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婚約破棄されたら幸せを拾いました  作者: 夏つばき


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150/153

150 答え合わせ


(・・・・・・・・・・・・俺と、ルナは「金髪」、だよな)

思い出に浸っていると、不意に胸に引っかかりを覚えた。


先ほど会った、ハリソンの姿が頭に浮かぶ。

あの燃えるような赤い巻き毛。

かつて親父は、俺に似ていないという理由だけで、ハリソンに興味を失くした。

そしてその大きな理由のひとつが、あの赤毛にあるのは間違いないだろう。


(・・・・・・孫が「似ていない」だけで、そんな急に見放すか?)

ボビーに跡継ぎとなる男子が生まれたこと。

ハリソンが俺に似ていないこと。

アンナが王弟の妃になったこと。


だから親父は孫に興味を持たず、俺との縁も、あっさり断ち切ったのだと信じていた。

だが、真実は違うのかもしれない。


思わず胸がざわつき、過去の記憶と今の光景が交錯した。


親父は、ハリソンの顔を見に来たとき、ルナに何を囁いたのだろう。

あの瞬間、俺は何を聞き逃したのか。

忘れてしまったのか、それとも見てみぬふりをしてしまったのか。

俺は、大事なことを見落としていないだろうか。


(・・・・・・・・・ハリソンは、「俺の子」だよな?)

うちの家系に、赤毛はいない。

ハリソンの赤毛は、一体誰に似たのだろう。

ルナは、ハリソンの赤毛は自分の母親譲りだと言っていた。

あの時は、何の疑問も抱かずにルナの言葉を信じた。


だが、当時すでにルナの母親は亡くなっており、真偽のほどは俺にはわからない。

そもそも、祖母の髪色が孫に受け継がれるなんてことがあるのだろうか。

金髪の俺たちから生まれる子どもなら、金髪なのが普通だろう。


(・・・・・・・・・なんてことを考えているんだ!)

ハリソンは、間違いなく俺の子だ。

他の誰の子でもない。


頭を振って自分を戒め、気合いを入れて立ち上がる。

今日は遠くから来たせいで、疲れているのだ。

昨夜は緊張して眠れなかったし、朝食も食べていない。

身体が疲れていれば、ろくな考えに行き着かない。


早く宿に帰って休めば、きっとすぐに元に戻る。

一歩一歩、確かめるように、重い足を前へと進めた。


(大丈夫、大丈夫。変なことを考えるんじゃない)

ハリソンの瞳は、俺と同じ緑色だ。

体格も、顔も、中身も、何ひとつ俺には似ていないが、そばかすだけは俺にもある。


ハリソンは、確かに俺の子だ。


(休めば。休めさえすれば、大丈夫だ)

こんな考えは、温かい風呂に入り、整えられたベッドに横になれば、きっと、すぐに忘れられる。


だが、嫌な考えが次から次へと胸の奥に湧き上がってくる。

振り払おうとしても、疲れ切った頭ではうまくいかない。



(・・・・・・・・・・ハリソンと、俺の共通点は?)

俺に似ているところだって、どこかにはあるはずだ。

ハリソンは剣は得意ではないと言ったが、頭はいい。

俺だって学院には家の事情で行けなかっただけで、頭が悪いわけでない。


(・・・・・・でも、背の高さは?)

俺は背が高い方ではないし、ルナは小柄だった。

親父の背も低く、ホランド家には背の高い者は誰もいない。

男爵家では、誰か背の高い者がいただろうか。


(・・・そういえば、結婚を承諾してもらうとき、親父に本当にお前の子かと聞かれたな)

親父がルナの貞操を疑ったのには、何らかの根拠があったのかもしれない。

俺はルナが妊娠したと言った言葉を疑わずに信じたが、親父は週数を確認したがった。

親父は最初から、ルナの貞操を疑っていたのだろう。


ハリソンの顔を見た途端に席を立ったのも、自分の孫ではないと確信したからかもしれない。


先ほどまで全く思わなかったのに、急にハリソンが自分の息子ではないような気がして、胸の奥がざわついた。

理由もわからぬまま、汗が背中を伝い始めた。


(いや、違う。ハリソンは、確かに俺の子だ)

