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9 非リア充 剣を交わす の巻

 ライバル登場!?

 いや、多分そんなことはない。

 ガキン。ガキン。と音をたてながら剣と剣が交わる。刃は潰してあるので相手を切ってしまう心配はない筈だが、勢いだけで骨を断ち切ってしまいそうな程に剣撃は鋭い。

 オレはそんな覇気を飛ばし合う騎士達の訓練を横目に、鎧を着たいやに張り切ったオッサンの話を聞き流していた。

 今日は王国騎士軍団の訓練所にお邪魔しています。そうなんです。遂に戦闘訓練をすることになったんです。もちろんロクロウさんの授業と同時進行である。スケジュールはよりハードに。

 王国騎士軍団は国内の治安維持が主な仕事。通称騎士団。各地方ごとに騎士団があって、本部がそれを統括すると同時に王都シットーの治安を守っているんだとか。地方騎士団は各町村にある駐在所などをまとめている。日本でいう警察みたいなものだ。

 ちなみに現在の王国騎士軍団と王立騎士隊は仲が悪いことで知られている。どちらも子供に人気の職業なのだが、子供がそれを知ったら幻滅するくらいには大人げなく仲が悪い。道で出会うとわざわざ近づいてからプイッとそっぽを向くレベル。幼稚園児でもそんなことしない。

 実はこれは両方のトップ同士が仲が悪いことに起因している。お互い同郷の幼馴染みでライバルなんだとか。本当は仲が良いけどただ素直になれないだけのことを周りの人は知っている。

 何でオレがこんなことを知ってるのかだって? メイドさんに聞いたのだ。彼女らの情報網は王国一なのだ。もちろんタダという訳にはいかないので、勇者関係の情報はオレがソースになっている。あの二人、見目は良いから情報が高く売れるのだ。

 おや、オッサンの長い話がようやく終わったようだ。


「……という訳で王国騎士軍団は王立騎士隊よりも強くて格好良くて凄いのだ。だからお前達には騎士団流の戦い方を教えてやる。勇者だろうが魔王だろうが、教えるからには厳しくするから覚悟しておけ!」


 オッサンはドドンと効果音をつけながら宣言した。

 いや、魔王に教えたら駄目でしょ。まったく、締まらないなあ。


「だがその前に。お前達に相応しい武器を選んでやる。知らないかもしれないが、わたしの様に一流の戦士は人を見ただけでその人に適した武器が分かるのだ」


 なんか何処かの職人と同じようなことを言ってる。ごめんオッサン、知ってたよ。

 オッサンはオレ達をじいと食い入るように見つめた。お触りはなしのようだ。あってたまるか。


「ふむ。ナカワギはレイピアだな。タナカはブロードソードが適している。オダケンは……ううむ」


 ありゃりゃ、ガンコウさんと違うぞ? もしかして適当に言った? 信用出来ない。いや、ガンコウさんの判断も充分に怪しいからなあ。どっちもどっちだなあ。

 そして、やっぱりオレは悩むんだね。ああ、嫌な予感。


「とりあえずチャクラムとか?」


 ブルータス、お前もか!?

 ほうらやっぱりね、としか言いようがない。とりあえずビールみたいなノリで言われてもねえ。そんなにオレにチャクラムを使わせたいの? それともオレから隠しきれないチャクラム感でも溢れ出てんの? オレは焼け野原ひろしを目指すの? 確かに炎属性魔法は得意だけどさあ……。

 隣で彼方くんが吹き出してたから、足を踏んづけてやった。


「チャクラムは専門ではないので教えられんが……別に剣術を覚えておいて損はないと思うぞ。レイピアとブロードソード、好きな方を選べ」


 いや、チャクラム教えてくれないのかよ! 言うだけ言っておいてそりゃないよ。

 どっちかだったらレイピアかな。重いの持ちたくないし。


「それでは訓練を始める。レイピアは刺突。ブロードソードは斬撃。それぞれ用途は違うが、どちらも基本である素振りが大事なのだ。騎士隊のように小賢しい方法で生き延びるのではなく、自分の全てを剣に預ける。自分の命の最後の一片まで使って敵を倒す。それが騎士団流剣術だ」


