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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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カナの思念

「……殿下」


エリアスが静かに呼びかけた。


「何だ……っ」


かすれた返事とともに、レイナルトは顔を上げた。

涙の跡が残る頬を、夜気がひやりと撫でる。


「……何かあったのか」


「……はい。

たった今――水の精霊王、ナイアリス様から声が届きました」


「……なっ! 水の精霊王様だと!」


驚愕と希望が一瞬、レイナルトの瞳に灯る。

しかし、その光はすぐに揺らぎ、不安の影が覆いかぶさった。


エリアスは息を整え、淡々と告げた。


「カナは、闇の刃に胸を貫かれた衝撃で、思念がこの場を離れています。

彼女が“戻りたい”と願わなければ……目を覚ますことはない、と。

そして――彼女が生きる理由を、心の底から思い出させなければ、二度と戻れないと」


エリアスは一歩踏み出し、強く言った。


「カナの思念は、深い闇の中にあります。

……ですが、呼び戻す方法はある。思念が迷う場所に、私たちの声を届けるんです。

ただ呼ぶだけでは駄目なのです。彼女が生きる理由を、心の底から思い出させよと」


レイナルトの胸の奥に言葉が突き刺さり、刃のようにえぐった。

思わず、腕に力がこもる。

彼は呼吸を忘れたように絶句した。心臓の鼓動だけが耳の奥で重く響く。


戻りたいと思わなければ、何だと――?

そんなはずがない。あの笑顔が、声が、この世界から失われるなど……許せるはずがない。


「……そんなこと……」


沈黙が二人を包む。

やがて、レイナルトの瞳に強い光が戻った。


「……ならば、やるしかない……」


「……殿下」


低く、しかし確かな声でエリアスが呼びかける。


「……まずは、村に戻りましょう」


エリアスの促しに、レイナルトは黙って頷いた。


レイナルトは、腕の中の小さな体を抱え直す。

カナの顔は不思議なほど穏やかで、ただ深い眠りに落ちているだけのように見えた。


しかし――その温もりが、いつか手の中からふっと消えてしまうかもしれないという恐怖が、レイナルトの胸を締めつける。


彼は歯を食いしばり、カナをしっかりと抱き上げると、歩き出した。

足音が乾いた地面に重く響き、遠くで風がざわめく。

その一歩ごとに、彼の中で決意が固まっていく。


――どんなことをしてでも、彼女をこの世界に繋ぎ止める。





長い沈黙の末、彼らはようやく村の入り口に辿り着いた。

埃にまみれた旅装のレイナルトが腕に抱えているのは、深く眠るカナ。

その姿を見つけた瞬間――


「カナっ……!」


大きな声と共に、エダンとマリナが村の中から飛び出してきた。

レイナルトは立ち止まり、腕の中の少女を守るように身を少し傾ける。

その横で、エリアスが静かに耳打ちした。


「この村でカナを保護してくれていた、村長夫妻です」


レイナルトは短く頷き、二人に向き直る。


「私は、ここにいるエリアスの上官で……レイ、という。

カナは無事だ。

すまないが……中に入っても構わないだろうか?」


エダンとマリナは驚きで目を見開く。

流れる金色の髪、深い蒼の瞳。

二人は、絵姿でレイナルトのことを知っていた。


(な、なぜ王国第一王子殿下が――!!)


しかしすぐに、二人の視線は再びカナへ――

その安らかな寝顔に不安と安堵の入り混じった表情を浮かべながら、マリナが頷いた。


「……失礼しました。どうぞ、中へ」


二人は慌ただしく家の扉を開け、レイナルトたちを迎え入れた。

秒で身バレしたレイナルト。さすがに自国の第一王子の顔は、皆さんご存じかと……。

認識阻害の眼鏡、セオから借りてくれば良かったですね、殿下。

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