第四話 個性豊かな仲間たち
「とりあえず、飯にするか」
会議室を出ると、村田さんはそう言って歩き始めた。
「飯ですか?」
「ああ。朝からいろいろあっただろ。腹も減ってるんじゃないか?」
言われてみれば、確かに腹が減っていた。
朝起きてから、突然訪ねてきた女性たちに連行されそうになり、村田さんに助けられた。そのうえ、今は見知らぬ組織の地下施設にいる。
あまりにも出来事が多すぎて、空腹を感じる余裕すらなかった。
「食べながら話してやるよ。チェリーのことも、ほかの連中のこともな」
村田さんの後について廊下を進む。
地下施設とは思えないほど通路は広く、壁や天井もしっかりと整備されていた。ところどころに部屋があり、奥からは人の話し声も聞こえてくる。
「ここには、ほかにも人がいるんですか?」
「当然だろ。俺一人で組織をやってるわけじゃねえんだから」
「それはそうですけど……」
「まあ、個性的な奴が多いからな。最初は驚くかもしれないが、悪い奴らじゃない」
村田さんはそう言って笑った。
個性的、か。
いったいどんな人たちがいるのだろう。
そんなことを考えているうちに、俺たちは食堂にたどり着いた。
中は思っていたよりも広く、テーブルや椅子が並んでいる。壁際には飲み物の自動販売機も設置されていた。
その一角に、三人の男たちが座っていた。
「あら、村田ちゃん。戻ってたの?」
最初に声をかけてきたのは、体にぴったりとした服を着た男だった。細身ながら筋肉質で、長めの髪を整えている。どこか華やかな雰囲気のある人だ。
「おう、澤田。紹介するよ。こいつが佐久間大輔だ」
「へえ、この子が例の?」
男は俺を興味深そうに見つめた。
「アタシは澤田圭介。気軽にさわちゃんって呼んでねぇ」
「は、はい。佐久間大輔です。よろしくお願いします」
「そんなに緊張しなくていいわよ。ここでは気楽にしてちょうだい」
澤田さんはにこやかに手を振った。
「澤田の魔法は《絡繰蜘蛛》だ。糸を操る能力で、相手を捕まえたり、鋭くして切断したりできる」
「へえ……糸を操るんですか」
「そうよ。ただ、火には弱いの。そこがちょっと厄介なのよねぇ」
澤田さんは肩をすくめた。
「異名は『蜘蛛』。まあ、見た目どおりってわけだ」
「ちょっと村田ちゃん。それ、どういう意味よ?」
澤田さんが村田さんを軽く睨む。
どうやら、この二人は気心の知れた仲らしい。
「で、こっちの二人が猪田と桐田だ」
村田さんが隣に座る二人を紹介した。
一人は小柄で、少しふくよかな体格の男。もう一人は細身で、長い髪を垂らしている。
二人とも、テーブルの上に資料やノートを広げていた。
「デュフフ……新たな同志でござるか?」
「フフフ、これは興味深い出会いでござるな」
二人は俺を見るなり、揃って笑みを浮かべた。
「こっちが猪田太郎。魔法は《滑液生成》だ」
「拙者、猪田太郎と申すでござる! よろしくお願いするでござるよ、佐久間氏!」
「え、あ、はい。よろしくお願いします」
勢いに押されながら、俺も頭を下げた。
「そして、こっちが桐田智也。魔法は《愛玩人形》だ」
「それがし、桐田智也でござる。以後、お見知りおきを。フフフ……」
「よろしくお願いします」
なんだろう。
この二人、妙に息が合っている。
「猪田の《カウバー》は、滑りやすい液体を生み出す能力だ。相手の足元に撒いて転ばせたり、拘束されたときに抜け出したりできる」
「デュフフ……なかなか応用の利く能力なのでござる! 使い方次第では、戦闘以外でも役に立つのでござるよ!」
「桐田の《ラブドール》は、人型の人形を作り出して操る能力だ。複数の人形を動かすこともできるが、数を減らせば、そのぶん細かい操作ができる」
「フフフ……人形の動きは、操り方次第で大きく変わるのでござる。指先のような細かな動きも再現できるでござるよ」
「なるほど……どちらも便利そうな能力ですね」
能力の使い方次第では、かなり幅広い場面で活躍できそうだ。
「ところで、佐久間氏の魔法は何なのでござるか?」
猪田さんが身を乗り出してきた。
「《邪龍顕現》だ」
俺が答える前に、村田さんが代わりに答えた。