 オッサンの言う騎士隊の剣術というのは、とにかく生き延びることを第一に考えたものだ。場合によっては相手に剣を投げつけたりもする。剣術と言ってもそれの教本やマニュアルはないので、騎士隊の人は我流が多い。

 このことは実際に騎士隊の人達から教えてもらった。というのも社会科見学以来、チームプレデターの皆さんが手土産持参でちょくちょく遊びに来てくれるのだ。その時に武器の使い方とかを教えてくれたりするので、オレ達は全くのド素人という訳ではない。


「それでは、それぞれのフォームを教えたら各自素振り二百本五セット。異論は認めん! 剣は振った数だけ強くなるのだ! 振って振って振りまくれ!」


 うっそーん。千本? 初心者にさせる本数じゃないよねえ? 一体何の怨みがあって……!


「話は聞いている。お前ら、既に憎き騎士隊の奴らから剣を教わっているらしいじゃないか。わたしがその腐った剣を矯正……いや、打ち直してやる!」


 バリバリ私怨だったー!



「ひゃくきゅうじゅうろく……ひゃくきゅうじゅうしち……」


 ぜい……ぜい……。あと少し……。ちくせう。絶対後で覚えてろよ、オッサン。


「ひゃくきゅうじゅうはち……ひゃくきゅうじゅうきゅう……にひゃく!」


 終わったああああああ! もう無理! 腕が上がらない!

 オレは地面に大の字に寝転がった。全身の汗が重力に引かれ落ちていく。水も滴る良い……なんてね。

 まさか後半からおもりをつけるなんて聞いてない。もう腕が鉛のようになっていたというのに、それ以上鉛を増やすな。ラスト百本は麻痺したのか感覚がなかった。オレ騎士団嫌い、騎士隊好き。


「オダケンくん、ポーションをどうぞ」

「あ……あり……がはっ!」

「無理してお礼を言わなくても良いですよ」


 一足先に終わっていた奈川木がポーションを差し出してくれた。オレはそれを死に体で受け取り、ゆっくりと嚥下する。ポーションのイッキ飲みは急性の中毒になる危険性があるのだ。お酒と同じ。

 イッキ駄目、絶対。

 彼方くんはまだ振っている。オレ達はレイピアだったからまだ良かったが、ブロードソードは地獄だろう。汗の量が尋常じゃない。


「二百……! ダラアアアアァァァァ!」


 彼方くんが振り終わり、オレと同じように崩れ落ちた。

 奈川木がポーションを持って駆け寄る。これこれ待ちなさい、お嬢さん。オレがロクロウさん仕込みの回復魔法をかけてやろう。

 聖属性魔法は治癒や、不死系や悪霊系魔物に効果的な浄化などが大半なのだ。

 奈川木は依然と心配そうな目でオレと彼方くんを見ている。

 信用ないなあ。そりゃあ成功率は六割だし、まだ初心者だし。でも失敗しても経験は得られるから、そう簡単にオレは落ち込まないよ。え、そっちの心配じゃない?

 オレはむんむんと唸りながら彼方くんに手をかざした。別にいちいち魔法を使うのに詠唱とかは必要ない。だから適当に言葉を紡ぐ。雰囲気が大事


「テクマクマヤコンテクマクマヤコン彼方くんを治癒したいチチンプイプイのビビディバビディブー!」

「あれ、疲れが……とれた?」


 不思議そうな表情で彼方くんが起き上がった。

 流石オレ、効果抜群。ちなみにオレの治癒魔法は疲労回復、肩凝り、腰痛、冷え症に効果があります。美肌効果はない。温泉じゃないんだから。


「すまん。助かったぜ、オダケン」

「どーいたまして」

「どういたしまして、ですよ」

「そうとも言う」


 オレ達が嵐を呼ぶ園児的な談笑をしていると、三人組の男女が近づいてきた。あまり友好的な雰囲気ではない。

 よし、無視しよう。彼方くんもあからさまに目を背けている。


「フン、貴様等が噂の勇者様というやつか。どんな強者かと思って来てみれば、ろくに剣も触れない一般人ではないか。失笑ものだな。フハハハハ!」


 うわあ、嫌な奴。どうせ噛ませ犬だ。丸かいてフォイだ。無視だ。


「あの、どちら様でしょうか?」


 ああ、駄目じゃないか奈川木。せっかく無視していたのに。


「何! この俺様の名をしらな…………も、申し遅れた。わたしの名はアテューマ・ワンバイト。ワンバイト家次期当主、そして騎士団期待の新星(ルーキー)です。後ろの者はわたしの忠実な従者です。以後お見知りおきを、淑女(レディ)?」

