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その33・ゴーレムは男の子のロマン

 照れ臭いからさっさと行こうという懇願を二人から受け、俺は目的を失った旅を進めるべく、清き水の村から出発することにした。

 山岳地帯へ向かう俺達の姿が見えなくなるまで、村人たちは名残惜しそうに手を振って見送ってくれていた。俺より幼い子供たちは手を振るかわりに拳を突き出す仕草をしていたが、それが誰を真似しているかは言うまでもない。あの子らの将来が不安になってくる。



「なあソルティナ」


「んー?」


「ふと思い出したんだけどさ、リュムレインって町は魔石で一攫千金したい冒険者が集まるところでもあったとか、そんなこと言ってたよな」


「あーはいはい、美味しい魔物狩りのこと説明したときに教えた覚えあるわね。え、ひょっとしてあの砦でアヒルとか捕まえたいの?」


『なんだそりゃ。今ってダンジョンで猟でもすんのか? すげえ時代だなぁ……』


「違う、そうじゃない」



 ~~説明タイム~~



『あー……そういうことかぁ。完全に理解したわ』


 そりゃまあ難解な話じゃないしな。


「手持ちの在庫を捌くだけでも一生食ってけそうだとは思うけど、せっかく行くならどこまでも冒険を楽しんでやろうかなと。それに、動く彫像とかは見たことあるけど、これぞゴーレム、っていう感じのゴツいやつにはまだ出会ったことないからさ」


「そんな見て面白いものじゃないわよ。ただの大きな石人形だもの」


「そのシンプルさがいいんだろ。余計な飾りのない武骨さと重量感あふれる巨体が頑強な拳や鋼鉄のハンマーを振るって大暴れするのが、こう、グッとくるじゃないか。凶悪なドラゴンの吐く炎に焼かれても平然とそのまま突っ切り、鼻っ面に一撃をお見舞いしてやるとか、それがゴーレムの持ち味なんだよなあ」


「急に早口になったわね」


『語られても頭にぜんぜん入ってかねぇ……』


「けどゴーレムって魔法生物だから、魔法や特殊能力とか割とホイホイ使ってくるわよ。殴ったり武器使ったりしかしないのは、それこそ動く彫像とか木人とかスケルトンナイトみたいな、簡単な命令しか与えられていない操り人形のたぐいね」


「夢のないこと言うなよ……」


 あーあ、やる気の量が一気に半分以下まで減ったわ。もう取り返せないなこれ。


『どうせやること無くなっちまったんだし、行くだけ行って自分の目で確かめたらどーよ。そのほうが諦めがつくだろ。それに、もしかしたら魔法とか使えねぇ出来損ないとか、ガタがきてるやつとかいるかも──』


「出来損ないとか言うな。王道と呼べ」


 パシィン!


『にぎゃあ!?』


 俺は許されざる発言をしたナナの尻をズボンの上から平手打ちした。

 こいつといいソルティナといい、巨大戦士の良さがわからない野暮な奴らめ。


 ということでお仕置きも済んで一段落かと思ったが、血の涙目のナナが『ぶたれたお尻が痛くて歩けないよぉ』なんてグズりだしたので、距離にして一キロくらいの間、ずっとナナの尻を撫でてなだめることになった。


「もういいだろ」


『だぁめ、まだ痛み引いてないもん。もっとさすってくれないとやだぁ』


「堂々とした痴漢か、変態カップルののろけにしか見えないわね」




 やっとナナが満足して俺の手を解放してくれた頃、なだらかだった道にはじわじわと角度がついてきて、旅人の足を疲れさせることに力を入れるようになってきた。


「流石に坂道が目立つようになってきたな」


「それだけリュムレインに近づいてきているという証拠よ」


 そんな上り坂でもコークスはいつも通りに幌馬車を引っ張っていた。この旅において最も重労働なのだが、本人はどこ吹く風で、街道に蹄の音をのんびり響かせている。


「ゲギッ」


「ギュイィッ」


 景色にも飽きてきたし暇だなと思っていたら、茂みから見たことある魔物の色違いが何匹も出てきてくれた。よし、退屈しのぎに潰すとするか。すまんな。


「なんかゴブリンをちょっと大きくして赤く塗ったようなの出てきたぞ」


「レッドキャップね。ゴブリンの上位種よ。といっても誤差みたいなものだけど」


 つまり雑魚だな。


「傷口からの出血がひどくなる毒を持ってたりするけど、まあ私達にとっては気にするものじゃないわ。こんな奴らに不覚を取って傷を負うなんてありえないしね。殻つきのヒヨコ冒険者が痛い目見ることがあるくらいの魔物よ」


「そっか。ならどうでもいいな。……おいファング、あいつらと遊んでいいぞ。わかってると思うけどちゃんとトドメは刺せよ、いいな?」


「ウォウンッ!」


 嬉しそうに獲物へと疾風のようにファングが飛びかかる。


「ゲガァァア!?」


 真っ正面にいる奴へ襲い掛かると見せかけて、奥のほうで油断していた赤ゴブの首にかじりつくと一気に引き裂き、その勢いのまま別の個体の首へと飛んで喰らいつき、また別の……という工程が数回繰り返された。


「グゴヘェ……!」


 最後の赤ゴブの喉笛がざっくりと裂け、戦闘というか駆除が終わった。



「ウォン!」


 どうっスか、自分もここまで成長したっスよ。そんな台詞が聞こえてきそうなくらい自慢げな顔で一戦終えてきたファングが、大喜びのソルティナに抱きつかれた。


「よくできたわね。流石は黎明の聖女の牙よ。私も鼻が高いわ」


 その設定まだ消えてなかったのか……


『いや、聖女の鉄槌とか剣とかならわかるがよぉ…………牙って……それはどうなんだ……?』


「外付けの牙を用意しなくても、元から鋭いのが生えてそうだよな」




「がぶがぶ」


「……歯形とかつけないでくれよ。町の人々に変な誤解される」


 坂道を進む俺の背中に、元気が有り余っているにも関わらずおんぶされてるソルティナが、その俺の首筋を噛んでいる。ファングの活躍の真似をしてるわけではない。

 理由? 説明するまでもないだろ?

 その牙の鋭さを体で確かめさせてあげるとかほざきながら飛び乗ってきてこれよ。さっきの赤ゴブよりもこいつのほうがよっぽど魔物っぽいわ。


「嫌よ。こうして、誰の目にもわかりやすくマーキングしとくわ。じゃないと、あなたはすぐ新しい女を作るから油断も隙もないもの」


『そ、そうだな。こいつはガキのくせに、死人の俺の、は、裸にまで劣情したくれぇの真性だからなぁ…………ほっとくとよぉ、また誰か、手込めにしそうで怖いぜ』


 またってどういう事だよ。初犯ですらねーぞ。

 むしろお前たちのほうが俺に良くない目を向けてないか?


「でも、それだけ魅力的で頼りになるってことでもあるし、痛し痒しね」


「頼られるのは悪くないけどさ、この体勢でお漏らしするのだけはやめてくれよ。おしっこしたくなったら素直に言ってくれ」



 ソルティナの返答は俺の後頭部への頭突きだった。

今週の更新は火曜、木曜、土曜の同時刻に一回投稿となっております。

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