あの清純なルナが、俺以外の男と付き合っていたはずがない。

今でこそ違うが、あの頃は本当にルナと愛し合っていた。

だからハリソンは、俺の子に決まっている。


だが、それを証明する方法はどこにもない。

問いただすべきルナの居場所もわからない。


(・・・・・・ハリソンは、本当に俺の子なのだろうか)

親父の態度、ルナの言葉、同僚の視線、招待客たちの笑顔。

どれもが裏を持っていたように思えてくる。

俺は、知らぬ間に他人の子どもを育てさせられていたのだろうか。


確かめられないもどかさに胸が焼け、吐き気が喉まで押し上げてくる。

胸に込み上げてくる嫌な感覚に足元が揺らぎ、そのまま地面に膝をついた。

その拍子に手をぬかるみに突っ込んでしまい、手が泥まみれになった。


その冷たさと重さが、何か自分の心まで押し付けられたように感じた。

何を信じていいのか、誰を信じていいのかも分からない。

自分の心が向かおうとする先すら、もう掴めなかった。

この場から、どこにも動ける気がしなかった。




「・・・・・・・・・大丈夫ですか?」


柔らかな声に顔を上げると、昔と変わらないダニエルがいた。

心配そうに覗き込むその顔に、胸がぎゅっと詰まる。

年月を重ねてもなお美しいこの男の前で、今の俺は惨めでしかなかった。


「・・・あ、ああ。お前か、ダニエル」


「・・・・・・・その声は、もしかして、ヘンリーか?」

「あ、ああ、そうだ」

「顔色が悪いが、立てるか?」

「あ、ああ、大丈夫だ」


大丈夫だと返事はしたものの、体はまったく言うことを聞かない。

目の前がぐるぐると回り、胸の奥がむかむかと波打つ。

無理やり立ち上がろうとした瞬間、よろめいた。

慌ててダニエルが、俺を支えた。


「レオ!学院に行って人を呼んできてくれ。医務室にも連絡だ!」

「い、いや、それだけは勘弁してくれ!」

「なぜだ?学院はすぐそこだ」

「何ででもだ!な、頼む!こんな姿を見られたくない!!」

「でも」

「頼むよ!」


こんなにも落ちぶれた俺の醜態を、かつての知り合いに晒したくはなかった。

なによりも、周囲から後ろ姿をさされる惨めな自分の姿を、ハリソンには決して見られたくなかった。


「・・・・・・もしかして、ハリソンに会いに来たのか?」

「あ、ああ。でも、さっき会ったから、それはもういいんだ」

「じゃあ、せめてホランド伯爵に伝えてくるよ。学院にいるはずだ」

「ホランド伯爵?親父が来てるのか?」


「・・・違うよ。君の親父さんは、ボビー様に家督を譲っただろう?ボビー様だよ」

「あっ、ああ、そうか」

「レオ、学院に・・・」

「や、止めてくれ!呼ばなくていい!!頼む、呼ぶな!!!」


人の注目を浴びることは避けたかった。

喚く俺を見て、これ以上無理強いはできないと悟ったのだろうか。

ダニエルは小さくため息をつき、傍らの男に馬車を呼ぶよう命じた。


「わかった。じゃあ、病院に送る。俺は入学式があって付き添えないが、代わりにレオに頼むから。何かあったら、遠慮せずレオに言ってくれ」

「ああ、すまん、な。た、大したことはないんだ」


「・・・・・・本当に平気なのか?今からでも、ボビー様を呼んでこようか?」

「い、いや、大丈夫だ」


そう答えながらも、胃の中が逆流する感覚に、思わず手で口を押さえた。


そんな俺に気づいたのか、ダニエルは心配そうにハンカチを差し出してきた。

一瞬ためらった末、俺は黙ってハンカチを受け取った。

受け取った白いハンカチを、震える手でぎゅっと握りしめた。


(・・・・・・・・・ダニエルは、こんな奴だったか?)

