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さて、今日も今日とてダンス特訓。
夜中近くまで罵られ、蹴飛ばされ、足を踏まれてぶっ続けで踊り続ける。この拷問に何の意味があるのか、もう近頃は考えるのも面倒になってきた。
そんなある夜のこと。
いつもどおり王子先輩に送られて、家の近くの路地を歩いていた私は、ぼーっとしたあまりそこに立っていた人にぶつかりそうになってしまった。
「あ、ゴメンナサイ! 気が付かなくて」
色白の、儚げな雰囲気のその女性は、いいのよと言うように私に微笑みかけてくれた。
「ホントにスミマセン。ちょっと、フラフラしてまして」
もう一度、深く頭を下げる。誰のせいとは言わないけどさ。
相手の人はニコニコしている。いい人だなあ。
「あの。こんな夜道で何をやってらっしゃるんですか? 私が言うのもなんですが、ここ、暗くて危ないですよ?」
聞いてみる。この人は結構美人だし、危険も多かろう。
「大丈夫」
彼女は微笑んだまま言った。
「彼に……会うから」
「あっ、そうですかあ」
テヘへ、と笑う。待ち合わせだったのか。野暮なことを聞いてしまった。
「じゃ、お気をつけて。ホントに、失礼いたしましたー!」
頭を下げて、にこやかに別れを告げる。
あの地獄の特訓の後に、こんなさわやかな出会いがあろうとは。
先を歩いていた王子先輩に、小走りで追いつくと。
「イヤ……お前、何やってるの?」
先輩が、何だかおかしなものを見る目で私を見てくる。何?
「ハイ? ご覧になってたでしょう? 今、私、そこにいた女の方にぶつかりそうになって」
「そこって……ドコ……」
王子先輩は私の後ろの方にぼんやりとした視線を送り。
「何を言い出すんだよ?! 誰もいないよ!」
と怒りだした。
「ええ? 何言ってるんですかあもう、からかわないでくださいよ」
まったくもう。手口が古いというか、コントじゃあるまいし。
「怖がらせようとかしてもダメですよ。ほら、そこに」
振り返ると。
誰もいない。
「アラ。いませんね?」
「いないよ! 最初から一貫して!」
んー。でも、確かにいたんだけどなあ。
「あ! あのヒトが待ってた彼氏さんが迎えに来た?」
「誰も来てないよ! ヤメロ、わけのわからないことを口走るのは!」
まあ、王子先輩が私に全否定なのはいつものことだから良いとして。
けど、これはもしかして。
私は、無人の路地を眺めながらつぶやいた。
「おかしいなあ。あんなにハッキリ見えたのに。見えない方のヒトだったのかあ」
「何だソレは?! 頼むからこれ以上わけのわからないことを言うのはやめてくれ!」
王子先輩が大声を出す。夜中に何を騒いでるんだ、この人は。
「ご存知ないんですか? この世には、誰からも見えるヒトと、一部のヒトにしか見えないヒトの、二種類のヒトがいるんです」
説明すると。
「って何だ! 一部のヒトからしか見えないヒトって!」
だから。今言ったじゃん。
それ以上、説明しようがないんだけど。
「一部のヒトからしか見えない方々は、ヒトから無視されるのに慣れちゃってるのでどこか陰があって、淋しそうで無口な方が多くて、お気の毒なんですよ」
とりあえず、もう少し細かく説明を試みてみる。
「でも、今の方は明るくて。もうすぐ彼氏さんが迎えにくる……アレ? 迎えに行く、だったかな? だから、大丈夫だっておっしゃってたんですよ」
イヤア、あれには当てられちゃったわ。
「それはとり殺しに行こうとしてたところじゃないのかあ?」
更に大声を出す王子先輩。
「お前な! ホントいい加減にしろよ? 僕が厳しくレッスンするから仕返しのつもりか? あ、それともこの前お前が得意そうに見せてきたダッサい絵を破って捨てたことをまだ怒ってるのか?」
ああ。アレはひどかったよね。私が露店で買った、お気に入りの絵を真っ二つに。
思わず乾いた哂いを浮かべる私。
先輩の横暴に慣れて来てしまった今日この頃。
そんな自分がコワイ。




