レイナルト・アルセイン・ヴェルデン
レイナルト・アルセイン・ヴェルデン――ヴェルデン王国の未来を背負う、第一王子。
その幼き日々は、豪奢で煌びやかな王宮に包まれながらも、決して穏やかなものではなかった。
物心ついた時から、彼は「王位継承者」として見られ、誰もが完璧を求めた。
礼儀作法の稽古、剣術の訓練、政治や歴史の学び――遊びよりも義務が先にある日々。
王位継承者としての教育は容赦がなく、幼い心に課される責任は常に重かった。
幼子の心には重すぎる義務が課され、褒められるよりも叱責を受ける日々のほうが多かった。
遊びたいと願う声は、誰にも届かない。
笑顔で駆け回ることすら、許されない。
――そんな幼い王子にとって、唯一心の拠りどころは、王宮の奥にある静かな庭園だった。
緑が生い茂り、鳥が囀り、花が静かに揺れるその庭でだけ、彼は肩の力を抜くことができた。
庭に足を運ぶときだけは、誰もいない風と花の香りが彼を包み、息がしやすくなる。
風が頬を撫で、木漏れ日が降り注ぐとき、
ほんのわずかだが、彼は「王子」ではなく「ただの少年」に戻れる気がした。
七歳のある日――
その日はとりわけ厳しい叱責を受け、胸の奥が押し潰されそうになっていた。
人目を避けるように庭の片隅へ走り、古びた石のベンチに腰を下ろしたときだった。
ふわり――と。
夕陽に溶けるように、柔らかな金色の光が舞い降りてきた。
それは蝶よりも小さく、けれど息をのむほど美しい輝きで、彼の肩先にそっと触れた。
「……きみは、だれ?」
幼い声が、庭にかすかに響いた。
返事はない。
ただ、光はふわりと揺れ、まるで彼に微笑みかけるかのように近づいてきた。
小さく、儚く、それでいてどこか意思を宿したように漂っている。
頬にかかる風が、いつもよりやさしく感じられた。
重く張り詰めていた心が、そっと解きほぐされるように温かくなっていく――
――それからだ。
困った時、辛い時には、光が現れるようになった。
剣の稽古で傷ついた日、
ある嵐の夜、眠れずにベッドの脇で目を開けたとき、
孤独な夜に涙をこぼした日――
必ず傍らに、小さな光が浮かび、
『大丈夫』と告げるように、見守るように静かに寄り添ってくれた。
――そして時が経ち、学びの中で「精霊」という存在を知ったとき、すべてが繋がった。
この光は、きっと精霊の気配だと。
だが、声は聞こえない。
他の精霊適性者が語る囁きは、彼には届かなかった。
ただ光の気配を感じ取れるだけ――それが、レイナルトに与えられた不思議な才だった。
王族という立場上、この力を知られれば騒ぎになる。
幼心にそう悟ったレイナルトは、誰にも打ち明けず、
光が見えても表情一つ変えないように振る舞う術を覚えていった。
それでも、光は消えなかった。
むしろ成長するにつれて、その存在は一層やわらかく、温かくなっていった。
幾度も孤独を感じたとき、その小さな光が彼の心を支え、
彼を第一王子として立ち上がらせてくれた。
――そして今。
学院で、精霊樹の下で、ひとりの少女――カナと出会った。
彼女の肩に、精霊が寄り添い、光を放ち、彼女と共に息づいているのを見た瞬間、
幼いころから胸に抱いてきた光のぬくもりが、鮮烈に蘇った。
「……あの光と、同じ……」
そう思ったとき、彼の胸には抑えきれないほどの動揺と、
長い年月抱え続けてきた孤独が、静かにほどけていく感覚があった。
この少女こそ、自分が幼いころから探し続けてきた答え――
そう、レイナルトは直感したのだった。