心から、俺のことを気遣っているように見える。

いつも微笑みを浮かべてはいたが、心の底では、俺を馬鹿にしていたはずだ。

王宮で最後に会ったとき、俺を捕らえ、王弟に跪かせたのもこいつだ。


なのに、俺の減刑嘆願書に署名した中に、こいつの名前もあった。

この男の本心は、一体どこにあるのだろう。


「・・・・・・・・なぁ、ダニエル。あの時計をくれたのは、わざとなのか?」


「何をだ?」

「お前、結婚祝いに置き時計をくれただろ。カッコウの飾りがついていた時計」

「ああ。だが、それがどうしたんだ?」


「・・・・カッコウは、托卵をするって知ってたか?」


「そうなのか?そんなことは初耳だが・・・・」

「そうか。いや、お前は頭がいいから、もしかしてと思ったんだ」

「さっきから何を言っているんだ?頭でも打ったのか?」


自分でも、こんなことを口にするなんて、どうかしていると思う。

だが、先ほど会ったハリソンの顔が頭から離れない。

もしかしたら・・・と思うと、黙っていられなかった。


「いや、可能性について考えただけだ。さっきハリソンに会ったんだが、俺とまったく似ていなかったんだ」

「似ていない親子なんて、どこにでもいるよ。馬鹿なことは考えない方がいい」


ダニエルは、あたかも俺の間違いを諭すかのように、柔らかく言葉を紡いだ。

だが、騎士団にいたあの頃のこいつは、微笑みを浮かべながら俺を見下していた。

本当は、今でも心の奥では、俺を嘲笑っているのかもしれない。


脂汗をハンカチで拭い、ダニエルをじっと見据えた。


「なぁ、教えてくれよ。ルナは、俺のほかに男がいたんじゃないか?」


「・・・そんなこと、俺にわかるわけないだろう?」

「お前、ルナのこと、俺が紹介する前から知ってたんじゃないのか?」


「何だよ、急に。知らないよ」


ダニエルは眉をひそめただけなのに、その微かな表情が、かえって怪しく思えた。


「初めてルナがお前に会ったとき、ルナはお前の顔に見惚れなかった。大抵の女は、お前の顔に見惚れるだろう?俺、あの時のことはよく覚えているんだ。ルナは俺のことが好きだから、お前には興味がないと思って、喜んだんだ」

「そんなのは当たり前だ。婚約者のお前がいるのに、他の男なんかに見惚れるわけがない」


(・・・恋人がいても、女たちはみんなお前に見惚れていた)

