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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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精霊の森、封印6

『カナ! カナ! 大丈夫……?』


シルヴィアの声が聞こえる。


「……大丈夫じゃ……ない、かも……うっ」


言葉を紡ぐ途中、胸の奥で何かがぎり、と音を立てるような痛みが走る。

呼吸が浅くなり、身体中の関節が同時に悲鳴を上げるような軋みが、全身を駆け巡った。


ナイアリスが鋭い眼差しでこちらを見つめる。


『……急いで地上へ戻ろう』


その声には、切迫感がにじんでいた。


泉の中を戻る道のりは、往きよりもはるかに長く感じられた。

視界は揺れ、冷や汗が首筋を伝い、足を踏み出すたびに身体が重く沈む。

それでもカナは、唇をきゅっと噛みしめ、一歩ずつ進んだ。


やっとのことで地上に戻る。


『カナ……』


シルヴィアの表情は、心配を隠そうとすらしない。


「……大丈夫、シルヴィア……。

ナイアリスも……本当にありがとう。

森が元に戻って……よかった……。

また……会おうね……」


息が途切れ途切れになる。

シルヴィアとナイアリスに、深く頭を下げ、何とか感謝と別れを告げる。


そして、足元を確かめながら、レイナルトとエリアスの待つ場所へと歩き出した。

一歩ごとに視界の端が暗く揺らぐが、それでもその足は止まらなかった。





森の奥から、小さな人影がゆっくりと姿を現した。

レイナルトの胸がぎゅっと締めつけられる。

その歩みは確かにカナのものだが、肩は揺れ、足取りは危うい。


エリアスもまた、無意識に息を止めていた。

カナの顔がはっきりと見えた瞬間、彼の胸の中の冷たい石のような不安が、音もなく崩れ落ちる。


「カナ!」


レイナルトはためらいもなく駆け寄った。

その腕が届く寸前、カナはふらりと身体を傾けながら、胸に抱えていた杖を差し出した。


「……レイ、ナルト、様……。

靄の浄化だけ……じゃなくて。杖のおかげで……歪みの浄化も……できました……」


そしてカナはエリアスを見る。


「もう、この森は……人々は……大丈夫、です」


その声はかすかで、吐息のように消えていく。

次の瞬間、カナの身体から力が抜け、レイナルトの胸に沈み込んだ。

彼女の頭から、花冠がこぼれ落ちた。


「カナ! カナ……っ!」


必死にその名を呼び、腕の中の温もりを確かめるように抱きしめる。

その声には、安堵と恐怖と、どうしようもない焦りが入り混じっていた。


エリアスは隣で言葉を失った。

目の前の光景が信じられなかった。

カナの閉じた瞳と、レイナルトの震える背中が、胸に重く沈み込んでいく。





レイナルトが必死に名を呼び続けるすぐそばで、エリアスは立ち尽くし、その光景を見つめていた。

安堵の直後に押し寄せる、言いようのない不安。


その胸の奥深くに、ふいに冷たい波が押し寄せた。


『聞こえるか、水の精霊の祝福を持つ者よ』


魂の底に響くような声。

その瞬間、エリアスの全身が硬直する。


「……水の精霊……」


かすれた声が、唇から零れ落ちる。


『我は水の精霊王、ナイアリス。お前に声を届ける』


澄み切った響きの奥に、深い憂いが宿っていた。


『カナは闇の刃に胸を貫かれた。彼女の思念は、今この場には無い。

彼女が戻りたいと願わぬ限り……カナは目を覚ますことはない』


その言葉が胸に沈み込むと同時に、エリアスの息が詰まる。

氷の手で心臓を握られたかのように、全身から血の気が引いていく。

傍らで、必死に抱きしめるレイナルトの声が遠のき、世界が水底のように歪んで見えた。


「……そんな……」


エリアスは、言葉にならない声を漏らした。

喉が焼けるように熱いのに、吐く息は冷たく震えている。


(――どうか、お願いだ。教えてくれ!

どうすれば……どうすればカナは戻れる?)


祈りにも似た叫びを、魂に向けて必死に問いかける。


『……彼女の思念が迷う場所に、呼び戻す声を届けるのだ。

ただし……呼ぶだけでは足りぬ。

彼女が生きる理由を、心の底から思い出させねばならぬ』


ナイアリスの声が心に響く。


『だが、急げ。

その場所は闇の深淵。長く留まれば、二度と戻れぬ』


「……わかった。絶対に……必ず呼び戻す」


エリアスの瞳に迷いはなかった。

隣では、なおもカナの名を呼び続けるレイナルトの声が、必死なまでに響いていた。

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