その19・魔石ハンターシオン
希少なものには価値がある。
役にも立たず見栄えも悪いのならその限りではないが、数が少ないというだけで何かしらの特別さを見出すというのも、よくある話だ。……が、そうはいっても、その特別さとはあくまで一部の好事家にしか理解も納得もできない世界なのだが。
今回紹介するものは、万人が認める価値を有する物質だ。
魔石。
魔法の触媒やマジックアイテムの材料、規模の大きな儀式魔法の要に使われるなど、その使い道は多岐に渡る。魔物の体内に生成される特殊な宝石であり、人の手で作成することが不可能なため、常に需要が供給を桁違いに上回っている代物だ。
そうなれば当然の如く、一攫千金を求め、行き場のない穀潰しや頭を使う仕事が苦手な荒くれ者や才能が自分たちにあると勘違いした少年少女が冒険者となってダンジョンに挑むのだが、その多くは無謀にも引き際を見失って魔物のごはんかおやつとなる。
賢い者はどうにか生き残って経験を積み、運のいい者はたまたま旨味の強い魔物──『ウマ』を引き当てて急激に成長し、才能のある者は調子に乗りつつ難なく成功を重ね、そうやって一人前の冒険者になっていくのだ。
名もなき者たちの血と涙が魔石を輝かせる──と言ったのは、いつの時代の詩人だったか。
つまり今も昔も魔石は便利で儲かるお宝なのだ。
そんなお宝が、俺の手元にあるそれなりにサイズの大きな革袋にこれでもかと詰まっている。
品質は中くらいが七割で上物が二割、残り一割がクズ石だ。クズといっても売ればけっこうな値が付く。一個売ったら一般市民の三ヶ月分の稼ぎと同じくらいの金額が手に入る。中くらいならその十倍。上物はさらに十倍の値段だ。
しかも大きさによっては、更に値が跳ね上がるときている。
情報源がソルティナなのでいまいち信用しがたいが、実際の相場と大きくかけ離れた出鱈目を語ってるとも思えないので、鵜呑みにはせず参考程度に留めておく。
「多少買い叩かれたとしても、働く必要ないだけの額には余裕でなりそうだ。クックック……将来を気にせずのんびりと趣味に没頭できる人生が、ついに来ましたねぇ……」
『キメェなおい』
「嫌な目つきしながら、口から糸を引きそうなねっとりとした台詞をのたまうのやめて。百年の恋も冷めるわ」
「冷めたところでまた熱くさせるから問題ない」
のろけの混じった皮肉を突きつけてきたソルティナの顎に手を当て、顔を近づける。
「ふぐっ」
『うにゅっ』
何かけなしてくるだろうと予測していた俺は、すかさず狙いすましたカウンターを決め、範囲内にいたナナを巻き込みながらソルティナの乙女心へ華麗な一撃を食らわせた。
備えあれば憂いなしというように、こうやって聖女をあしらう経験を日々欠かさず積んで腕を磨くことで、将来ありえる修羅場を凌ぐ備えとするのだ。
「や、やだ。顔が近いってば、ちょっとぉ」
できるだけ優し気な顔をして見つめ合うと、みるみるうちにソルティナの顔が紅潮していった。
『おい、俺まできゅんと来たじゃねぇかよ……』
心臓もないのに胸を押さえ、切なげな目でこちらを見るナナ。知らない人間が見たら、首のもげているゾンビがなぜか胸元の傷から血が流れるのを止めようとしてるような、不思議な光景にしか見えないだろう。
俺はソルティナの顎からスッと手を離し、元来た道へと足を向けた。
ファングの先導でこの遺跡まで向かっていた途中、帰りに迷わぬよう木や岩などに目印代わりに傷をつけておいたので、戻りは格段に楽なはずだ。
「ひとまず拠点へと戻ろう。細かい物事を決めるのはそれからだ」
「わ、わかったけど、こういうのは二人っきりのときにしなさいよ。もう……」
「恥ずかしがり屋さんだな」
『お前が無頓着すぎんだよ』
『また地道な登り方するもんだぜ』
「何かある度に奇跡や魔法に頼るのもどうかと思ってね。力でできることは力で済ませるのが私の流儀よ」
「流儀というかそれ一本槍だろ」
「なにか言ったかしら?」
「あー、今日はそんなに日差しが強くないなぁ。よかったなナナ」
『お? お、おう、心配してくれてありがとな』
「またいちゃついてる…………もう」
むくれたソルティナがいつものように岩壁を登るのを、ナナが宙にふわふわと浮きながら面白そうに見ていた。俺は相変わらず歩いて登り、ファングは成長の甲斐あって何もない場所を蹴りながら一足先に洞穴へと到着していた。
さほど時間もかからず秘密基地に到着した。
当たり前だが、荒らされていたということはなかった。こんな場所まで足を運ぼうとする物好きなど滅多にいるものじゃないしな。
「……やっぱここいいわ。実家の次くらいに落ち着くぜ。とうとう戻ってきましたよーって感じだな」
『外の光が入ってこねぇのはありがたいな。こんな体になっちまったせいで、どうにもお空の火の玉にムカついてしかたねーぜ。大地の大らかさを見習えってんだ、全くよぉ』
あんまり愚痴こぼすと光の神に怒られるぞ。
「帝国の神官が聞いたら怒りそうな話だけど、私は別に光の神スールの信徒でもないからどうでもいいかな。私の処刑の時にもなんの手助けもしてくれなかったし、つまりケチなのよ」
「そうなのか?」
それは初耳だ。
「あら、言ってなかったっけ? 私ってば、これといって崇めてる神様がいない野良の聖女なのよ。『神』ではなく『天』に選ばれたということかしらね」
『そりゃとんでもなく珍しーな。あっさり生まれ変われるだけのことはあるぜ』
野良ね。だから何をやるにしても基本が野性的なのか。
ファングが懐いたのも納得だな。不死鳥フェニックスと並んで誇り高い魔獣の代表格と呼ばれるクレセントウルフが従ったのは、蘇生させてもらった借りだけではないのだろう。
こいつのほうがやべえ獣だと本能で理解したのかもしれない。
「獣じみてるなとか思ってるでしょ」
「まさか」
ソルティナの鋭い読みに、俺は顔の前で手を振ってごまかした。たまに心を読んだかのような厳しい一発を投げ込んでくるから聖女は怖い。俺もまだまだ経験不足だなぁ……
それから一週間が経過し、ソルティナがまとまった量のポーションの出荷を終え、俺も魔石を三分の一ほど売り払うと、我々の手元にいくつもの金貨袋が仲良くやって来ました。
雑に勘定しても山岳地帯への往復どころか楽に世界旅行できるだけの額がある。
「これで金銭面での問題はなくなった。残るは……」
俺の言葉をソルティナが引き継ぐ。
「家庭の問題ということね」
いやはや、どうやって親を説得したらいいかな……




