32.砂糖製造機になりますわ~!
人質を建物から救出し、彼らと共に逃げ出した救出部隊。しかし、その後の度重なる敵からの襲撃により、1人、また1人と数を減らしていく。
さすがに全滅とはいきませんが、お荷物を抱えて無理な行動をした代償としては当然の犠牲を出すことになりましたわ。帰り着いた頃には、半数以上が欠けていましたの。
しかしそれでも、対抗馬にとってみればそれは十分な成果。
生き残った配下たちにねぎらいの言葉をかけるとともに散っていた者達へ祈りを捧げ、
「殿下!私の家族が、なぜ!?」
「さて。なんでだろうなぁ?」
それでも平民の子へと笑みを向ける。彼女に成果を見せるため。
平民の子は、短い時間だが自分の家族と会うことができた。それは彼女だけでなく、救出された人質を家族に持つ多くの平民の生徒たちが同じようなことができたのだ。
それは間違いなく、あるはずのなかった幸福。予想なんて全くできなかった、あまりにも理解を超えた幸せ。
「私の家族をお救い頂き、ありがとうございます。殿下に、心からの感謝を」
平民の子も涙を浮かべ、頭を下げています。泣いているのにこの子だとなぜか絵になるのが不思議ですわね。ヒロイン属性を感じてしまったからその影響でそう見えているだけでしょうか?
ただいい雰囲気を出せるのは平民の子だけではありません。
対抗馬の方も笑みを浮かべて、
「別に助けたつもりはないな。俺たちはただ、お前たちの人質を取っただけ、だろ?」
「ふふっ。そう、ですね」
つられて笑う平民の子。
対抗馬の言葉は、以前2人で話をしたときに交わした言葉の中にあったものと関連するもの。対抗馬の方も平民の家族を保護こそしているが、結局それは人質と変わらないのではないかというものと。
どこか懐かしそうに笑みを浮かべる平民の子は、それからしばらく何かを考えた後覚悟を決めて、
「確実に殿下の勝利に貢献できるよう、情報を持ってきます。そのためならこの命、惜しむつもりはありません」
決意を示した。
必ず対抗馬のために王子派閥から情報を持って帰ってくる、と。そのためになら自身の命すらかけて見せる、と。
平民1人が命を懸けたくらいで手に入る情報など通常ならたかが知れているかもしれないが、ここは学園。他の場所よりは命を懸ける価値はある。平民の子が自身を犠牲にすれば、決定的とまではいわずともさらに対抗馬の派閥にとって追い風となるような情報を手に入れられるだろうことは間違いなかった。
だが、そんなことを言われても対抗馬の表情は明るくならない。先ほどまでの少し悪そうな笑みも消え、どちらかというと怒りすら感じている様子だった。
だが、それをぐっとこらえて表情を取り繕い、
「おいおい。それじゃあ何のために俺が人質を取ったっていうんだよ」
「それは皆のためでしょう。ならば私はその恩義に、答えなければいけません」
「…………」
対抗馬の問いに真剣な表情で応じる平民の子。対抗馬が平民の子の家族を救って元からあった溝は消え何も障害はなくなったかのように思えたが、そこにはまだ越えなければならない壁があった。
心の奥底で、自分は対抗馬と一緒になってもいいのだろうかと迷い続ける平民の子の心の壁を。
沈黙が2人の間を支配する。
しかしその沈黙は、2人にとって悪いものではない。なぜなら対抗馬の気持ちは、それで少しだけ落ち着くのだから。
「分かった。それなら、今言おう。本当はもっと雰囲気があるところでやりたかったんだが…………」
仕方ないと言った様子で何かを始める対抗馬。
その視線は平民の子を貫き、それと共にまっすぐな思いが言葉になる。
「俺と一緒に来てほしい」
「っ!?そ、それは!」
平民の子の手を取り、対抗馬は思いを伝える。本人としてはもっとロマンチックな雰囲気のある所でやりたかったことのようだが、それでも平民の子の心をとどめるには今しかないと判断したわけだ。
もちろんそれなりに効果はあったようで、その瞳は揺れる。今決めたばかりの覚悟は、もうすでに揺らぎ始めていた。
しかし、すぐに対抗馬の言葉にうなずく様子もない。まだ心の中にある迷いは捨てきれていないのだから。対抗馬の事を考えれば、自分が一緒にいることなど邪魔にしかならないように思えるのだから。
だが、
「それでも抗うというなら、これは命令ってことにする。俺と一緒にこい。俺はお前が欲しい」
「っ!…………は、はい」
平民の子に詰め寄り、愛を囁く対抗馬。その強い言葉に平民の子も壁なんて打ち砕かれてしまい、頷くことしかできなかった。
だがそれでも、表情は幸せそう。まだ迷いはあるが、それでも対抗馬と共に歩めることに、間違いなく幸せを感じている様子であった。
いや~。対抗馬たち、青春してますわね~。甘すぎて砂糖吐きそうですわ。コーヒーが良く合いそうですの。
これにて今回の件は一件落着。対抗馬と平民の子は幸せに暮らすことになりましたとさ。
…………なんてことには当然なるはずもなく、
「平民との恋なんて、大問題ですわよね~。それでは派閥が確実に揺らぐでしょうねぇ。平民の数が増えたからと言って、その部分が帳消しになるほど平民との恋愛が与えた影響というのは小さくないんですのよ?」
こうして対抗馬と平民の子が恋人にでもなりますと、間違いなく対抗馬派閥は揺れる。弱体化は免れないでしょう。
それこそ、対抗馬を下ろそうなんて言う人間すら出てくるかもしれませんわね。特に、エニケーちゃんがそれを納得できるかは分かりませんわ。平民との恋愛という物で1番被害を受けたのエニケーちゃんたちですし。
そしてそれと共に、対抗馬とその婚約者との関係への影響も懸念されますわね。そこの関係が悪化すれば、最悪対抗馬の情報を握った人間が王子派閥に行ってしまうことになりますの。それは間違いなく痛手でしょう。
さらに、今回私が狙ったことはそれだけではなく、
「救出にだいぶ無理をしましたからねぇ。ただでさえ少ない手駒がさらに減ってしまった。そんな状況で、自身の身は守れるんですの?」
対抗馬が暗殺される可能性。それが存在しますの。
手駒が減るというのは、対抗馬の場合護衛が減ることと等しい。そもそも手駒が少ない対抗馬の場合、そうなってしまうのですわ。
現在はどうにか派閥の配下の子たちから少しずつ護衛を分けてもらっているようですが、それでも連携面など問題は多数。
そんな状態、王子派閥からしてみれば狙わない理由がないのですわ。
「派閥が揺らぐ可能性があり、もしそうでなくても暗殺されることになる。さてさて、対抗馬はどうやって対策をするというのやら」
私の計画はまさに完璧。どうしたって対抗馬派閥が弱体化することは決まっているのですわ。
今まで王子派閥にばかり被害は出ていましたが、ここで一気に対抗馬派閥を叩いて勢いを削るんですのよ。そしてそうなれば王子派閥からの対抗馬派閥に対する攻撃は激しくなるでしょうから…………
「楽しみですわね~。一体、どうなってしまうのでしょう?」




