バナナの木と石留め
ひぃちゃんの夢の城になるはずだった二階のアトリエからは、リフォームの減築で出来た広いお庭を見下ろせる。
ひぃちゃんはリフォームを終えたら、その場所にバナナの木を植えたいと言っていた。
いや、バナナ以外にも、イチジクとかレモン、びわ、ブルーベリーなど、植えて収穫したいと言っていた。
私の家には、それプラスみかんやいちごがある。(あ、ブルーベリーは無いか)
なんかうちは屋上がジャングルで、一階部分もバナナでジャングルなのである。
バナナはどんどん株が増えていく植物で、私の父親が後生大事に全部株分けをするものだから、大量のバナナの木でジャングルになってしまったのだ。
意味が分からない?
……ですよね、私も意味が分からない。
実がならないバナナの木だらけなんて。
そんな腐るほどウチにあるバナナ木を、ひぃちゃんはリフォームをしたらほしいと言っていたのだ。
庭に植えて、窓からバナナの木を眺めたかったんだろう。
南国ムード満点。
コンちゃんとお宅にお邪魔した際に、おばさんに聞いてみたのだ。
「ひぃちゃんがリフォームが終わったらバナナの木が欲しいと言っていたのですが……まだ要りますか?」と(笑)
おばさんは、そこそこ間髪を入れずに「んー、植えよっか!」と言った。
心の中で、え!マジで?軽っ!と思った(笑)
その時期はまだ四月半ばだったので、夏が始まるころにまた連絡しますね、と約束していたのだ。
バナナは寒さに弱いから、地植えをしていたら大丈夫な事もあるようなのだけれど、うちのは鉢植えなので地熱が無い分弱いのだ。
まだその時期は大量のバナナの木を室内で管理していたから、室外に出すにはまだ早い。
6月の終わりごろ。
先日、私とあーちゃんでバナナの木を届けに行ってきた。
ひぃちゃんのスマホはパスワードのわからないままで、どうにか開けられないかといじり過ぎて、ロックがかかり電話を取る事も出来なくなってしまったらしい。なので、おばさんに「そろそろバナナどうですか?」と謎のラインをした(笑)
本当はバナナとは別の想いもあって。
ひぃちゃんの誕生日だったのだ。その日に行けたらいいな、とは思っていたんだけど、結局その日は駄目になった。
次の週に行く事が決まり、私たちはバナナの木を三本届けた。
家に大量にあるから少しでも捌けさせたい……という気持ちが無かったとは言わないけれど(笑)一本は枯れることもあるかもしれないし、枯れなくても一本は寂しいかな?と思って、数本いかがですか?と聞いたらウエルカムだったので。
私には、ひぃちゃんちにお邪魔をして、もうひとつ、やりたいことがあったのだ。
私はひぃちゃんに石沼に突き落とされたあの日から、順調に石沼練度も上がって来て、空枠を購入し石を留めるというスキルを獲得した。
なのでおばさんが、配るだけで「いくらあっても使えない」と嘆いていた石を、おばさんと姉妹分くらいはどうにかしてあげたいなぁと、このサイズの石はありそうだと予測して、幾つか空枠を購入して持って行っていたのだ。
「バナナを植える穴をあけてお待ちしています」と言われていたので、植え替えをお手伝いしようと思ったら、その場所で本当に良いかを家族会議をしてから植えるそうで(笑)私たちはバナナは配達するだけになった。
「少しお邪魔していいですか?」とずうずうしくお邪魔をすると、「ひぃちゃんが残した石ってまだ残っていますか?」と聞いた。
「実は空枠を持ってきたので、はまる石があれば留めたいなぁと思いまして……」と。
オタク以外が、ふわっと聞いたら一体何を言っているのかわからないだろうな……
オタク特有の早口で言ってしまっていたらどうしよう……
どうやら私が石を出してほしいと言ってることは伝わったようで、「私がいろんなところに置くから、どこにあるのか分からなくなっちゃって、みんなに怒られるんだよねぇ……」と言いながら、いろんなところから裸石の山を出してきてくれた。