ダニエルは、嘘つきだ。

いつも当たり障りのない、耳に心地よい言葉ばかりを並べる。


「・・・・・・ラナンキュラス」


「え?何か言ったか?」

「ラナンキュラス。そこの花壇で咲いていた。あの時、お前、ラナンキュラスの名をルナに聞いただろ?」


「・・・・・・悪いな。そんな昔のことなんて、覚えていないよ」


首を傾げるダニエルだが、絶対に嘘だ。

こいつの記憶力には、騎士団の連中がみんな舌を巻いた。

だから、俺はよく覚えている。

仕事のことだけでなく、上司の好みからちょっとした癖まで、どんなことでも頭に入っていた

そのダニエルが、客との会話を忘れるはずがない。


「ラナンキュラスが咲くのは、春だ。俺がルナを紹介したのは、秋だった。秋に、ラナンキュラスが咲いているわけがない」


「それは・・・・・・」

「あの日、モイン商会には『ダリア』が飾ってあった」

「そんなことを言われても、俺は覚えていない」

「だが俺は、はっきりと覚えている。ルナは、間違いなく『ダリア』だと言ったんだ」


「・・・・・・・・・」

「オレンジ色のラナンキュラスの花言葉は、『秘密』だろ・・・?」


「違う。『秘密主義』だ」

「そんな細かいことは、どうでもいいさ!お前、あの時ルナに花言葉を使って、秘密を持ちかけたんじゃないのか?」

「悪いが、お前が何を言いたいのかが、わからない」


ダニエルは困惑したように眉を顰めた。

これも演技なのだろうか。

もし演技だとしたら大したものだが、俺はこいつが食えない奴だとよく分かっている。


「ハリソンは、赤毛なんだ」

「ああ、そうだな。特待生の面接をしたから知ってるよ」


「お前、赤毛だよな・・・?」


「は?」

「赤毛だろ!?」

「いや、違うよ」

「嘘つくなよ。どう見たって、お前は赤毛だ!」

「違う」

「赤毛じゃないか!だって、お前の妹は、どう見てもすごい赤毛だよな!?」

「おい、止めろ。それ以上言ったら、俺も怒るぞ」


「事実を言って、何が悪いんだよ!昔から、お前の妹の髪は有名だったもんな!」

「ヘンリー!!」

「『アスター家の燃えカス』って聞けば、誰だってお前の妹だって分かる!お前の体にも、赤毛の血が流れてるんだろ!?」

「お前、いい加減にしろよ!!!」


図星なのだろうか。

冷静でいつも笑顔を張り付けていたダニエルが、顔を強張らせ、ついに声を張り上げた。

図星を突かれれば、誰しも怒りの感情を隠せなくなる。


「お前、ハリソンの父親なんだろ!?」


「本当にいい加減にしろよ!ふざけんなよ!!そりゃ、ルナ様から、何度か手紙はもらったさ!だが、一方的なラブレターだけで、個人的に会ったことはない!」


「証拠はないだろ!?」

「事務所に報告している。個人的に会うような女性の手紙なら、報告なんてしない」

「事務所に報告?」

「騎士団のルールだ。覚えていないのか?警護をする者として、家族や登録者以外からの手紙や飲食物の差し入れは、事務所に報告する決まりだっただろ?」


「しかし・・・」

「報告した書類は、まだ残っているはずだ。それに証人だっているさ。そんなに言うなら、レギーに聞いてみろよ」


「レギー・・・?」

「レギーじいさん!事務所に足を引きずっていた年寄りがいただろ!?まさか、覚えていないのか?」


「あ、ああ。そういえば、いたな」

「いまだに、俺がたくさん手紙をもらっていたことをネタにするからな。ルナ様からもらったクッキーをレギーに渡していたから、しっかり覚えているはずさ」


(・・・・・・クッキー、俺もルナからもらったな)

俺たちは、偶然出会ったと思っていた。

だが、どうやらそうではなかったらしい。

もしかしたらルナは、色々な男に声をかけていたのかもしれない。


「じゃ、じゃあ、何で黙ってたんだ?」

「結婚するのに、他の男に声をかけていたなんて聞いたら、嫌な気持ちになるだろう?だから、あえて言わなかったんだ」

「でも・・・」

「誰にだって、言いたくないことの一つや二つはあるだろう?ましてや、自分が好きな男に、過去の恋愛なんて聞かせたくないに決まっている」

「だが・・・」

「お前は、好きになった女性の、過去の恋愛話なんて聞きたいか?結局、嫉妬するだけだろう?」

「あ、ああ、確かにそうだよな・・・」


「誓って言うが、関係を持ったことなんてなかった」


「・・・・・・疑って悪かったよ。すまんな、なにか、もう、すべてが信じられなくて」


再びハンカチで顔を拭う振りをし、俯いた。

プライドの高いこいつが、声をかけられただけで簡単に靡くわけがない。

こいつが選ぶのは、きっと一流の女だろう。


だが、ダニエルは別として、他の奴はどうだったのだろう。

俺のように、簡単に引っかかる奴だっていたのではないだろうか。


ルナは、俺が誘った時、躊躇いもなく身を任せた。

あの時は、俺を愛しているからだと思った。


だが、普通の貴族令嬢なら、そんなことはしないはずだ。

アンナなんて、手すら握らせてくれなかった。

もしかすると、誰にでも身を任せていたのかもしれない。


まるで俺を慰めるかのように、ダニエルは低く、静かな声で言った。


「ルナ様にとっては、俺は単なる婚活の対象だよ。別に俺のことが好きだったわけじゃない。親の力で婚約もままならない下位貴族令嬢の常套手段だ。あの頃、令嬢たちの間で騎士に声をかけることが、特に流行していた。だからルナ様以外にも、そうした令嬢は沢山いたさ」


