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特待生の使命

セレスタンは席に腰を下ろし、机の上に一枚の羊皮紙を広げた。


「さて、カナさん。あなたをこの学院に迎えた理由を、改めてお伝えしましょう」


老紳士の声は穏やかだが、言葉には確かな重みがあった。


「あなたは精霊の声を聞けるだけでなく、会話ができ、姿までも視認できるという……きわめて稀有な力を持っています。

これは、王国建国以来、ほとんど例のない才能です。

そしてそのペンダント、それは、精霊の加護が形を成したものだと聞き及んでいます。

ゆえに……王宮と精霊庁の双方が“特任”と認め、特待生してこの学院での学びを認めたのです」


カナは小さく頷く。

セレスタンは、彼女の動揺を和らげるように微笑む。


「ただし、精霊との強いつながりを持ちながらも、あなたはまだ魔力の覚醒を果たしていませんね?」


カナは思わず膝の上で手を握りしめ、小さく息を呑んだ。


「……え?……まりょく?……とは何でしょうか?」

 

まりょく、「魔力」だろうか?


セレスタンは少し目を細め、頷いた。


「いい質問ですね。魔力とは、人が持つ“精霊との橋”のようなものです。

精霊は自然の中に存在しますが、魔力を通じて初めて、その力や想いを人が引き出し、響き合うことができます。

声を聞けるあなたはすでに特別ですが、魔力を覚醒させれば、精霊とより深く繋がることができるでしょう」


セレスタンは優しく微笑んだ。


「むしろ、強い精霊親和を持つ者は、時に魔力の芽吹きが遅れることもあるのです。

焦る必要はありません。この学院で学ぶ中で、必ずあなたの魔力は目覚めるでしょう」


レイナルトが腕を組み、ゆったりと口を開いた。


「ああ。院長の言う通りだ。魔力の覚醒は自然に訪れるもの。

君は、必ず得るだろう。

私も、できる限り力になろう」


その落ち着いた声に、カナは少しだけ肩の力を抜いた。

セレスタンは頷き、羊皮紙を指で示しながら続ける。


「特任としてのあなたの使命は、精霊たちの声を正しく受け取り、王国のために伝えること。

そのための基礎知識、魔力覚醒、そして精霊との共生を学ぶ――それが、これからのあなたの課題となります」


カナは深く息を吸い、胸の奥で小さく決意を固めた。


(……わからないことばかりだけど……でも……やるしかない!)







セレスタンは机の引き出しから小さな革張りの手帳を取り出し、眼鏡越しに日程を確認した。


「さて、カナさん。入学したばかりですが、まずは学院の生活に慣れていただくことが大切です。

授業は、精霊科初等部の生徒たちと一緒に受けてもらいます」


カナは少しほっとしたように瞬きをした。


「……良かったです。

わたし、一人で特別な授業を受けるんじゃないんですね」


「ええ。基礎は仲間と共に学ぶことが最も大切です。

ただし、特任としての特別課題や個別指導は、別途時間を設けます。

王宮から派遣される専門の導師や、精霊庁の上級官も、あなたに個別指導を行う予定です」


カナは告げられる内容に息を呑む。


「はい……わかりました」 


セレスタンは穏やかに頷くと、手帳を閉じる。


「まずは明日の午前、初等部精霊科のオリエンテーションに参加していただきます。

その後、週に数回、特別授業を設定しましょう。

授業の合間に、魔力覚醒のための観察や訓練も進めてまいります」


カナは小さく頷き、胸に手を当てる。


「……はい。わたし、頑張ります」


セレスタンは柔らかく微笑むと、レイナルトに視線を向けた。


「殿下、もしよろしければ、この後カナさんに学院内を案内していただけますか」


「もちろんだ。……カナ、少し歩けるか?」


カナは一瞬、時が止まったように目を瞬かせた。


(い、今なんて?

お、王子様が……わたしを……案内、って言った……!?)


後見役になることは先ほど聞いたばかりだが、

恐れ多さと緊張で、胸の鼓動が耳に響くほど高鳴る。


「……は、はいっ……!」


声がわずかに裏返るのを、カナは必死に抑えながら返事をした。

レイナルトはその様子を面白そうに見やり、わずかに口元を緩めた。


「そんなに構えなくていい。案内するだけだ、気楽に歩こう」


「えと、あっ、は、はいっ!よろしくお願いいたしますっ!」


緊張しながら頭を下げるカナに、レイナルトは軽く微笑み、扉の方へと手を差し伸べた。

セレスタンが静かに頷き、二人を見送った。

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