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目覚めの森

――ひどく、温かい光に包まれていた。

そして、その光の中で、誰かがささやいた。


『――ようやく、来てくれたのね。

……わたしの、声が……聞こえる……?』


それが“彼ら”との、最初の出会いだった。





地味で目立たない女子高生、それが私――深水(ふかみ) 加奈(かな)の立ち位置だった。

高校二年、17歳、帰宅部。

成績は中の下、運動は苦手、特技は“周囲に気配を消すこと”。


友達はいる。けど、すごく仲がいいってわけでもない。

放課後は一人で本屋に寄って、家で静かに過ごすのが日課。


だから、あの日も、いつものように静かに横断歩道を渡っていた。

ただ、それだけだったはずなのに。


――キィイイイ……ッ!!


強烈なブレーキ音と、眩しすぎる光。

そして、真っ暗な闇。


私は、それきり意識を失った。





「……っ、う……」


目が覚めたとき、私は――見知らぬ森の中にいた。

風の音、鳥の声、ざわざわと揺れる木々のささやき。


制服のままなのに、周囲の景色はまるでゲームの中。

絵本のような幻想的な森。見たことのない動物? 虫??


「……えっ? ここ……どこ……?」


呆然と立ち上がると、手にしていたはずの通学バッグもスマホもなかった。


異常だと理解するより早く、私はひとつの“声”を聞いた。


『ようやく、来てくれた。

――ねえ、あなたには……私の声が、聞こえる?』


(え?)


「い、今……だれか、喋った……?」


『よかった、やっと会えた。ずっと、あなたを待っていたのよ』


声は、頭の中に直接響くようだった。けれど恐怖より、どこか懐かしさに近い感覚があった。


そして次の瞬間、ふわりと光が舞い、私の目の前に“それ”は現れた。

透明な羽を持ち、ふわふわと浮かぶ、小さな少女のような存在。


「……えっ?……よ、妖精……?」


『うんとね。私は風の”精霊”シルヴィア。

精霊の声を聞ける人間なんて、もう何十年ぶりなんだから!』


にこにこと笑う小さな精霊。

でも私は理解が追いつかないまま、ふらりと膝をついた。


「……どうして、こんなことに……? 私、どうしたの……?」


『あなたは“こちらの世界”に導かれたの。

理由はわからないけど、あなたの魂は、精霊たちに強く引かれてる。

たぶん――何か、大きな使命を持ってるんだと思う』


「使命……?」


異世界? 精霊? 使命?


頭が追いつかない。

それでも、目の前にいるこの存在は、確かに私の声に”応えて”くれている。


シルヴィアは言った。


『あなたにしか、私たちの声は聞こえない。

だからお願い、ここから出て、人の町へ行って。

精霊の力が、今、必要とされているの』


「……え……うん、よく分からないけど……分かった」


言われるまま、森を歩いた。

まるで見えない誰かに導かれているように、森は優しく彼女を送り出した。


そして、森を抜けた先に広がっていたのは――人の暮らす、小さな村だった。

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― 新着の感想 ―
 精霊と言うことで来ました。これからどうなるのか。応援しています!
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