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婚約破棄されたら幸せを拾いました  作者: 夏つばき


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119 歩み寄り


「イザベラ様のお気持ちに気づかず、失礼なことを申し上げてしまい、申し訳ありませんでした」

「いいのよ。誤解させて悪かったわね」


「いいえ。イザベラ様の優しさに思い至らなかった私が悪いのです。本当に申し訳ありません」

「そんなに恐縮しないでいいわよ。私が悪いのよ。私、人とのやり取りが少し下手なのよ」


(・・・『少し』ではないと思うけどね)

人前であれほど感じの悪い振る舞いをしていれば、誰だってイザベラ様を警戒するだろう。

おまけに、言いたいことは遠慮なくポンポン言ってくるのに、肝心の自分の気持ちは口にしない。

あれで他人と円滑な人間関係が築けるとは、到底思えない。


でも、だからといって私がイザベラ様を傷つけていい理由にはならない。

それに、イザベラ様にもそうせざる得なかった理由があったのだ。

一概にイザベラ様だけを責めることはできないだろう。


「・・・・・・いえ、あの」

「気を遣わなくていいわよ。私、ちょっと突っ走ってしまう時があるの。自分の大事な人が危険だと思うと、こう、頭に血が上るのよ。後先考えずに行動するし、思ったこともすぐに口に出してしまうしね。悪い癖よね」


(そこは、全然『ちょっと』ではないけどね!?)

本当にイノシシみたいな人だ。

イノシシは普段はこそ臆病で警戒心が強いが、仲間の危機に直面すると、突如として突進してくる。

予測のつかない事態を嫌うオリバーは、イノシシを特に毛嫌いしていた。


「・・・・・・でも、そんなイザベラ様が少し羨ましいです」

「羨ましい?」


「ええ。私は周りを気にしすぎて、正直な気持ちをなかなか言えません。だから、堂々と自分の気持ちを言えるイザベラ様が羨ましいです」


「そう?でも、人から嫌われやすいわ」

「少なくとも、エリザベス王女殿下とアルバート様は、イザベラ様のことが大好きですよ」


「・・・本当に?」

「エリザベス王女殿下に『お願い』のやり方を教えたのは、イザベラ様ですよね?得意げな王女殿下に対して、アルバート様は困った顔をしていましたが、二人共、イザベラ様のことが好きだということは、よく伝わりました」


「そう?」

「ええ、そうです」


アルバート様は、私にイザベラ様のことを悪く思われまいと必死に擁護してきた。

傍から見れば、イザベラ様に振り回されているだけのアルバート様だが、それでも好きだということはよくわかる。


「私だって、イザベラ様のことは嫌いではありません。イザベラ様は無神経だし、人の話は聞かないし、一緒にいてハラハラさせられますが、イザベラ様が気を遣わない分、私も正直な気持ちを返すことができます」


「・・・貴女、もう少し言葉を取り繕ったら?それで褒めているつもりなの?」

「他の方には、こんな風に言いませんよ。イザベラ様だからこそです。イザベラ様になら、自分の気持ちを素直に言えます」


「あ、そう。でも、悪口しか言ってなかったわよね?結局、私のことが嫌いなんじゃないの?」

「いいえ。嫌いではありません」

「なんだか腹が立つわね。普通、そこは『好き』だと言うんじゃないの?」

「仕方がないでしょう?私はまだ、イザベラ様のことをよく知らないんです。よく知りもしないのに、いい加減なことは言えませんよ」


「・・・・・・・・・正直ね」


(だって、嘘はつけないし)

つい先ほどまで、お互い譲らずに言い合っていたのだ。

そんな簡単に好きにはなれないし、仲良くなれるものではないだろう。


「でも、すごいとは思っていますよ」

「すごい?」

「セイン様たちのために、すごく一生懸命ですよね」

「母親だからね。当たり前よ」


「当たり前じゃないですよ。だって、イザベラ様は、自分のことよりセイン様たちを優先していますよね。それを毎日続けていらっしゃるんでしょう?」


「別に褒められることじゃないわよ」

「いいえ。自分の時間を割くって、なかなかできるものではないですよ」


ベスのために時間を取った方がいいことはわかっていても、私は仕事を優先した。

確かにベスと血の繋がりはなかったが、たかだか数日だったのだ。

ベスの気持ちを聞く時間を取ることさえも、私はできなかった。


「そう?」

「ええ。それに子育てって、正解がないじゃないですか。私は、正解のない問題を解くのが苦手なので、素直に尊敬します」


子どもを管理するようなイザベラ様の子育てのやり方は、私とは合わない。

でも、何が正解だったかなんて、子どもが成長するまで誰にもわからないのだ。

すぐに答えを知りたがる私にとって、子育ては楽しそうであると同時に、恐ろしくも感じられる。


(・・・お母様は、答え合わせをすることができなかったわね)

今の私とオリバーを見たら、母はどう思っただろうか。

母が注いでくれた愛情に比べれば、不出来な娘かもしれない。

だけど、なんとか頑張ってきた私たちを、誇らしく思ってくれたらいいなと切に願う。


「ふっ、ふふ。貴女、子育てを『正解のない問題』って。面白い例えをするのね」

「だってそうですよね?答えがわかる日もいつか来るとは思いますよ。でも、間違いに気付いたとしても、過去には戻れないんです。毎日が、想像以上のプレッシャーだと思います」


