきてくれた貴方が、嘘をつくはずもありませんし……」


 まあ嘘ではないな。ちょっと邪魔な一部分を削ってるだけで、あとは全て事実だ。


「つまり私達は、このリュムレインの町と、あなた達を窮地から救ったことになるわね。つまり恩人ってことよね」


「そ、それが真実なら、そうなりますわ」


 可愛いんだけどムカつくドヤ顔だな。

 金髪令嬢も同じことを思ったのか、少し眉をひそめながらソルティナの意見に賛同していた。





「いやぁ、よかったよかった」


 サイクロプスゴーレムを従えてリュムレインの門をくぐった俺達一行は、町を救った英雄だと大歓迎を受けることになった。ヤールンスでも同じことがあったが、あの時とは規模が段違いすぎる。

 なんか花火まで打ち上げだしたぞ。ひょっとして、俺達をダシにしてお祭り騒ぎがしたいだけじゃないのか。


 と、そんなわけで、興奮した人々に揉みくちゃにされつつ、ナナの正体がバレたりすることもなく、夕食に用意されたご馳走を平らげて最高級の一室までご案内されるコースが終了した。ここからはくつろぎタイムだ。

 俺はボロ切れになりかかっていた馴染みの衣服に別れを告げ、新たに購入した新品の衣服とマントを羽織り、同じく新品のブーツの履き心地を確かめていた。

 とにかく一番丈夫なやつを選んだので、また今回みたいな目に合わない限りはこいつらと長い付き合いになるだろう……と言いたいが、どうせそのうち合うに決まってる。


『いいのかねぇ。俺は今回、なーんも活躍してねぇんだがよぉ』


 当然、俺だけでなくソルティナやナナも同様に衣替えしている。


「いいからいいから、ついでに奢ってもらっとけばいいのよ。いつもの図々しさはどこにいったの?」


『ひひっ、俺はお前とぜんぜん違って、とっても奥ゆかしいからよぉ~~。あんな恩着せがましいことなんざ、口が裂けちまっても言えねぇぜ』


「なによ」


『なんだぁ』


「まあまあ二人とも、まあまあまあまあ」


 定期的に揉めないと死ぬ病にかかっている二人をやんわり押さえながら、俺はさっきの金髪の英傑について思い返していた。



『六英傑の一人であり、ウェスター伯爵家の令嬢である自分の危機を救ってくれた貴方達に、今できる限りの謝礼をさせてほしい』



 そんな嬉しい申し出があったので俺達は即座にOKした。


 ということで、リュムレインにある、冒険者向けの品を取り扱っている店へ行き、そこで自分たちのサイズに合った上質の衣服などを奢りで買い揃えたのである。

 ナナは石器ナイフ用に鞘も購入し、サイズも特に問題なかったのだが、若年冒険者用の品は流石になかったため、俺とソルティナは小柄な獣人族用の衣服などを改良してもらった。

 町を救った恩人とあって、手直しは、よその店からも応援を呼んでの職人総がかりによる全力行進で早々に終わった。


「ウェスターねえ……」


 その姓に聞き覚えがあると、ソルティナは言っていた。かつて自分を陥れた者たちの中に、その伯爵家の次期当主になる予定の人物がいたのだと。


「燃えたうえに聖都ごと消し飛んじゃったから、予定のまま終わったんでしょうね」


『お前がやっといてよく言うぜ』


「不幸な事故よ」


「……なあソルティナ、まさかとは思うが……あの金髪巻きをとっかかりにして、伯爵家の一族に八つ当たりでもする気か?」


「だとしたら?」


 怖い目でソルティナは俺に聞いてきた。

 ナナは『ま、お前の好きにすりゃいいさ』という風に肩をすくめている。


「そうだな……復讐にしては的外れだと思うけど、かといって強引に止めるのも筋違いな気もするし、どうしたものかな。個人的にはしてほしくはないね。……本音を言うと、恨みに突き動かされて見境がなくなったお前とか、あんま見たくない」


「ふぅん」


 ソルティナはそれだけ聞くと、俺に抱きついてきた。

 いい匂いが鼻をくすぐってくる。女の子の匂いって、なんでこんなに甘酸っぱいんだろ。


「なんだよいきなり」


「ちょっとくらいは酷い目に合わせようかと思ったけど、やめたわ。どうでもいい連中を痛めつけるのと引き換えに、あなたにちゃんと見てもらえなくなるなんて、釣り合いが取れなさすぎるもの」


「それがいい」


「まあ、あのお嬢様の正義感を上手くくすぐって、厄介事の後始末とか尻拭いとかをやらせたりするくらいは……いいわよね?」


「まあ、落としどころとしては、いいところじゃないかな…………うおっ」


『さっきからソルティナばかりずりぃぞ。俺も混ぜろっつーの!』


 今度はソルティナとは反対の方向からナナに抱きつかれた。

 他人に頼られたり助けを求められたりばかりで、甘えることに飢えているのかもしれないし、今日のところは彼女らの好きにさせてやろう。いつもの事のような気もするが。

今週は火曜、木曜、土曜の同時刻に投稿します。

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