表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/442

第三十九話 銀狼の秘密 六 事の顛末

 俺達は今『銀狼』の一階に集まっていた。

 メンバーは俺とケイロン、ガルムさんとフェルーナさんそしてフェナであった。

 加えて俺の周りを飛び()う半透明の青い小人のようなそれがいる。


 『ねぇねぇ、何深刻(しんこく)そうな顔してんのよ』


 あんたのせいで深刻(しんこく)そうな話になってんだ。

 少し自重(じちょう)しろ。


 『ねぇあんた私の事見えてるんでしょう? ちょっとこっちを見なさいよ! 』


 (ひじ)を机につき、両手を組んだ状態で飛び()う『それ』に冷ややかな目を向ける。

 というか(みんな)見えていない、いや声も聞こえていないのか?

 完全に小人の声を無視状態だ。


 フェルーナさんが()(けっ)したように金色の瞳をこちらに向け口を開く。

 そして事の顛末(てんまつ)を聞いた。


「この物件で宿を始め少し経ってからです。奇妙(きみょう)なことが起こり始めたのは」


 そうフェルーナさんが言うと隣でフェナがぶるぶると震えている。

 そしてその前で透けた小人がフェナの周りをぐるぐると回っていた。


「はじめは音だけでした」

「ふむ」

「それくらいなら大丈夫かなと思ったのですが、どんどんと(ひど)くなり最終的には今日のようにものが浮いたりするようになって」

『いやぁどんどん面白くなって、テヘ』

「いやテヘじゃねぇよ!!! 」


 小人の声にツッコミを入れると「ひぃ! 」という声が隣からした。

 ケイロンがまだ震えている。

 ゴーストが苦手なのか? いやしかし依頼によってはゴースト――アンデット討伐もあるから怖がってたら大変なことになりそうなのだが。

 ま、まぁ今の所はいいか。話を進めよう。


「それで市場(いちば)の人達は吃驚(びっくり)してたんですね」

「はい。後から聞いた話によると町でも有名な幽霊屋敷だったらしく」

「確かに安いとは思ったんだがな」

 

 そこで疑おう、ガルムさん。

 いやぁ予想外、みたいな顔をしてももう遅いですからね。


「アンデット退治なら何度もしてるのでどうにかなると思ったのですが」

「え? アンデットじゃないんですか? 」

「それが分からないのです。ゴースト、レイスのような『死神の輪廻(りんね)』から外れたような存在なら幾度(いくど)となく倒したのですが」

「ま、見えない相手じゃどうもならんよな。ハハハ」

『なんて(ひど)い人達なの?! そんな(よこし)な存在じゃないわよ?! 』


 (ひど)く傷ついたような表情を浮かべ、少し後退(あとずさ)る小人。

 なら何なんだよ、お前は。

 何か特殊能力付きのモンスターにしか見えないぞ?


「しかしアンデリックさんは……視えているのですか? 」

「視えてるし、聞こえてますね……」

刮目(かつもく)しなさい! そして(あが)めなさい! 』

「誰が(あが)めるか!!! 」


 女性の姿をした小人があまりにも(えら)そうにするから、一人虚空(こくう)に向かってツッコミを入れてしまった。

 (みんな)が俺を見る目線が痛い。

 今の俺は多分不審者そのものだろう。

 不本意だが。


『そもそもここに住んでたのは私が最初よ? そこに入ってきて何様(なにさま)のつもり? それに不浄(ふじょう)なアンデットと間違えるなんて失礼にもほどがあるわ! 』

「なら何なんだお前は」


 憤慨(ふんがい)した様子を隠しもせず、顔をぷいっと向ける。

 しかし心なしか嬉しそうだ。

 言葉に返事がもらえるのが嬉しいのだろうか。


 俺が話が出来ることを知ってなのか、元々そうなのかわからないが物凄くテンションが高い。そして尊大(そんだい)だ。

 この感じどこかで……。

 あ、フェナか。見たことある感じだと思えば、あそこで震えているフェナの態度に似てるんだ。

 

 『いい事! 私は――精霊よ!!! 』


 ……。今なんて言った?


 ★


 全員落ち着いたことでフェルーナさんが一旦(いったん)水を持ってきてくれた。

 夜に起きたせいか、それとも動いたせいか(のど)(かわ)く。

 いや、わかっているんだ。

 (のど)(かわ)いている本当の理由が。


「フェルーナさん、ガルムさん。この……今までいたずらしてた小人なんですが」

「はい」

「おう、どうした? 」


 水を一口飲み、ゆっくりと(うつわ)を置く。

 残った水に波紋(はもん)が出来る。

 この事実を、いや小人の世迷言(よまいごと)の可能性もあるが、伝えるべきか。

 言いかけた途中で、少し考える。


「何もったいぶってんだ? 」

「正体が分かれば討伐できるかもしれません。教えてください」

「「……」」


 ガルムさんとフェルーナさんは本気で討伐するつもりのようだ。

 フェナの方を見ると丸くなっていた。尻尾(しっぽ)が体を包み、毛玉(けだま)のようだ。

 そして声を聞かなくなったと思い、隣を見るとケイロンは『無』の状態であった。

 恐怖を超え、また別次元へ旅立ってしまったようだ。


「では失礼して。この浮いてる小人は自分の事を精霊と言っています」

『ちょ、なによ! 本当の事よ! 疑ってんの?! 』

「「……」」


 俺が小人の言葉を伝えると同時に疑っていると思った彼女が抗議をしてくる。

 正直(うるさ)いがその反面(はんめん)ガルムさんとフェルーナさんが無表情で受付台の向こう側にある扉を潜り、出ていってしまった。


 そしてガルムさんは大剣を、フェルーナさんは(ロッド)を持ってきて構えた。

 え? 何??? 俺まずいこと言った?!

 威圧感が半端(はんぱ)ないんですけど!


「アンデリックさん。精霊を(うた)不届(ふとど)きなアンデットはどこでしょうか? 」

「兄ちゃんよ、そいつぁいただけねぇ。会話出来ることからかなり強大なアンデットだ。それに加え精霊と(うそ)ぶるアンデットの話を聞くわけには行けねぇ。場所を教えな。見えなくても場所が分かれば討伐できる」

『ちょ、なにこの人達。目がマジなんですけど! それのアンデットじゃないんですけど!!! というか教えないよね? この状況で私を捨てないよね?! 』

「あっちです……」

「「せぇぇぇいやぁぁぁぁぁ!!! 」」


 二人の本気度に危機感を(おぼ)えたのか後退(あとずさ)自称(じしょう)精霊。

 閃光(せんこう)と斬撃が飛び()う中、目を()ましたケイロンと危機を察知(さっち)したフェナを(かか)(すみ)の方へ行き、事が()むまで待つのであった。

 ま、本当であれ嘘であれ面白くなってこの宿の人達に害を与えたのは違いない。

 攻撃音がする方向から『止めてよぉぉぉ』と懇願(こんがん)する声を無視して、残りの水を飲みながら様子を鑑賞(かんしょう)するのであった。

お読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたらブックマークへの登録や下段にある★評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しく始めた異世界転生ものになります!
ハズレ枠の転生貧乏貴族は武姫を継承し最強へ至る
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