必死で子育てに奮闘しているイザベラ様を見ると、若かり日の母を思い出す。

子どもの頃は何も感じなかったが、あの頃の母も、イザベラ様と同じように若かったのだ。

きっと、こうして精一杯私たちを育ててくれたのだと思うと、自然と頭が下がる。


「・・・貴女って不思議よね。お人好しに見えて、妙に用心深いし、意気地のない甘ちゃんかと思えば、大局を見ているし。一体なんなのかしらね、その物事を高みから見るような物言いは」


「えっ、あの・・・」

「ああ、責めてるんじゃないから、焦らなくていいわよ、褒めてるのよ。貴女は、とても素敵な方だわ。賢いし、先を見通す力もあるわ。もしかしたら歴史に名を刻むかもしれないわね」


イザベラ様は、まるで称賛するような眼差しを向けてきた。


(そんなに褒められても困るんだけど・・・)

褒められたことは嬉しいが、あんまり良く思われても困る。

実際の私は、失敗を糧に「次こそは」と意気込むものの、同じような失敗を繰り返す凡人だ。

それにイザベラ様が、私に対して『優しい自分を演出した』と感じたことは、間違っていない。


「いいえ。先ほどは、自分をいかにも善人のように誤魔化しましたが、本当は見栄っ張りで、誰にでもいい顔をしたいだけの小心者です」


『アルバート様の存在』がなく、かつ『絶対に仕返しをされない』という条件が揃えば、私もヘンリー様に仕返しをしたかもしれない。

私は善人であろうと努力はするが、聖人ではないのだ。


「ふっ、ふふ、ふふふ。アンナ様って可笑しいのね。せっかく褒められたのに、欠点を言うなんて馬鹿じゃないの?」


「・・・・・・完璧だと思われても困るので」

「ふふっ。完璧なほうがいいんじゃないのかしら?」


「・・・私は、完璧じゃないほうが好きなんです」

「そう?私は『完璧』が好きだけどね。だって、完璧なものって美しいでしょう?」


「確かに完璧なものは美しいです。でも、完璧でないほうが、親しみが持てますし、興味を惹かれませんか?」

「どうかしらね。私には、わからないわ」


イザベラ様は、困ったように眉を顰めた。

王族として完璧を求められてきたイザベラ様には、私の考えは合わないのだろう。


「私が『不完全な美』に惹かれるのは、つい自分自身と重ねてしまうからでしょうね。欠けているのに、なぜか完璧に見える。そういう在り方が私の理想です」


「・・・つまり、自分は変わらずに、周りから完璧に見られたいってこと?それって、少し都合が良すぎない?」

「もちろん、努力はしますよ。でも、『完璧』だけを目指すのは、もう懲り懲りなんです。完璧な領主になろうと必死に奮闘したこともありましたが、結局は空回りして、周りに迷惑をかけただけでした」


「あら、まあ・・・」

「私には、自分の欠点を受け入れ、周りの助けを借りながら生きていくほうが、どうやら性に合っていたみたいです」


完璧な領主として振舞おうとした結果は、セオドアたちに迷惑をかけただけだった。

自分の欠点を認めるのは勇気がいったが、案外悪くない。

完全無欠ではない私の「欠け」を埋めるために、みんなが協力してくれる。

結果として、「完璧」になれば、それでいいだろう。


「それに、完璧じゃない今の私のほうが、かえって皆から信頼されているのです」


「・・・そう」

「『完璧』であることは良いことですが、求めすぎると、人との距離がどんどん遠くなってしまうように感じます」


「・・・・・・そうかもしれないわね」


イザベラ様は、ちょっとだけ寂しそうな目をしながら扇子を持った手に目を遣った。

傷一つない、美しく白魚のような手には繊細な銀の指輪が輝やいていた。


「・・・・・・ねぇ、このイヤリングをあげるわ。私のお古だから、そんなに高価な物じゃないわ。それなら、いいでしょう?」

「え・・・?」


耳元に手を伸ばし、イザベラ様が自分のイヤリングを外した。

そして戸惑う私の手を取ると、半ば強引にその手の平にイヤリングを載せてくる。

手の平の上で、タンザナイトがまるで夜明けのように瞬いていた。


(いや、絶対高価だと思う・・・)

さすがにこの状況では断りづらいと焦る私を、イザベラ様は脅すように目を細めて見つめてきた。


「まさか、それまで断るとは言わないでしょうね?」

「え、ええ、ええっと、あの・・・」

「そのタンザナイトのネックレスにも合うでしょう?」

「えっ?え、え、ええ、そうですね」


イザベラ様は、圧に負けて頷いた私の手からイヤリングを取り上げ、私の左耳へそっと着けた。

その瞬間、清らかな薔薇の香りが鼻先をかすめる。


「ほら、綺麗よ。アンナ様には、青色が良く似合うわ」

「あ、ありがとうございます」


「青はね、王家の色とも言われているの。綺麗でしょう?」

「え、ええ」

「アンナ様に気に入ってもらえて良かったわ」


イヤリングを着けた私を見て、イザベラ様は満足そうに微笑んだ。

そのまま上機嫌な様子で、部屋に並べられたドレスへと視線を移した。


お読みいただき、ありがとうございます。

ブクマや評価をしていただき、ありがとうございました。


欠けた部分があるからこそ、「ミロのヴィーナス」や「サモトラケのニケ」に惹かれるのかもしれませんよね。

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