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ゴギッて。いや、グゴッかな。どっちにしても、そんな音が人間の顔面からしていいのか。
「ぐおわっ」
兄貴さんがものすごい声を上げて、私の手を振りほどいた。両手で顔面を押さえる。
「あ、兄貴?」
長井さんが驚いて兄貴さんを見る。その瞬間。
ゴギョッ。
今度は、見た。横から出て来た拳が、長井さんを殴り飛ばした。
長井さんの顔からも血が噴き出る。
「い、いでえっ。目が、目が見えねえ」
「ホラ。ボケッとしてないで、今のうち」
聞き慣れた声が聞こえて、私の手を引っ張った。
「で、でも、長井さんと兄貴さんが。ち、血が」
「血が出るようにやったんじゃない。ホラ、急げって言ってるでしょ」
って。右手から外したアクセサリーのようなものをポケットに突っ込みながら、私の腕を引っ張って走っている人は。
そして、話もせずにいきなり兄貴さんと長井さんをヒドイ目に合わせた人は。
帽子を深くかぶっていて、やわらかそうな茶色の髪しか見えないけど。
この声とこのしゃべり方は、王子先輩?!
そのまま、二人で表通りに出た。
どんどん走って、駅へ。県庁所在地行きの混んだ電車に乗る。
ギュウギュウの車内で見上げると、帽子の人はやっぱり王子先輩だった。
「あの」
話しかけようとすると。
「ウルサイ。黙れ」
と不機嫌な声。
それでも、どうしても聞きたくて。
「あの。どうして、あんなことを」
「何が。ドレ」
「ドレって」
長井さんと兄貴さんをぶちのめしたことですが。
「さっきの」
と言いかけたら、斜め上方からものすごい不機嫌な目付きでにらみつけられた。
「何。仕方ないでしょう、二対一じゃコッチは不利なんだからさ。確実にやらないと、後が面倒なんだから」
そんな理由でいきなり他人を叩きのめす人、先輩だけだよ。
「何。わざわざ助けてやったのに、何が不服なの」
王子先輩の声は絶対零度。
「それとも、何。あのまま連れ込まれて、二人がかりで好き放題されたかったわけ」
連れ込まれて、って。先輩、なんか誤解してる?
「あの、王子先輩。あのお二人はですね。私を案内してくれようとして」
「どこに」
「どこって……」
ええと。
「私、王子先輩を探してたんですけど」
「はあ?! 僕?!」
王子先輩のキレイな顔がどんどん怒り顔になってく。
「何で僕を探してたら、あんなことになるわけ? だいたい、おかしいと思わなかったのかよ」
いえ、実に自然な流れだと思いましたけど。
「あのな。僕がたまたま通りかからなかったら、どうなってたと思ってるんだ?」
「ええと。どうなってたんでしょう?」
少なくとも、あの二人が顔面を負傷することだけはなかったと思うけど。
「バカ! バカだなお前は! バカだと思ってたけど、ホントにバカだな! 死ねよもう。息するな」
王子先輩があんまりバカバカ言うから、周りの人たちが怪訝そうにこっちを見た。
王子先輩は気付かず、ぷんぷん怒っている。




