クリスマス・イブと幸運な高校生
ついに最終話です!
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!
竜王から始まり、
悪霊、
王女救出、
大蛇退治、
魔王討伐、
女神撃破、
ダークエルフ騎士――。
毎回わけのわからない異世界に飛ばされながら、
本人は「なんでこうなるんだ!?」と言っているだけなのに、
気づけば世界を救っていた大吉。
そんな物語も、今回で一区切りです。
最終話はクリスマス・イブ回!
派手な異世界戦闘ではなく、
大吉らしい“優しさと幸運”をテーマにしたお話になっています。
そしてもちろん、
最後まで大吉は大吉です。
よろしくお願いします!
十二月二十四日。
クリスマス・イブ。
街はイルミネーションに包まれていた。
商店街にはクリスマスソングが流れ、ケーキ屋の前には行列。
カップルたちは手を繋ぎ、子供たちはサンタの帽子をかぶって走り回っている。
そんな華やかな空気の中――。
「クリスマスケーキいかがですかー!」
福良大吉はサンタ帽をかぶって声を張り上げていた。
━━━━━━━━━━━
「……なんでクリスマス・イブにこんなことしてるんだ俺」
しかも寒い。
めちゃくちゃ寒い。
吐く息は白い。
だが、ケーキ屋の前には次々と人が通る。
今日は短期バイト。
冬休み中に少しでも小遣いを稼ごうと応募した結果だった。
「いちごショート残り七個ですー!」
隣から聞こえる声。
大吉が視線を向ける。
そこには。
サンタコス姿の安里唯がいた。
━━━━━━━━━━━
赤いミニスカサンタ。
白いファー付きの衣装。
黒タイツ。
しかもクラスのマドンナ。
破壊力が高すぎた。
「いや~……」
大吉は思わず呟く。
「唯さんのサンタコス見れるとか最高のクリスマスだな……」
「は?」
唯がジト目になる。
「あんた本当にぶれないわね」
「だって可愛いし」
「うるさい!」
唯は顔を赤くした。
━━━━━━━━━━━
本来なら。
こんな風に普通に話せる関係ではなかった。
呪いの動画事件。
あの一件以降、唯はクラスで少し浮いた存在になっていた。
だが。
大吉は特に気にしていなかった。
というより。
「まあ、あれで死にかけたけど結果的に異世界救えたし」
「意味わかんないのよその思考!」
━━━━━━━━━━━
そんなやり取りをしていると。
ふと。
店の前に小さな姉弟が立っていることに気づいた。
小学校低学年くらい。
二人とも少し薄着だった。
弟はショーケースのケーキをじっと見つめている。
「……」
大吉はしゃがみ込んだ。
「どうした?」
姉の方が少し困ったように笑う。
「ううん。見てただけ」
「ケーキ好きなのか?」
「……うん」
だが。
その目には“欲しい”より、“我慢してる”が浮かんでいた。
━━━━━━━━━━━
「お父さん、お蕎麦屋さん忙しいから」
姉が指差す。
向かいの蕎麦屋。
年末だからかかなり繁盛していた。
「お母さんいないから、邪魔にならないように外で遊んでるの」
その言葉に。
大吉は少しだけ胸が苦しくなった。
━━━━━━━━━━━
「唯さん」
「なによ」
「ちょっと店お願いしていい?」
「え?」
━━━━━━━━━━━
数分後。
「うわぁぁ!!」
「すごーい!!」
ゲームセンター。
大吉はUFOキャッチャーを無双していた。
━━━━━━━━━━━
「なんで取れるの!?」
唯が引いていた。
大吉は適当にアームを動かしているだけなのに。
ぬいぐるみ。
お菓子。
ロボット玩具。
全部取れる。
━━━━━━━━━━━
「いや俺もわからない」
ガコン。
また取れた。
━━━━━━━━━━━
姉弟は目を輝かせていた。
「お兄ちゃんすごい!」
「本物のサンタさんみたい!」
「いやさすがにサンタでは――」
ガコン。
また取れた。
「……サンタかもしれない」
唯が呟いた。
━━━━━━━━━━━
しばらくして。
「よし、こんなもんかな」
大吉は大量の景品を抱えた。
「はい、メリークリスマス!」
「えっ、いいの!?」
「もちろん」
姉弟は何度も頭を下げた。
━━━━━━━━━━━
ゲームセンターを出る頃には、すっかり夜になっていた。
イルミネーションが綺麗だった。
姉弟は大事そうに景品を抱えて帰ろうとする。
その時。
「ちょっと待って」
唯が声をかけた。
━━━━━━━━━━━
唯は店からケーキ箱を持ってきていた。
「これも持ってきなさい」
「えっ……でもお金……」
「余り物。店長がくれたの」
「え?」
大吉は知っていた。
そんな余りはない。
あれは唯が自腹を切ったケーキだった。
━━━━━━━━━━━
