目覚めの森
――ひどく、温かい光に包まれていた。
そして、その光の中で、誰かがささやいた。
『――ようやく、来てくれたのね。
……わたしの、声が……聞こえる……?』
それが“彼ら”との、最初の出会いだった。
*
地味で目立たない女子高生、それが私――深水 加奈の立ち位置だった。
高校二年、17歳、帰宅部。
成績は中の下、運動は苦手、特技は“周囲に気配を消すこと”。
友達はいる。けど、すごく仲がいいってわけでもない。
放課後は一人で本屋に寄って、家で静かに過ごすのが日課。
だから、あの日も、いつものように静かに横断歩道を渡っていた。
ただ、それだけだったはずなのに。
――キィイイイ……ッ!!
強烈なブレーキ音と、眩しすぎる光。
そして、真っ暗な闇。
私は、それきり意識を失った。
*
「……っ、う……」
目が覚めたとき、私は――見知らぬ森の中にいた。
風の音、鳥の声、ざわざわと揺れる木々のささやき。
制服のままなのに、周囲の景色はまるでゲームの中。
絵本のような幻想的な森。見たことのない動物? 虫??
「……えっ? ここ……どこ……?」
呆然と立ち上がると、手にしていたはずの通学バッグもスマホもなかった。
異常だと理解するより早く、私はひとつの“声”を聞いた。
『ようやく、来てくれた。
――ねえ、あなたには……私の声が、聞こえる?』
(え?)
「い、今……だれか、喋った……?」
『よかった、やっと会えた。ずっと、あなたを待っていたのよ』
声は、頭の中に直接響くようだった。けれど恐怖より、どこか懐かしさに近い感覚があった。
そして次の瞬間、ふわりと光が舞い、私の目の前に“それ”は現れた。
透明な羽を持ち、ふわふわと浮かぶ、小さな少女のような存在。
「……えっ?……よ、妖精……?」
『うんとね。私は風の”精霊”シルヴィア。
精霊の声を聞ける人間なんて、もう何十年ぶりなんだから!』
にこにこと笑う小さな精霊。
でも私は理解が追いつかないまま、ふらりと膝をついた。
「……どうして、こんなことに……? 私、どうしたの……?」
『あなたは“こちらの世界”に導かれたの。
理由はわからないけど、あなたの魂は、精霊たちに強く引かれてる。
たぶん――何か、大きな使命を持ってるんだと思う』
「使命……?」
異世界? 精霊? 使命?
頭が追いつかない。
それでも、目の前にいるこの存在は、確かに私の声に”応えて”くれている。
シルヴィアは言った。
『あなたにしか、私たちの声は聞こえない。
だからお願い、ここから出て、人の町へ行って。
精霊の力が、今、必要とされているの』
「……え……うん、よく分からないけど……分かった」
言われるまま、森を歩いた。
まるで見えない誰かに導かれているように、森は優しく彼女を送り出した。
そして、森を抜けた先に広がっていたのは――人の暮らす、小さな村だった。