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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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月夜の二人

セレスタンが手元の書類を静かに閉じ、カナとレイナルト、そしてエリアスに視線を送った。


「──今日はもう遅い。皆、休みなさい」


厳格な声に、どこか温かな響きが混じる。


「エリアス、来賓室を用意させます。

今日はそこに泊まってください。

外に出るのは今夜は危険です。良いですね?」


「わかりました、学院長」


エリアスが頭を下げ、視線でカナを見やる。

彼女は少しほっとしたように、胸に花冠を抱きしめた。


その時、レイナルトが一歩前に出て、低く、しかしはっきりとした声で言った。


「カナは……私が送ろう」


セレスタンは微笑む。


「よろしくお願いします。殿下」





学院の廊下は、夜の静けさに包まれていた。

足音だけが響き、月明かりが窓から差し込む。


レイナルトは無言のまま、カナの歩幅に合わせて歩いていた。

時折、光の精霊が彼女の周りを舞うが、彼は視線を前に向けたまま、何も言わない。


(……な、なんだろう……)


カナは胸の花冠をぎゅっと抱きしめながら、隣を歩くレイナルトの横顔をちらりと見上げる。

いつもなら穏やかに話しかけてくれるのに、今日はどこか機嫌が悪そうで、思わず首をかしげた。


やがて、寮の門が見えてきたとき、レイナルトが立ち止まり、静かに息をついた。


「……カナ」


「はっ、はいっ!」


呼びかけに、カナは小さく跳ねた。

レイナルトの瞳が、月明かりを受けて揺れていた。


「……さっき……エリアスに寄りかかってただろう?」


「えっ……? あ、あれは……寝ちゃって……」


慌てるカナに、レイナルトは一瞬だけ目を閉じ、そして小さく笑った。


「……わかってる。わかってるんだ。

でも……正直、あんなの、見たくなかった」


カナがきょとんと瞬きをする。

レイナルトは一歩近づき、声を落として続けた。


「……俺は、君を誰にも触れさせたくない。

……俺だけが、君を支えたい」


カナの胸がどくんと鳴る。

月光が二人を包み、風がそっと髪を揺らした。


レイナルトはためらいながらも、手を伸ばすと彼女の肩にそっと触れ、微笑む。



「……好きなんだ、カナ……」



静かな告白が、夜の静寂の中に優しく溶けていった。

カナの顔が真っ赤に染まる。

何も言えずに、ただ花冠を抱きしめたまま、彼を見上げていた。


レイナルトはしばらく黙って、月光の下でカナを見つめていた。

その瞳には、強い決意が宿っている。


「……君がどんなに特別になっても」


低く、落ち着いた声が夜に響く。


「導き手として人々に崇められても、誰よりも近くで守るのは……俺でありたい」


彼はゆっくりと、カナの片手を取ると、その手を両手で包み込む。

彼女の手は、微かに震えていた。


「俺は君を……。

これから何があろうと、絶対に守る」


レイナルトは誓うように言うと、彼女の手を、ほんのわずかに力を込めて握りしめた。


カナの胸が熱くなり、目に熱いものが浮かんだ。

握られた手から、彼の体温がじんわりと伝わる。


ほろりと一粒、涙が頬を伝う。


「……ありがとう、ございます……殿下」


レイナルトはその言葉に柔らかく微笑み、彼女の頭に手を伸ばし、

落ちかかる前髪をそっと耳にかけてやる。


「……さあ、もう休もう。

君の無理を、俺は見たくない」


その優しい声に、カナはこくりと頷く。


そして二人は手をつないだまま、静かな月明かりの道を寮へと歩き出した。


光の精霊が二人の周りをそっと舞い、その誓いを祝福するかのように、

金色の光の粒を夜風に散らしていた。

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