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また別の日。五限目の講義が終わった後、次の教室へ移動している途中で王子先輩にばったり会った。
「ああ、クズひま。いいところに」
優しげな笑顔を浮かべて、近付いてくる。王子先輩の必殺・外面!
柔和な顔、白い肌、やわらかそうな茶髪。これにみんな、だまされるんだよなあ。
「はい。これ、あげる」
なんか、おっきい可愛いラッピングの包みを渡された。
「え。何ですか、これ」
不審丸出しの目で先輩を見ると。
「プレゼント」
とにこやかに言う。
何ソレ。時限爆弾でも入ってるんじゃないでしょうね。
「あ。講義終わったら、いつものところでね。待ってるから」
つまり、いつものスタジオで今日も地獄のダンスレッスンだと。
私がげんなりしている間に、先輩は手を振って行ってしまった。
「ちょっと! やっぱり王子先輩、アンタに気があるんじゃない?」
横にいた、麻美ちゃんが食いついてきた。
あれ、この前私のことを「大キライ」とか言いやがった男だよ?
「やだー、ねえ? 何が入ってるの?」
中味を見たがる麻美ちゃん。その好奇心満々の目に負けて、仕方なく開封してみた。
入っていたのは、人気のぬいぐるみ。大きくて、フツウにカワイイ。
「わー! いいなあ! ヒマワリもこれ好きって言ってたもんね!」
盛り上がる麻美ちゃん。まあ、嫌いではないけどさ。
「アレ? なんかカードが入ってるよ」
ぬいぐるみの下にはさまっていた小さなメッセージカードを指して、麻美ちゃんが言った。目ざといなあ。
「何? 何? 愛の告白??」
イヤ、それはないから。
うーん、見ないで捨てたい。イヤな予感しかしない。
しかし麻美ちゃんは横で期待している。開かないのもヘンなので、仕方なく中を開けてみた。
「クズひまへ。家で捨てるとお母さんに怒られるから、お前捨てとけ」(署名なし)
何、コレ……。
私は廃品回収業者かっ!! 自分で捨てろ!!
私の怒りゲージが急上昇したが。
しかし落ち着いて考えてみると、王子先輩はヒドいけどこのぬいぐるみに罪があるわけではない。
可愛いし、捨てるのもカワイソウだ。仕方ないから家に持って帰ろう。
麻美ちゃんはカードの中身を見たがったが、世の中には知らない方がいい真実もある。
「王子先輩が、捨ててくれと言っている」
という大意だけ伝えて、カード本体はごみに捨てた。
麻美ちゃんは私がカードを捨てるのを見て驚愕していたが、私としてはアレを見せた時に彼女に説明せねばならない膨大なコトガラを考えただけで頭がクラクラするのである。
「でも、こんなに可愛いのに、どうして捨てたいのかなあ」
最後に麻美ちゃんはそう呟いていたが、そんな理由知らん。
どうせ、王子先輩のことだからろくでもない理由なのだろうし。
「お、久住さん。帰りか?」
坊ちゃん先輩とすれ違った。
「って、何だ? 何でそのヌイグルミがここに?!」
私の腕の中のぬいぐるみを見て、何故か異様に驚く坊ちゃん先輩。
あ。なんかイヤな予感がMAX値に。
「高原先輩。このヌイグルミについて何かご存知なんですか?」
「あ、イヤ。ヌイグルミ違いかも知れんのだが」
途端に坊ちゃん先輩の歯切れが悪くなった。
「その、な。坪田のヤツが、付き合ってる女からもらって、速攻でゴミ箱に放り込もうとしていたヤツと似てるなあ……と思って」
やっぱ、時限爆弾だったあーーー!!!
なんてモンを私に寄越すのよ、あの男は!!!
「その女の人って。この前のモモさんですか?」
またあの人に怒られるのは勘弁してもらいたい。
「いや」
坊ちゃん先輩は目をそらした。
「多分、別の女性だ」
何人彼女がいるんだ、あのタラシ!!!
彼女全員集めて、ホントはマザコンってバラしてやりたいわ!
そして、何でそういう危険物をわざわざ私に処理させようとするのよ!!
わざとやってるのかあああ?!
私は。気付けば、ぬいぐるみをものすごい勢いで手近なゴミ箱に向けて投げつけていた。
正確なコントロールでゴミ箱に叩きこまれたぬいぐるみは、さかさまになって一瞬私を悲しげに見つめ、そのまま中に落っこちていった。
ごめんよ、ぬいぐるみ。恨むなら、あの男を恨んでくれ。
迷惑しか垂れ流さん、あの笑顔の眩しいニセ王子様を。
合掌。




