第四十一話 Eランク昇格への道 一 飼い猫探索
朝日が昇る前、俺は目を覚ました。
あまり寝れなかった。
しかしあまり体に疲れは残っていない。
騒がしくはあったが、実質仕事という仕事はしていなかったからだろうか。
体を覆っている布を脱ぎ、暗い中準備を始める。
今日は商業ギルドに行って、冒険者ギルドへ行き……。
やることを考えながら隅に置いてある長剣をとり、背負袋の中に入っている物を確認しようとすると――
『ぱぁ!!!』
トッキーこと『時の精霊』がばんざいの恰好で中で待ち伏せていた。
そして背負袋を閉めた。
『ちょっ、何するのよ! 』
「朝から反応に困ることはやめてくれ」
『いいじゃない。ちょっとしたおちゃめよ』
不審精霊が外に出るのを確認して、袋の中を確認する。
確認と同時に、トッキーに聞いた。
「どうしてあんなことしたんだ? 」
『いや、私の事おぼえているかな~って』
ちらちらこちらを見ながら言う。
だが反応したらダメだ。ここで反応したら多分この後も無駄に時間を浪費させられそうだ。
背負袋の中身を確認した後トッキーの方を向く。
「じゃぁ俺は朝ごはん食べたら仕事に行くから」
『りょうか~い。頑張ってね~』
「おう」
こうして俺は朝食を食べケイロンと共に冒険者ギルドへ向かうのであった。
★
冒険者ギルド。
「よし、残ってる」
「よかった~」
前に来た時よりも更に早い時間帯に来たおかげか人の塊もなくゆっくりと依頼ボードを見れている。
「でも早く取らないとね」
「いつあの集団が来るかわからないからな」
そう言いつつ茶色い紙を読む。
ん~多い。
いつも少ないから逆に選ぶのに困る。
「デリク、デリク、これはどうかな? 」
「ん? 何々《なになに》、【飼い猫の探索】? 」
「うん! 」
笑顔を向けてくる。
ケイロンは猫が好きなのだろうか?
それともペット好き?
「いいんじゃないか? 」
「じゃぁ出してくる! 」
そう言い受付へ行き、受理をしてもらい、探索へと向かった。
★
俺はケイロンが以前に書き起こした町の地図のおかげで迷うことなく町中を走っている。
飼い猫の探索。
甘く見ていた。
そりゃそうだ。簡単に見つかるなら依頼に出さない。
あれから三時間程、お昼が近くなっているがまだ見つけれない。
「中々見つからないね」
「そうだな。無暗に探しても見つからなさそうだ」
「じゃぁ、猫の気持ちになって探したら見つかるかもよ? 」
「どうやって猫の気持ちになるんだ? 」
「こう、かな? にゃぁ~」
両手を丸くして、猫の真似をする。
か、可愛い……。
はっ!!! ダメだダメだ! 相手は男だ。何考えてるんだ!
少し顔を赤くし、ケイロンの方を向くと恥ずかしかったのか顔を赤くして俯いている。
恥ずかしいなら、やるなよ……可愛かったけどさ。
「コホン。どうやらケイロン殿はお疲れのようだ」
「つ、疲れてないよ?! 」
「今度、お金が溜まり時間が取れたらどこか療養へ連れて行く必要がありそうだ」
「病人でもないよ?! 」
「……頑張りすぎるな」
そう言い俺は「違うってば~」と言っているケイロンの肩をポンと叩いた。
「で、猫の特徴は白に茶色のブチ。絵を見せてもらったけど、可愛いかったね! 」
「確かに特徴的な猫ではある、な。可愛いかはわからないが」
「ええ~可愛いよ」
む~と言いながらも前を向いた。
何というか、人相、猫相? の悪い猫だった。
だが猫好きから見たら可愛いのかもしれない。
うっとりしているケイロンを見て、あの猫相を思い出し苦笑いする。
なんというか『お尋ね者! 』と言った感じの表情だった。
道中様々な猫を見かけた。
だが絵と同じ柄の猫は一匹もいなかった。
依頼主の女性曰く友人が記念にということで送ってきてくれたらしい。
それを大切に育てていたが、この前逃げてしまったと。
「しかしどうしたものか。探知系の魔法が使えたら一番楽なんだが」
「一応僕は使えるけど」
「使えるんかい……。なら初めから使ったらよかったんじゃないか? 」
「い、いやぁ、使えるだけで実の所そこまで範囲が広くないんだ。範囲に入らないと引っ掛からないし、頻繁に使うと魔力もかなり使うから最後に取っておこうかと」
「あぁ~そう言うことか」
「じゃぁもう一回探しに行こう! 」
「おう! 」
★
結果、その日のうちに探すことが出来た。
どこにいたのかというと、なんてない。
依頼主の住宅近くの家の傍で寝ていた。
周りが必死で探しているのになんてのんきなことで。
「商業ギルドに行く前に次の依頼を決めよう」
その一言で残っている依頼を探すことになった。
受付嬢や事務員以外冒険者はあまりいない。
時々依頼達成報告に来ているくらいだ。
「Fランクの依頼はまだ残ってるね」
「お、これなんかどうだ? 【パン屋の手伝い】」
面白そうな依頼を見つけ、俺達はそれを手に取る。
茶色い紙を受付に出し、受理してもらい明日向かうことを告げた。
冒険者ギルドから出た俺達は商業ギルドへ行くために商業区を歩いている。
「あの豪華な建物の所だよね」
「ああ、なんか入りずらい」
今の俺達の恰好はいかにも『冒険者』だ。
買い物に行くような恰好ではない。
と言ってもこれ以外の服装はないのだが、ここまで来て腰の剣は置いて来た方が良かったのかな? と若干後悔し始めている。
「ついたよ」
後悔しながらぼーっと歩いていたらケイロンの言葉で気付く。
目の前には白く塗装された巨大な建物が。
そこに出入りする清楚な雰囲気で清潔感溢れる事務員が出入りしていた。
「商人もいるみたいだね」
ケイロンが向いた方向を見る。
そこには少し汚れた感じの商人風の男性や何人かの冒険者を伴った商人、そして恰幅の良い商人等いた。
「なるほどね。護衛依頼が多い、というのはこんな感じなんだ」
「思ったよりも冒険者が多いな」
武装した冒険者パーティーが複数みられる。
恐らく依頼から帰ってきたのだろう。
中には商業ギルドへ入っていく冒険者も見られる。
「俺達が入っても大丈夫そうだ」
恰好を気にしていたが、それは気にし過ぎのようだ。
こうしてまだ見ぬギルド内へ入っていくのであった。
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