(・・・・・・ああ、そうか。そうだったのか)

ダニエルの『婚活の対象』という言葉が、俺の心を暗く沈ませた。

偶然出会って、運命の恋に落ちる二人。

舞台の「真実の愛」と同じだと思ったからこそ、親父の反対を押し切り、慰謝料を払ってまで婚約を破棄したのだ。


「なあ。ルナは、あちこちに声をかけていたんじゃないか・・・?」

「そんなことまでは、俺にはわからない。でも、お前がルナ様を選び、ルナ様もお前を選んだ。お互いを愛したからこそ結婚したんだ。それこそが『真実』だろう?」


(・・・・・・・・・・・・『真実』か?)

クッキーをもらった瞬間、俺はルナに恋をした。


だが、ルナはどうだったのか。

勝手に俺に恋してくれたと思い込んでいたが、それはただの勘違いだったのかもしれない。

俺がアンナとルナを天秤にかけたように、もしかすると、ルナも俺と誰かの間で同じように揺れていたのかもしれない。

最終的に俺を選んだとしても、ルナの「愛」は、「真実」と呼べるものだったのだろうか。


「変なことを考えるな。ハリソンを面接したときに間近で見たが、あの子の瞳は、確かにお前と同じ緑色だ」


「・・・・・・・・・ルナの瞳も、緑色だ」

「え、何か言ったか?」

「ダニエル様!お待たせしました!」

「よかった。馬車が来たから、ひとまず乗れ。ひどい顔色だ」


馬車が来ても、動ける気はしなかった。

そんな俺を見かねたのか、ダニエルは躊躇いもなく腰に手を回し、支えながら馬車に乗せてくれた。

そのせいで式典用の正装には泥がついたが、ダニエルはまったく気にする素振りを見せなかった。


「今から病院に連れて行く。レオが病院までお前に付き添うから、大丈夫だ」


「・・・・・・・お前、いい奴だったんだな」

「どうだかね。ボビー様に恩を売って、後から元を取る算段かもしれないぜ」

「ははっ。いつの間にか、そんなことを言えるようになったんだな」


乾いた笑いが思わず漏れた。

いつも笑顔を貼り付けて、無難な会話しかしてこなかったダニエルは、冗談でもこんなことは口にしなかった。

さっきは本気で怒っていたし、今は心配そうに眉を顰めている。

その表情の変化が、妙に胸に響いた。


年月というのは、こうも人を変えるのだろうか。

ダニエルは俺の目をじっと見据え、区切るように言った。

その視線に、妙な重みを感じる。


「ハリソンは、お前の子だ」


「ダニエル・・・」

「お前が好きになった女性の子だ。だからこそ、間違いなくお前の子なんだ」


それだけ言うと、俺の意見を遮るように扉を閉められた。


(・・・・・・・・・・・・違う)

好きになった女性の子どもが「俺の子」ではない。

「俺の血」が入ってるからこそ、「俺の子」なのだ。

もし、ハリソンに俺の血が入っていなければ、俺はハリソンを愛せない。


でも、ハリソンは、本当に俺の子かもしれない。

俺の子であれば、俺はハリソンを愛し、慈しめる。


だが、確かめる術など、どこにもないのだ。

俺は、この答えの出ない問いに、生きている限り延々と縛られ続けるのだろうか。

あまりの恐ろしさに、今すぐにでも目を閉じたかった。

だが、閉じたら最後、この答えを知ることは叶わない気がして、どうしても閉じられなかった。



お読みいただき、ありがとうございます。

ブクマ、評価、誤字の指摘をしていただき、ありがとうございました。


作中「レオ」は、「70 続 ルーシーの思い」に登場しています。

次話は文字数が少なめになりそうなので、本日、夜8時頃に投稿予定です。


完結まで、残り数話を予定しています。

最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

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