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精霊たちと話せるので、転生先で聖女になりました  作者: 高梨美奈子


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隠せない想い

学院長室は静寂に包まれていた。

再び戻った一行を、魔導灯の光が静かに迎え、机の上に散らばる書類を黄金色に染めている。


セレスタンは、机の上の封書に手を置いた。


「精霊庁と王家に、正式な報告を送らなければなりませんね。

しかし、全属性を扱える可能性があることは伏せ、

今は光と、風・水が安定している段階だとだけ記します」


「賢明なご判断です」


エリアスが短く応じる。


「彼女の力が完全に顕現するのは、まだ先のようです。

それまでは徹底的に秘匿し、必要な修練を積ませるべきでしょう」


セレスタンとエリアス、レイナルトは今後の対応について話をしていたが、

ふと、カナの小さな寝息に気づく。


学院祭から続く緊張と覚醒の余韻で、カナは椅子に座ったまま、

花冠を胸に抱きしめ、眠ってしまっていた。


「……無理もない」


セレスタンが声を和らげる。


「……仕方ないなぁ」


横に座っていたエリアスが、わずかに苦笑しながら、倒れそうになったカナをそっと支えた。

そのまま彼女を自分の肩に預け、大きな手で子どもをあやすように、優しく頭をポンポンと撫でる。


その手つきには、優しさと戸惑いが入り混じっていた。


しかし次の瞬間、室内の空気がびりりと震えた。

レイナルトのほうから、ぶわっと魔力が膨れ上がり、机の上の書類がぱらぱらと舞い上がる。


彼の瞳は、無意識の感情に支配されるように揺れ、全身から膨大な魔力がじわりと溢れ出している。


「っ……レイナルト殿下?」


エリアスが驚き、振り返る。

レイナルトは一瞬だけ表情を硬くし、視線を逸らすと、低く短く答えた。


「……別に」


その言葉とは裏腹に、彼の背後で風がざわりと揺れ、隠しきれない魔力の気配が静かに漂っていた。


(ああ……そういうことか)


エリアスはその様子を見て、心の中で小さく息を吐く。

彼は、肩に眠るカナを見下ろし、ふっと苦笑を浮かべた。


「殿下、少しだけお借りしますよ。

……この子、今は誰かが支えていないと、倒れてしまいそうですから」


レイナルトは何も返さず、つと立ち上がると窓辺に向かう。

その横顔は、普段の冷静さとは違い、

どこか幼さを残した、不器用な感情がにじんでいた。


セレスタンは二人のやり取りを黙って見つめ、

やがて喉の奥でくつくつと笑みを漏らす。


「……面白いことになりそうだな」


光の精霊が舞い、カナの眠りを守るように、淡い金色の光を室内に広げていった。





学院長室に満ちていた柔らかな沈黙を、カナの小さな動きが破った。

花冠を抱きしめたまま、彼女のまぶたがぴくりと震え、はっとしたように目を開く。


「……っ……す、すみません!」


勢いよく上体を起こし、エリアスの肩から身を離したカナは、頬を真っ赤にしながら深々と頭を下げた。


「おはよう」


エリアスは笑みを浮かべて、柔らかな声で言う。


「謝ることじゃないさ。……だいぶ疲れてたんだろう?」


カナは恥ずかしそうに小さく頷く。

その仕草は、まるで小動物のようだった。


(まったく、頑張り屋なんだから)


エリアスは心の中で呟いた。


ふと、カナが顔を上げると、少し離れた場所に立つ、レイナルトの姿が目に入った。

彼はこちらに背を向け、外を見つめている。


「……あの、レイナルト殿、下……?」


声をかけようとしたが、その横顔はどこか固いように見えて、言葉が途中で止まった。

エリアスがわずかに口元を緩め、彼女に聞こえないほどの小さな声で呟く。


「……嫉妬、ってやつだな」


光の精霊がふわりと舞い、金色のきらめきがレイナルトの肩に落ちる。


「別に」


それでも彼は振り返らず、呟いたきり、静かに外を見続けていた。

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