6
「おい、長井。何を騒いでるんだ」
そこへ、別の男の人がやってきた。革ジャンを羽織って、ちょっと怖そうな顔の人だけど。
「兄貴。ヘンな女が急に絡んできやがってよ」
私を指さして、ぼやく長井さんという人。スミマセン、絡みたいわけではないんですが。
「何だ。また女を泣かすようなことをしたのか」
私をジロジロ見る兄貴さん。
長井さんは、とんでもないと手を横に振る。
「知らない女っすよ。なんか、人を探してるとかなんとか」
「へえ?」
兄貴さんはもう一度私を見た。
「お嬢ちゃん。一人かい?」
私はうなずいた。
「で、誰を探してるんだって?」
話を聞いてくれそうだ。良かった、いい人みたい。
「大学の先輩なんですけど。私より頭一つくらい背が高くて、お顔がむやみにキレイで、何というか歩く王子様みたいな」
「なんだ、探してるってのは男か」
兄貴さんはつまらなそうに言った。
「お嬢ちゃんの彼氏かい。やめとけ、逃げた男は追っても逆効果だ。新しい男を探した方がいいぜ」
「とんでもございません!」
ヘンなツッコミになってしまった。けど、どうして初対面の人にまで王子先輩の彼女扱いされなくてはならないのか。
やめて。頼むから、それだけはやめて。
「彼女とか彼氏とか、そういうものではございませんよ」
「ま、そういうことにしておいてもいいけどな」
兄貴さんは興味なさそうに言った。
それから、もう一度私を頭のてっぺんから足の先まで見て。
「けど、そういうことなら力になれるかもしれないぞ?」
笑いかけてくれる。
「え? 王子先輩の居場所に心当たりがあるんですか?」
身を乗り出す私。やった、やっぱり私のカンは当たるのね!
「まあ、そういうものがないでもない」
「兄貴?」
長井さんが不思議そうに兄貴さんを見上げる。
「長井。女子大生のお嬢さんがせっかくこう言ってるんだ。力になってやらなきゃ男じゃないだろうが」
そう言って、兄貴さんはニヤリと笑った。
長井さんは納得が言ったようにうなずいて、ゲーム台の上のコインをかき集め始めた。
で、そのコインを長井さんがカウンターに預けて、兄貴さんが心当たりの場所まで連れて行ってくれると言って。
私たちは三人で歩き始めた。
夜だけれど、明るい街だ。飲み屋さんとか、ドラッグストアが多い。
そんな、たくさんあるうちの、一見のドラッグストアある角を曲がって。兄貴さんは裏通りに入った。街灯が少なくなって、一気に暗くなる。表通りと違って人通りもほとんどない。
そして、いくつか見えるネオンサインや店の看板は。
HOTEL。
ご休憩。
そんな文字ばっかりで。
こ、ここは、話に聞くラブホ街というヤツでは?!
「さ、こっちだ」
兄貴さんはその一軒に向かって私の腕を引っ張った。
王子先輩の、どースーケーベー!
みんなが心配して探してるのに、やっぱりそういうことですか!
もう、許せない!
「ありがとうございました。よく分かりました」
私は二人に頭を下げた。
「そういうことでしたら、私は地道に、そこのドラッグストアで張り込みしてます。ここまで連れて来てくださって、本当にありがとうございました」
「何言ってんだ、この女。ほら、こっちだって言ってるだろう」
長井さんが私のもう片方の腕を取って、引っ張る。
「いや、さすがに私も、(ゴニョゴニョ)な現場に直接踏み入るのはチョット」
王子先輩の恋人でも何でもないわけだし。
そういう生々しい場面を目撃するのは、清純な乙女としてどうかと。
「兄貴が慰めてくれてるって言ってんだ、おとなしく言うこと聞けよ、このアマ」
はあ?
それはどういう……と聞こうとした時。
「ああ。やっぱりそういうこと」
少し後ろの方から、聞いたことのある声がした。
「ああん?! 誰だ」
長井さんが凄みをきかせて振り返る。
それと、ほとんど同時に。
兄貴さんの顔面で、ゴギッというような鈍い音がした。




