馬車の中で2
「……あの、これ……」
しばらく沈黙が続いた車内で、カナはそっと口を開いた。
声はまだ少し遠慮がちだったが、先ほどまでの緊張は少し和らいでいる。
カナは襟元をくつろげると、小さなペンダントを取り出した。
銀色の鎖に、淡く光る青緑の石。
風に揺れる草の先に宿る露のように、透きとおる光を湛えていた。
「このペンダント……風の精霊シルヴィアにもらったんです。
加護、だと言っていました」
エリアスは、その言葉に一瞬、まばたきすら忘れたようにペンダントを見つめた。
「……それを、“もらった”?」
「はい。精霊の森で。
王都に行くことになったと言ったら、シルヴィアがこれを……」
彼女の声が言い終わらないうちに、エリアスは静かに身を乗り出した。
「……っ、これは……!
……まさか、精霊の加護が形を成すとは……」
「え……そんなに、すごいことなんですか?」
「……精霊の加護が、“物質化”している……?
この波動、間違いない。
これは――精霊核……いや、それすら越えて……!」
ぶつぶつと呟きながら、彼は震える手でペンダントに指を伸ばしかけ、しかし途中で止めた。
「……触れても?」
「は、はい……どうぞ」
エリアスは慎重に、そっとペンダントに触れた。
「……これは、加護どころか……契約の片鱗だ。
精霊が己の核の一部を宿した証。
これを渡された時点で――君は、シルヴィアという精霊の”特別な存在”に選ばれたことになる。
……いや、ちょっと待て。
風の精霊シルヴィア、もしや風の精霊王様か!!」
エリアスの声が震える。
「……え?」
(シルヴィアが風の精霊王様?……私を、選んでくれた?)
「……しかも、“加護が形を成す”など、本来は神話の中の現象だ。
……こんなものを、こんな形で見せられるとは……」
エリアスは困惑と畏敬の入り混じった表情でペンダントを見つめ、
しばらく言葉を失っていたが、やがて、ぽつりと呟く。
「……カナさん。
あ、いや……もはやカナ様、と呼ぶべきか?
君がどれほど希少で、どれほど奇跡に近い存在か……君自身が一番知らないのだな」
エリアスは静かに続ける。
「だが、それでいいのかもしれない。驕らず、恐れず。
……精霊が君に加護を与えた理由は、その静けさの中にあるのかもしれないな」
静かな馬車の中。
窓の外で風がまた、優しくささやいた気がした。