私もリュックから空枠とノギスと指輪用ヤットコを出した。
オタクというのは、すーぐ道具を買う~
どうやら必死の捜索の結果、12月に私たちが見せてもらった石の入った箱は見つかったようで、それも出してくれた。
(ついでに、エンディングノートは見つかりましたか?と聞いたけれど、それはまだ見つかっていないそうだ。)
箱の中身を広げながら、あの日にひぃちゃんと見た時の事や、後日その箱の中の石の話をラインで聞いていた事などを、口々に話しながら石を見て行った。
私のありそうな石の大きさ予測は、オーバル(楕円)は6×4ミリ、ラウンド(正円)は4ミリと思って、空枠を買っていっていたので、そのサイズを探す。
その他にも少量だけど、買ったけど使い道のなくなった空枠も持って行っていた。
その大きさをどうやって割り出したかというと、私がひぃちゃんと同じお店から同じような要領で石を買ってきた実績により導き出した大きさだったのだけれど、やはり時期が違えば少し変わっているようで、ラウンドは5ミリが多かったり。
それに、私に届いたものもそうだから予測は出来ていたのだけどペアシェイプ(涙型)や違う形が多くて、なかなか狙いのサイズが見つからない。(その辺りの空枠はなかなか販売していないのだ)
それでもその中から、何とか使えそうな4石を探し出した。
無理くりな感じもあったのだけど、結果は、
リング
・スフェーン6×4(ダイヤモンドよりも輝きのある黄色い石)
・タンザナイト6×4(ひぃちゃんお気に入りの群青色の石)
・フローライト8×6(色のバリエーションがある石だが、これは優しい青色の石だった)
ペンダントトップ
・トルマリン4×4(これも色のバリエーションが多い石。これは茶色と黄色の間のような色だった)
計4つ。
本当は身に着けやすいから、ペンダントトップが4つが良かったんだけどなぁ、と思いながら。
アクセサリーは好みがあるから、気に入って使ってもらえるかどうかは分からないのだけど……本当はもうちょっと選択の余地があれば良かったんだけど、ちょっと押し付け&嵐のようで申し訳ないな、という思いもある。
「一応……石は取れないと思うんですけど……、」へへへ、と。
「ご姉妹とで分けてもらえたら……」へへへ、と置いてきた。
オタクなんで。
たった今思うけど、確かタンザナイトはもちろんだけど、スフェーンもフローライトも、ひぃちゃんは好きだったと思うんだよなぁ。
トルマリンは分からないけれど。まぁ嫌いではないのは確かだ。
(あのトルマリンは少し金属的な輝きもある感じだったし、良いアクセサリーになると思う)
大げさな話で恐縮だけど、これでまた一つは……一応は、スタンプを1個押してもいいかな?
完ぺきではないと思うけれど、どうか、押せたことにしてください。
後、大きなやり残したことと言えば、
・一緒にミネラルショーに行く
・某似非エーゲ海ホテル(笑)に泊まりに行く
・もう一度貴石博物館へ行く
というのもあるけれど、やはり一番は『南十字星』だろう。
(本人に言わせたら、もっといっぱいあるだけうけれどね、)
「一生に一度は絶対、南十字星を見たい!」と言っていたひぃちゃん。
一度は計画を立ててみたのだけど、時期が合わずに断念したのだ。
その無くなった計画に、私も一枚噛んでいる。
だから、特に私が叶えたいと思っている。
こればっかりは……
今のご時世が悪い。タイミングが悪すぎる。
今年の4月からずっと、石垣へ行けないかと様子をうかがっているのだけれど、コロナ下の状態で石垣へ行くことが躊躇われて、実現できていない。
もう今は7月。石垣で南十字星が見える季節を逃してしまい、来期まで待たないといけない。
石垣で南十字星が見える期間は12月下旬~6月中旬。
次は12月下旬。
……その頃、まだ私とあーちゃんのスケジュールが合うのかすごく不安なのだけど、無理をして行く事はどうしてもできなかったし、仕方がないのだ。
私たちのよがって盛り上がった気持だけで決行したとして、もしもがあったら。
