夕刻、食堂にて
夕刻、特別寮のホール。
白いテーブルクロスの上には温かなシチューと焼きたてのパンが並び、
窓の外では、精霊が夕焼け色の光を散らして舞っていた。
カナはスプーンを手にしながら、向かいのサラとミリアを見て口を開く。
「……ねえ、“聖精霊月”って、なんなの?」
ミリアがぱちりと瞬きをし、サラが少し驚いたようにカナを見た。
「聖精霊月のことを、誰から聞いた?」
サラが静かに問う。
「レイナルト殿下が教えてくれたの。
大聖堂や精霊庁でも祝祭が開かれて、この学院でも特別な儀式が行われるんだ、って。
サラはスプーンを置き、説明を始めた。
「年に一度、月が最も澄み渡る時期――それが聖精霊月。
……あと3か月後だ。
精霊たちの力が強まり、人と精霊の絆が深まるもっとも深まる月。
王都の大聖堂や精霊庁では、三日三晩にわたって祝祭が行われる」
カナが目を丸くすると、サラは続けた。
「祝祭では、精霊たちへの祈りや、感謝の儀式が執り行われる。
大聖堂では、古代から伝わる聖歌が響き、
精霊庁では、人々が順番に祭壇の前で灯りを捧げる。
街中でも光の行列ができて、夜通し精霊への賛歌が響く……
王都がいちばん輝く時期といっていいだろうな」
ミリアが身を乗り出し、明るい声で続ける。
「学院でもね、特別な儀式があるんだよ!
“感謝の祝祷”っていって、学生みんなが精霊にお礼をするの。
庭の精霊樹に花を飾って、歌ったり祈ったりするんだよ。
精霊たちがすっごく喜んで、光が舞うんだって!」
サラが穏やかに頷く。
「カナは多分、その中心に立つことになるはず。
精霊との絆を示す……とても大切な儀式だよ」
カナは息をのんだ。
「……そんなに、すごいことなんだ……」
ミリアはにっと笑い、フルーツをカナの皿に乗せていく。
「大丈夫! カナなら絶対うまくいくよ!
精霊たちにあんなに好かれてるんだから!」
サラも穏やかな声で続ける。
「焦らなくていい。精霊はあなたを選んでいる。
その月が来たら……自然と道が開けるよ」
カナの胸に、静かな期待と少しの緊張が芽生える。
*
ミリアが続ける。
「あ、でもね、“感謝の祝祷”は夜だけ。
昼間は学院祭だよ!」
「学院祭?」
カナが尋ねると、ミリアはにっと笑う。
「そう! 学院祭!
各科、各クラスがイベントを行うの。
模擬店とかー、お化け屋敷とか。楽しいよ!」
「あ、それって……」
カナははっとする。
(文化祭だ!!)
サラが穏やかに微笑んで言う。
「ミリアと私は実行委員。
これからいろいろ詰めていくから楽しみにしてて」
カナは笑顔で頷いた。
「うん! すっごい楽しみ!」
外の夜空には、聖精霊月の訪れを告げるように、
一際大きな星がゆっくりと瞬いていた。




