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「だいたい、何でお前なんかがあんなところで僕を探してるんだよ」
あ。それで、私は思い出した。
流血のインパクトが強すぎて、うっかりしてたけど。
「王子先輩こそ、何でこんなところにいるんです」
「何だよ? 僕がどこにいようが、お前の知ったことじゃないだろ」
「そんなことないです。みんな、心配してますよ!」
私は王子先輩のTシャツの胸元を、がしっとつかんだ。
「坊ちゃん先輩も、ナルさんも礼子さんも委員長も、みんな心配して探してます。なんで」
そうやって、つかんだら、急に。
王子先輩が間違いなくここにいるって分かって。
夕方からずっと、不安で不安でたまらなかった気持ちが、一気にあふれでて。
私は泣きそうになった。
「離せ」
王子先輩は乱暴に私の手をもぎ離した。
「下りるぞ」
停まった駅で、私を引きずりおろす。
そのまま、何も言わないで改札を通り過ぎて、しばらく歩いて。
誰もいない市民公園のベンチに座って、ようやく。
「何だ、急に泣いたりして。あれじゃ僕が悪者みたいじゃないか。迷惑だよ。少しは考えてくれない」
と文句を言ってきた。
みたい、じゃなくて今夜のことは一から十まで王子先輩が悪いと思うんだけど。
「わけがわからないんだけど。何でお前こんなところにいるんだよ。高原はどうしたんだ。お母さんとお父さんが僕を探してるって、何」
「ですから。皆さん、心配して探してます」
私は言った。
「とにかく、連絡してくださいよ。先輩が連絡もなくいなくなっちゃったから、みんな心配してるんです」
「はあ? 何言ってるの、子供じゃあるまいし」
怪訝そうな顔をする王子先輩。
「だって。今日は礼子さんと帰るって、約束してたって」
王子先輩は、ああ、と肩をすくめた。
「いいでしょ、別に。お父さんもいたし、僕がいなくたってお母さんはちゃんと家に帰れるよ」
「だからって! それならそれで、一言くらい言ってくれないと」
「バカかお前。そんなこといちいち言わないでしょ、フツウ。大人なんだよ?」
わー、今ものすごくこの人に、大人を語られたくない。
「まったく。どうせお前が、また変な思いこみをして突っ走って、話をメチャクチャにしたんだろ。僕がせっかく組んだ段取りがメチャクチャじゃないか」
ため息をつく王子先輩。
「仕方ないな。今、高原を呼ぶから。それでお前は、高原と帰れ」
って。
「王子先輩はどうするんです? 一緒に帰らないんですか?」
「僕? 僕が一緒でもしょうがないでしょ?」
冷たい口調で言う王子先輩。
「僕は一人で適当にやるよ」
その言葉が。悲しくて。
あんなに王子先輩のことを気にして、あんなに王子先輩のことを心配していた人たちみんなの気持ちを。
先輩が踏みにじったような気がして。
私の頭の中がサッと白くなる。
そして、気が付いたら。
ペシリ。音を立てて、私は王子先輩の顔を張り飛ばしていた。
白い肌の、キレイな顔が。薄茶色の瞳が、ビックリしたように私を見る。
「そんな言い方、しないでください」
私は言った。
「みんな、心から王子先輩のことを心配して、王子先輩のことを想ってるんです。そんな、一人でもいいみたいなこと言うの、やめてください」




