第四十話 銀狼の秘密 七 幽霊の正体
迸る閃光や戦闘音はかなり長い時間続いたが、結局の所自称精霊を倒すことなく終わってしまった。
お隣さんがいたのならさぞうるさかったに違いない。
すぐにでも「うるさい! 」とか「何やってんだ! 」と殴りこんで来られても仕方のないほどであった。
立地のおかげかそう言ったこともなく一方的な攻撃は収まった。
「はぁはぁはぁ、どうだ」
「アンデリックさん、その自称精霊こと高位アンデットは倒せましたか? 」
「いえ、健在です」
『だーかーら! 自称じゃなくて本当に精霊だって! あなたが触れれるのが証明よ! 』
「え? 俺? 」
自称精霊が言った言葉に俺が反応した為かガルムさんとフェルーナさんは武器を置き他の椅子に座った。
息も切れている。
相当、本腰で倒そうとしたんだな。
と、いうか何気に見たこともないヤバ気な攻撃が飛んでいたのは気のせいだろうか。
この家、宿は良く持ちこたえたな。
この中で最も頑張ったのは多分この家だろう。
『あなた、加護持ちでしょう? 誰の加護かまでは分からないけど? 』
「加護? もらった覚えがないんだけど」
『え? そうなの? 大体は時々気まぐれな精霊が気にった人に与えるんだけど……というか精霊に触れれるレベルの加護って相当高位のものよ? 何か覚えがない? 神様に祈ってたら「ぴかー」って光った、とか』
青色半透明人間が俺の周りをくるくると回っている。
俺に興味を持ったのか首をコテンと傾げながら覗き込んでいる。
それにしても、覚えがないな。
いや、もしかしたら昔あったのかもしれない。
前のデビルグリズリー戦のように忘れているだけで。
「その精霊の加護というのが無ければ見えないのか? 」
『ん~種族的に見える、というか感じ取った種族はいたわね。妖精族——つまりエルフ族やドワーフ族とか』
「……そうか。で、もし……もし本当に精霊だったとして今まで何をしてたんだ? 」
『ん~寝て、起きたら、町と家が出来てた』
クルリとそこで一回転し、あちこちを飛び回り出した。
お、お……。
寝て起きたら町が出来てた、か。
何というか、一先ずこの国が出来る前というのは分かった。
俺の目線が一か所からあちこちに移動していることでこっちの話が一区切りついたことに気が付いたのだろう。
ガルムさんが口を開く。
「あ~、なんて言ってたんだ? 」
「何か俺に『精霊の加護』とやらがついているらしく、その影響で視えたり触れるらしいです」
「でもデリクは最近まで視えたり触れたりできなかったよね」
「そもそも気付きもしなかった」
「恐らくこの前の戦闘が影響しているんじゃないのでしょうか? 魔力もその時から急激に上昇してますし」
全員が顔を合わせ、情報を共有する。
当の精霊は今フェナの尻尾に埋もれていた。
いや、埋もれているというか、えげつない透き通り方をしていた。
肉体を持たないから出来ることだろう。
「本当に精霊なら申し訳ねぇ事をしたかもな」
「ええ、流石にアンデットが精霊を騙るのは見過ごせませんでしたが、本当に精霊なら何とお詫びをしたらいいことやら」
悲しそうな顔をして二人は俯いた。
それを言いだすと俺なんか殴っている。
申し訳ないを通り越して、もう何でもいいやって感じだ。
しかし……
「あまり村では習わなかったのですが、獣人族にとって精霊はどのような扱いなのですか? 」
「あぁ……そうか。兄ちゃんの村は教会だけだったか。なら知らないのも無理はねぇ」
「と、言っても夫も私もクレア教です。エルフ族やドワーフ族のように半数以上が精霊信仰というわけでもなく、あくまでお祭りがある程度です」
『精霊信仰もクレア―テ様に祈るのも殆ど同じだけどね~』
おい、今サラっと途轍もない事が聞こえたぞ?
伝えた方がいいのか? いいのか!
少し冷や汗が流れる。
聞こえない事をいい事になんてものをぶっこんでくれたんだ、こいつ。
もうお休みタイムなのか床で寝ているフェナの尻尾から頭だけを出し、にやにやとこっちを見ている。
「なので妖精族のように過激ではありませんが、怒りは覚えます」
「ソ、ソウダッタンデスネ」
フェルーナさん達が住んでいた場所で祭りがあるということはそれなりに精霊信仰があるのだろう。
実際に俺達の村でも豊穣の神様を祭る行事はある。
行事はあれど、その信仰の度合いは妖精族ほどではない、と。
しかし……さっきの攻撃はかなり過激だったと思うのは俺だけだろうか?
ケイロンに同意を求める為横を見るが、彼も少しウトウトしている。
話は殆ど聞こえていないようだ。
これは聞いても仕方ないな。
「ま、そう言うことだ」
そう言うとガルムさんとフェルーナさんが立ち上がり、一気に頭を下げた。
「「申し訳ありませんでした」」
『いいってことよ~。私はそこまで狭量じゃないわ! 許してしんぜよう』
二人が謝ると機嫌よく胸を張りながら許した。
何か物凄く上から目線。
しかし体が小さいためか、どこか微笑ましい。
が、そうか。
本来は崇められる方の存在なのだ。
視えたり聞こえたりできるせいで『特別』とは感じないが、特別な存在なのだ。
あれ? 俺ってもしかして物凄く失礼なことしてないか?
「ではこれでお開きとしましょう」
「明日から仕事再開なんだろ? 疲れを残しちゃぁいけねぇ。体調管理も十分冒険者の仕事だ」
「彼の事は私に任せてください。後で部屋に送っておきますから」
「ありがとうございます。ではこれで」
二人にそう言われ首をカクンカクンとしているケイロンや完全に寝ているフェナを置いた部屋に戻った。
★
「……で、なんでいるんだ? 」
『ええー久しぶりに視える人に会えたのよ。いいじゃない、少しくらいお話ししましょうよ』
布を被り寝ようとすると、目の前に半透明少女がいた。
ケイロンは物が勝手に動いてビビったんだろうが、これはこれで恐ろしい光景だ。
月明かりが差し込み、その異様さが際立つ。
「明日は仕事なんだ。休ませてくれ」
『仕事って何? 』
「……冒険者だ」
『え? あの組織まだ続いてたの? 』
「昔からあるのか? 」
『あったわよ。ここがまだ森だった頃から。その時はまだ邪神が暴れた後だったからモンスター行き交う魔境だったけどね』
とんでも話を聞きながらも俺はウトウトし始めた。
疲れたのだ。
休ませてくれ。
『おーい、聞こえてますか。今なら生物が知らない昔話をしてあげますよー』
う、うるさい……。
眠れない。
精霊は俺と話そうとするが、必死に寝ようとする。
『おーい、起きてください~』
お、おい。
髪を引っ張るな!
「というか何で俺に触れる!!! 」
『当たり前でしょう! あんたが私に触れるということは私もあんたに触れるってことよ! 』
「聞いてねぇ……、そんなこと」
『少し考えればわかる事でしょう……』
「頼む、今日は休ませてくれ……」
『仕方ないわねー。あ、そうだ。あんた名前は? 』
「……アンデリックだ」
『私は『時の精霊王』様直属の眷属にして『時の精霊』、トッキーって呼んでね』
「誰が呼ぶか!!! 」
こうして慌ただしい日々に拍車がかかるのだった。
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