31.人質救出大作戦☆
それはある休日の事。
数人の人影が、王都のはずれにある独特な雰囲気を持つ建物へと接近していた。全員がどこか覚悟を決めた表情をしており、これから何かが起きることは伝わってくる。
ただ、その建物へと容易に侵入することはできない。建物の警備は厳重で、そんな怪しい集団がいればすぐに人は集まってきて、
「とまれ!お前たち、ここは私有地であり一般人の立ち入りは禁止だぞ!今すぐ両手を上げ、そこから1歩も動くな!」
そんな静止の声が。もちろんそれだけでなく警備の者達はそろって剣を抜き、その切っ先を怪しい集団へと向ける。変なことをすれば今すぐにでも斬られるだろうことは分かったし、それと同時に例え声に従って止まったとしても無事に帰ることができるとは思えなかった。
しかし、集団の者たちは誰1人としてひるむことなくただただその建物を目指し進んでいく。
まるでそんな警備の者達など警戒にすら値しないと言った様子で。
「おい!止まれと言っているだろう!聞こえていないのか!」
警備の人間もここまで無反応なことは予想外だったようで、どこか焦りすら感じさせる様子で静止を繰り返す。
しかし、全くと言っていいほどその声による効果は出ないようで、
「愚か者め!貴族へ逆らうなど正気ではないぞ!」
「忠告をしたのだ。命は惜しくないと判断するぞ!お前ら、この犯罪者共の首を取れ!ただし、数人は生け捕りにし、情報を吐かせるのだ!」
仕方なくと言った様子で警備のモノたちは一斉に切りかかり始める。
貴族の手のものなだけあってそれなりの練度はあるようだが、それでも学園で護衛についているような者達と比べてしまえば雲泥の差。到底一流とは言えないようなものでしかなかった。
だがそれでも一般人にとっては十分脅威。たとえ一流ではなくとも盗賊崩れなどであれば十分圧倒できる実力ではある。
なのだが、
「ぐわああぁぁ!!???」
「なんだ!?何をされた!?」
「いつ剣を抜いた!?」
斬りかかった数人が、悲鳴を上げて倒れ伏す。全員、明らかに致命傷と思われる傷を負っていた。そしてそれと同時に、もう再度の攻撃はできなくなってしまっていることは見て取れた。
集団の手には一様に剣が握られておりそれによって警備にけがを負わせたことは分かるが、警備側は誰1人としてその剣が抜かれた瞬間に気がつかなかった。
それはまるで、
「な、なんだ?こいつらが強いとでもいうのか!?」
「ふ、ふざけんな!こんな怪しい奴らに負けるような鍛え方はして、ぎゃああぁぁ!!!???」
警備の者達との間に、圧倒的な実力差が存在しているようだった。それこそ、学園で貴族の子供達の護衛についている者達のように。
何人斬りかかって行っても、反応すらできずに逆に切られて地面に倒れ伏し、警備の数は減っていく。
そうして警備の人数が減れば、まるで残りは眼中にないとでもいうかのように怪しい集団は再度建物へと歩みを進めていく。
もちろん眼中にないと言われたようなものである残りの者達も切りかかりはするのだが、その歩みを少しも止めることはかなわない。皆同じように、地面へと倒れ伏し情けない声を上げることしかできないのであった。
「チッ!もう来やがったか」
「今だ!矢を放て!」
「っ!?向こうが何か飛ばしてきています!」
建物からも攻撃の手は伸びるが、それすらも通用しない。矢はすべて弾かれ、逆に石のようなものを投げられて目を負傷するものが出る始末。
すぐに建物内への侵入すら許してしまう。
だが、ここでやっと、
「う、動くな!こいつらの命が惜しければ全員投降しろ!」
手段が足を止めることになる。
その集団の前に立ちふさがるのは、1人の女性を人質にとるようにして集団をにらむ兵士。
その行動によって集団の足が止まったことを確認すると、少し安心したような表情を浮かべるとともに、
「へへへっ。やっぱりお前ら、こいつらの救出が目的か。となると、リトー派閥の人間だな?平民の家族のためにここまでやるとは、愚かな奴らもいたもんだな」
バカにするような笑みを浮かべる。
そして、女性に突きつけている刃物により力を入れて集団をにらみつけるのであった。
この兵士が言うように、ここは平民の家族の収容場所。つまり、学園にいる平民の生徒たちに対する人質の収容場所というわけである。
当然すべての人質がそこにいるわけではないが、それなりの数の人間がいることも間違いなさそうであった。
貴族たちとしてもここに本格的な襲撃が行なわれるとは予想しておらず、よって護衛の腕があまりよくないということも仕方のない話ではある。もちろん、対抗馬派閥の貴族たちもここに攻撃をしようなんて誰1人として今まで思ったこともないはずだ。
だが、今回この怪しい集団は攻撃をした。
当然、それなりの準備をしたうえで。
「っ!?いつの間に!?」
人質を取っていた兵士が気づいたときには、すでに集団のうちの1人がその目の前にまで迫っていた。すぐに人質を使って対応しようとしたが、その時にはすでに遅し。何もできないまま命を落とすこととなった。
そのまま集団は人質から少しだけ話を聞いた後、また歩き始める。
人質から聞いた、とらわれている者達が集まっている場所へ。
「ま、マズいぞ!侵入者が人質を回収しやがった!」
「俺たちじゃ人質を使っても無駄かもしれない。とりあえず、敵が得る成果を少なくしておけ!」
「捕えている平民は全員首をはねろ!敵に回収させるな!」
だが警備の者達もこの動きには気がつく。
すぐに対応しなければならないと慌てた様子で動き出し、数人は人質奪還をさせないために人質の始末すら始めようとした。敵に少しでも成果を得させないために。
ただ、
「…………さすがにそれは困りますわねぇ。ここは人質を大量に抱えておいてもらわないと困りましてよ」
ここで活躍するのがそう!この私!
実は私、こっそりこの集団の後をつけて、というわけではないのですがこの建物に侵入しておりましたの。目的は当然、この人質奪還を裏から手助けするためですわ!私の計画のためにはここで成功してもらう必要があったんですのよ。
もちろん、私ではなくエニケーちゃんの派閥の人間が奪還に成功するということも非常に重要なポイントですわ。
「適当にこの方々の遺体も彼らにやられたように偽装しておかないといけませんわね。忙しいですわ~」
サポート要員という側面が強い私ですけど、かなり忙しい事もまた確かですわ。人質に手を出しそうな連中を片づけて、ついでにその体を移動させて他の連中と同じようにやられたように見えるようにして、なんてしていたら時間的余裕なんてありませんわ。大忙しですの。
ただそれだけ私も忙しく働いただけはあって、
「あ、ありがとうございます!」
「やっと、やっとここを出られる!」
「ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」
無事人質の救出に成功。
わらわらと牢屋などから平民たちが出てきましたわね。これで彼らの作戦も成功。
平民たちに平和が訪れましたとさ。めでたしめでたしですわ!
なんてはずもなく、本番はここからと言ってもいい。
人質を抱えたうえでの行動なんて、来る時よりも遅くなるに決まっているのですから。
当然その帰り道にだって敵はやってくるわけですし、どうなってしまうかなんて考えるとそれは…………ねぇ?