島の人たちや帰ってから私たちの周りの人たちに迷惑をかけたのでは、ひぃちゃんは絶対に喜ばない。
まぁ今は行ったとしても南十字星は地平線の下に姿を隠してしまって見られないのだから、大人しくしているしかない。
しかし、その手始めとして、私は一つ始めた事がある。
ひぃちゃんからもらった石のうち、残っていたクッションカットのブルートパーズ。
クッションカットは、シルエット的に角の無い四角なのだけど、そんな特殊な形の空枠は売っていないのです。その上、側面から見たシルエットはとても肉厚。
なので、ボリュームがあり過ぎて丁度いい空枠なんてなかなかないのだけれど、どうにかして肉厚クッションカットが入るラウンド(正円)の空枠は無いものかと探し、試行錯誤してぎりぎり入る空枠をゲットした。
そりゃ、ベリル同様にオーダーメイドに出せば話は早いのだけれど、あれはベラボーに高いのです。……おいそれと連発できるような技ではありません。
苦肉の策なんです。
それをネックレスにして、私がもともと所有していたフクロウのぬいぐるみに付けてもらった。
あーちゃんとごはんを食べに行ったりするときは、ひぃちゃんの代わりに同行してもらおうかと。
フクロウは森の賢者。(私が持っているぬいぐるみはブラックメンフクロウ。ぬいぐるみ作家さんが作ったものです)
博識だったひぃちゃんにぴったり。
南十字星を見に行く時も同行してもらおうと思います。
早くコロナが落ち着いて、普通の生活に戻れますように。
まっててね、ひぃちゃん、と思いながら。
ここで余談を二つ。
後日、おばさんからメッセージをもらった。
バナナは結局三本中、二本を地植えにしたそうだ。
実際にご近所さんもバナナを植えているご家庭があるようで、ひぃちゃんもそのバナナの木を頻繁に観察していた。
それで寒いので有名なその辺りでも、そのバナナを見る限り越冬しているから大丈夫だと、バナナが欲しいと言っていたのだ。
私の家では、冬には温かい室内に移動してもらい、ぬくぬくと育っていたバナナだけど、これからはスパルタ!(笑)
それでもきっと外で元気に育ってくれる事でしょう。
三本中、残りの一本の話は聞いていないのだけれど、多分、室内に置かれるのではないかな?と。
ぬくぬく続行決定のセレブバナナ(笑)
余談もう一つは、バナナの木を配達した日は、お昼を食べてからの方がいいだろうと回転ずしを食べてからひぃちゃんちへ向かったのです。
おばさんを待たせているかもしれないのに、寿司とトークが楽しくてまた長居をしてしまって、やっと重い腰を上げてお会計し、車のドアを開けようとした時、車の後方で呼ばれた様な気が。
ふと呼ばれた方を見ると、後方の草地の四葉のクローバーと目が合った。
緑の手を持つ人や、目が慣れている人には全く珍しくない事なのかもしれないのだけれど……
昔テレビで、四葉に呼ばれて四葉を採取しまくる女の子を見たことがあるのだけれど、私もそれにあこがれて、四葉がほしいなぁと四葉チャンスがある度に目を皿のようにして探すのだけれど、見つけたことが無いのだ。
(まぁ、ピュアじゃないからね、)
そんな私が、呼ばれて振り向いた瞬間に集中線込みで四葉と目が合ったのだ。
ひゃぁぁぁぁ!あーちゃん、これちょっと見てぇぇぇぇ!となり、四葉やん!となった。
ごめんなさいね、と思いつつも採取してあーちゃんにもらった紙に挟んで持ち帰った。
時々あの四葉に呼ばれる女の子の事を思い出しては、どうして千切られることが分かっているのに、呼ぶんだろうと思っていたんだけど、私が見つけた四葉は、ひぃちゃんが今日も一緒にいるよ、って知らせてくれたんじゃないかな、と思ったりしている。
私を呼んだのは、四葉じゃなくてひぃちゃんだったのかも。
だって、長年望んでも手に入らなかった四葉に呼ばれるスキルを急に習得したはずもないし。
ひぃちゃんと関係のある日は、不思議な事が起こるなぁと思うのだ。