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前章 Ⅰ





『どういうことだ、これは!』

『奴らはあの大戦で絶滅させたのではなかったのか』

『破滅の始まりじゃ。 予言通り全てが無に還ってしまう』

『そう易々と目論見にはまってたまるものか! 我々はこの世界の理を保たなくてはならないのだ!』

『だがどうする。 このまま天界が動きだせば、かつての大戦の二の舞になるぞ』

『かといって我々が行動を起こしてしまえば、人間達も巻き込むことになってしまいます』

『何を悠長なことを言っている! もうこちらにも余裕はないのだぞ!』

『お言葉ですが、あなたも人間の感情が及ぼす奴らへの影響をご存じないわけではありますまい!』

『⋯⋯⋯静まるのだ。 ここで内輪揉めなどしていても、かえって向こうの思うつぼになる』

『では、元老長』

『うむ。 何があっても神々を敵に回すわけにはいかん。 どんな手を使ってでも奴らを殲滅しろ』






映像が眩い光を放ってスパークアウトし、それきり沈黙する。

その横に立つ縁なしの眼鏡をかけた少年が指をならすと、半透明のスクリーンは音もなく消滅した。

胸元には、六芒星を描いた大きなエンブレム。

豪勢な椅子にだらりと腰掛ける人影に感情を伺わせない鋭い瞳を向け、少しの間を置いて口を開く。


「聞いたか、ケイナ」

「うーん。 予想はしていたけど、老いぼれ共の焦りようときたらひどいわねぇ。 笑っちゃうわ」

「口をつつしめ。 一刻の猶予も許さない状況なのだぞ」


少年に睨まれた銀髪の少女は退屈そうにあくびを漏らし、眠たげな深い藍色の瞳をこすった。

髪を留めるワインレッドのリボンを弄びながら、可愛らしく小首を傾げる。


「それで、いったい私に何をしろと言うのかしら?」

「予言にある少年の保護だ。 抵抗するようならその場で抹殺しろ」

「あらま。 そんなひどいこと、よくもまぁ飄々と頼めること」

「貴様にそのような慈悲が残っているとは驚きだな」

「失礼しちゃうわ。 貴女、私をバケモノか何かだと勘違いしていて?」

「事実その通りだろうが。 まったく、つくづく貴様が第一級黄道十二師と考えると正直頭が痛い」

「あら。 何なら今ここで腕試しをしてあげてもよろしくてよ?」


少女の瞳がさも楽しそうに細められ、次の瞬間真紅に染まった。

白く細い指をぱちんと鳴らすと、少年の身体の周りにその切っ先を向けた十本の刃が音もなく現れる。

少年は特に怯えもせずに肩をすくめた。


「いや、遠慮しておく。 こちらとしても貴様の能力は高く評価しているのだ」

「つまらないわねぇ。 貴女ならその距離で何本向けられようが避けられるでしょうに」

「避けたところで何にどこをやられるか分かったものじゃない。 俺も命は惜しいんでね」

「安心してちょうだいな、可愛い私たちの貴重な戦力を殺したりしないわよ」


にこりと微笑むのが合図であったかのように、刀はまた音もなく消滅する。

少女はまた大きくあくびをして、特に興味もなさそうに少年を見据えた。


「それにしても、私なんかに頼まなくてももっと適役がいるでしょうに。 シィアスの坊やとか」

「どんな状況になるか分からない。 第一の精鋭部隊なら対応できるだろうという元老長のご判断だ」

「丸投げな感じはするけど、まぁ、いいわ。 心強い戦力が増えるのはありがたいことだし」

「奴らはすでに動き出している。 できる限り迅速な保護を望みたい。 検討を祈る」


少年は軽く敬礼したあと、瞬く間にその姿をかき消した。

風がなびくこともなく、そこに人間の感触を残すこともなく。

一切の痕跡も感じさせない完全な消滅に満足気な吐息が零れる。


「さすがねぇ。 やっぱりあの子、老いぼれの下で使うのは勿体ないわ」


楽しそうに、可笑しそうに、華奢な肩が震える。

ぺろりと唇を舐めた少女は瞳に獰猛な光を浮かべ、もういちど指を鳴らした。

豪奢な椅子の後ろに2つの人影が現れる。


片方の影は隙のない完璧な直立不動の体勢で。

もう片方の影はだらしなく力を抜いて座り込んだ体勢で。


どこまでも面倒そうに頬杖をつき、少女は短く告げた。







「話は聞いていたでしょ? 明日、ターゲットを保護するわ」

「――――――了解致しました、姫」








終わらない夜は、まだ、続く。


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