「私は甘いの嫌いなの」
完全に嘘だった。
この前、教室で限定パフェ食べてた。
━━━━━━━━━━━
姉弟は嬉しそうにケーキを抱えた。
「ありがとうお姉ちゃん!」
「ありがとうお兄ちゃん!」
二人は何度も振り返りながら帰っていった。
━━━━━━━━━━━
静かな夜。
イルミネーションの光が雪みたいに見えた。
「唯さんって優しいよね」
「は?」
「本当は自分で買ったんでしょ」
「うるさい」
唯はそっぽを向く。
「……別に。ただ、子供が可哀想だっただけ」
━━━━━━━━━━━
しばらく沈黙。
だが不思議と気まずくなかった。
━━━━━━━━━━━
「ケーキあと三つか」
大吉はショーケースを見る。
「よし、俺が買う」
「えっ」
「完売した方が気持ちいいし」
━━━━━━━━━━━
結果。
無事完売。
店長は大喜び。
二人は早めにバイトを終えられることになった。
━━━━━━━━━━━
帰り道。
クリスマスソングが流れる夜の商店街。
大吉はケーキ箱を三つ抱えていた。
「絶対買いすぎでしょ」
「いや、うち男三兄弟だから」
「へぇ」
「中吉と小吉いるし」
「……は?」
唯が真顔になる。
「待って」
「ん?」
「兄弟の名前、大吉・中吉・小吉なの?」
「そうだけど」
━━━━━━━━━━━
「……ネーミングセンス終わってるわね」
「ひどくない!?」
━━━━━━━━━━━
二人は笑った。
━━━━━━━━━━━
その瞬間。
商店街の大型モニターが光る。
『本日のクリスマス抽選会、大当たり発表!』
番号が映る。
「……あ」
大吉がポケットを見る。
ケーキ購入時にもらった抽選券。
番号一致。
━━━━━━━━━━━
【特賞 温泉旅行ペアチケット】
━━━━━━━━━━━
「えええええ!?」
店員が飛んでくる。
「おめでとうございます!!」
周囲も拍手。
━━━━━━━━━━━
唯が呆れ顔になる。
「……あんた本当に何なの?」
「いや俺もびっくりしてる」
━━━━━━━━━━━
その時。
空に花火が上がった。
ドンッ――。
クリスマス花火。
色鮮やかな光が夜空を染める。
━━━━━━━━━━━
大吉は空を見上げた。
今までの出来事を少し思い出す。
竜王。
悪霊。
王女。
大蛇。
魔王。
女神。
ダークエルフ。
━━━━━━━━━━━
どれも滅茶苦茶だった。
でも。
悪くなかった。
━━━━━━━━━━━
「……なんか」
大吉は笑う。
「今年、すごい一年だったな」
━━━━━━━━━━━
唯は少しだけ優しい顔をした。
「……そうね」
━━━━━━━━━━━
その頃。
どこかの異世界では。
━━━━━━━━━━━
『聖夜の救世主・大吉』
━━━━━━━━━━━
そんな名前で。
なぜかサンタ服姿の石像が建てられようとしていた。
━━━━━━━━━━━
だが。
そんなことを大吉が知ることはない。
━━━━━━━━━━━
彼はただの高校生。
少しだけ運が良すぎる。
それだけの男なのだから――。
【完】
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!
この作品は、
「本人は普通の高校生なのに、
周囲だけが勝手に伝説にしていく」
というコンセプトで書き始めました。
毎回、
・偶然
・勘違い
・運の良さ
だけで世界を救っているのですが、
大吉本人には英雄の自覚がまったくありません。
むしろ、
「なんかラッキーだったな」
くらいにしか思っていません。
そこを楽しんでもらえていたら嬉しいです。
そして最終話は、
これまでのような“異世界の大事件”ではなく、
現実世界の小さな優しさを中心にしました。
子供たちへのプレゼント。
唯の不器用な優しさ。
クリスマスの帰り道。
大吉って、
結局こういうことを自然にできるから、
いろんな世界で英雄扱いされるのかなと思っています。
あと唯についてですが、
最初は完全にトラブルメーカーだった彼女も、
最後はかなり人間味のあるキャラになりました。
たぶん大吉といると、
少しだけ素直になれるんでしょうね。
そして最後の温泉旅行ペアチケット。
……まあ、
大吉なので当たります。
ここまで来たらもう仕様です。
この作品を書いていて、
「肩の力を抜いて笑える話」
を書く楽しさを改めて感じました。
もし少しでも笑っていただけたり、
元気になれたり、
続きを読みたくなる時間になっていたなら、
作者として本当に嬉しいです。
改めまして、
ここまで読んでくださりありがとうございました!
また別作品でお会いできたら嬉しいです!
福良大吉の幸運な日々は、
きっとこれからもどこかで続いています。