「バハムート……!」
「邪龍の力を宿す魔法……でござるか」
二人の目が、みるみる輝いていく。
「デュフフ……なんと強そうな名前! ぜひとも詳しく調べてみたいでござるな!」
「フフフ、それがしも興味があるでござる。邪龍の力を人形に応用できれば、面白い研究になりそうでござるな……」
「おいおい、本人を置いて勝手に盛り上がるなよ」
村田さんが呆れたように二人をたしなめた。
「拙者たちは珍しい魔法を知ると、つい研究意欲が湧いてしまうのでござる!」
「そうでござるな。特に猪田氏とそれがしは、普段から一緒に研究をしているのでござるよ」
「一緒に研究?」
俺が聞き返すと、桐田さんが嬉しそうに頷いた。
「そうでござる。猪田氏とそれがしは、二人で理想のダッチワイフを作る研究をしているのでござる」
「デュフフ……人形の構造や素材、動作の滑らかさなど、研究することは山ほどあるのでござるよ!」
「それがしの《ラブドール》で人形を作り、猪田氏の《カウバー》を使って内部の滑りをよくする、二人の能力を組み合わせれば、理想を具現化できるでござるよ!」
「な、なるほど……」
真剣な顔で説明してくれる二人。
どうやら、本人たちにとってはかなり本格的な研究らしい。
「デュフフ……いつかは理想のダッチワイフを完成させる。それが拙者たちの夢でござる!」
「フフフ……そのためにも、日々の研究は欠かせないのでござる。猪田氏、次の試作品についても相談したいでござるな」
「おお! それならば、拙者に考えがあるでござる!」
「お前ら、食堂でその話をするなよ……」
村田さんが額に手を当てた。
俺は苦笑いするしかなかった。
なんというか、濃い人たちだ。
村田さんも澤田さんも、普通とは少し違う雰囲気があるけれど、この二人はまた別の意味で個性的だった。
「それで、佐久間氏」
猪田さんが、再び俺に顔を向けた。
「先ほどの《邪龍顕現》でござるが、どのような能力なのでござるか?」
「それが……俺にもよくわからないんです」
「まだ使い方がわからないの?」
澤田さんが尋ねた。
「はい。細田さんに調べてもらって、魔法の名前と強い力を持っていることはわかったんですけど、どうやって使うのかまでは……」
「そうなのねぇ。発現したばかりなら、仕方ないわね」
澤田さんは納得したように頷いた。
「でも、邪龍なんて名前がついてるくらいだもの。相当な力がありそうね」
「デュフフ……これは研究しがいがありそうでござる!」
「猪田氏、焦ってはいけないでござる。まずは佐久間氏自身が、自分の能力を理解することが先決でござるよ」
「それもそうでござるな!」
二人は顔を見合わせ、満足そうに頷いた。
「まあ、焦る必要はねえよ」
村田さんが俺の肩を軽く叩いた。
「魔法が発現したからって、すぐに使いこなせるわけじゃない。これから少しずつ覚えていけばいい」
「……はい」
正直、まだ不安は大きい。
自分にそんな力があると言われても、まるで実感が湧かないのだ。
それに、魔法を使うには条件がある。
そのことを思い出すと、なんとも言えない気持ちになる。
「とりあえず、飯にしようぜ。話はそれからだ」
村田さんが空いている席を指差した。
「そうね。せっかく新しい仲間が来たんだし、歓迎しないとねぇ」
澤田さんも笑顔を向けてくれた。
「デュフフ……佐久間氏、困ったことがあれば何でも相談してほしいでござる!」
「それがしも力になるでござるよ。研究のことなら、いつでも相談に乗るでござる」
「ありがとうございます」
俺はみんなに頭を下げた。
まだ会ったばかりなのに、ずいぶんと親しげに接してくれる。
少し変わった人たちではあるけれど、悪い人たちではなさそうだ。
ここなら、なんとかやっていけるかもしれない。
そんなことを思いながら、俺は村田さんの隣の席に腰を下ろした。
ただ、一つだけ気になることがある。
俺は本当に、この人たちと一緒にやっていけるのだろうか。
そして、自分の中に宿った《邪龍顕現》という力を、いつか使いこなせる日が来るのだろうか。
まだ何もわからない。
それでも、俺の新しい生活は、こうして始まろうとしていた。