「誰がお前の従者だ! 嘘をつくな! そして誰が期待のルーキーだ! まだ訓練生だろうが!」

「あ~またやってるよあの二人。騒いでごめんね~。ボクが代わりに謝るよ~。そしてよろしくね~」

「は、はあ。宜しくお願いします……」


 何だこの漫才集団。噛ませ犬とツッコミとボクっ娘。カオスだな。

 奈川木が三人の勢いに圧倒され戸惑っている。そして噛ませ犬がその奈川木を何度もチラチラと気色悪……ははん。これはほの字のほーちゃんってやつか。


「お騒がせして申し訳ない。こいつは只の阿呆でしてね。気にしないでいただきたい。出来れば貴女のお名前を伺ってもよろしいですか?」

「誰が阿呆だ!」

「えっと、奈川木若菜です」

「ナカワギワカナ様……美しい名前ですね」

「あ、ちなみにオレはオダケンで、こっちがビヨンド・ザ・ネバーエ」

「貴様には聞いていない」


 性格最悪ぅ! やっぱりオレは騎士団嫌いだ。

 その後も噛ませ犬は奈川木に親しげに話しかける。奈川木も奈川木で邪険に扱えないのか、いちいち丁寧に対応をしている。

 ふと隣を見ると、彼方くんが物凄く機嫌を悪そうにしていた。時折、奈川木ににじり寄っている噛ませ犬を睨んでいる。おやあ、嫉妬ですかい?

 噛ませ犬は当て馬でもあったようだ。でもこのままだと彼方くんが噛みつきそう。


「ねえねえ、ボクちゃん。なんであいつあんなに偉そうなの?」

「ボクちゃん? あ~ボクの事か~。アテューマはね~、馬鹿なの」

「ボンボンで、親の七光りで、どら息子ってこと?」

「あながち間違いではないけど、酷い言い様だな~」

「オレ、あいつ、嫌い」

「あらら~。納得~」


 ボクちゃんは遠い目をしていた。噛ませ犬の人間関係で二次的被害を被っているのだろうか。

 ツッコミくんは噛ませ犬の背後から文句をぶつけているが、当の噛ませ犬は聞く耳を持っておらず奈川木に夢中だ。


「そうだ。わたしがワカナ殿に剣をお教えしましょうか?」

「え……いや、あの」

「はは。そう遠慮なさらずに」

「遠慮じゃねぇ。さっきから奈川木はお前に迷惑してるんだよ。そんな事も気づかねぇのか、馬鹿野郎」

「この俺様に馬鹿野郎……だと!? いいだろう。その喧嘩、言い値で買ってやる。決闘だ!」

「上等だ、この野郎!」


 わお、いつの間にか剣呑な雰囲気に。しかも決闘だって? ドキドキワクワク。


「おい、お前ら! 勝手な決闘は規律で禁止されているはずだぞ!」

「決闘なんて危険です! 駄目ですよ!」

「俺様は訓練生だから、騎士団の掟はまだ当てはまらない!」

「奈川木、男ってのは売られた喧嘩から逃げちゃいけねぇんだよ!」


 二人はがんを飛ばし合っている。


「あらら~。二人を止めないと~」

「えー。面白そうだしほっとこうよ」

「君って顔に似合わず、結構あざとい性格をしてるよね~?」

「いやあ、照れます照れます照れますねえ。そんなこと言われると照れますよう」

「誉めてないよ~」

 次回、噛ませ犬死す!?

 いや、まだ人の生き死にが出る予定はない。

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