29.ユーたちくっついちゃいなYO!ですわ
私が考えたこと。それは、推定主人公ちゃんが無理でも対抗馬を別の平民に惚れさせても結局派閥内からの評価は推定主人公ちゃんを好きになった時とあまり変わらないんじゃね?という物でしたの。
対抗馬にも婚約者はいますし、平民相手に浮気をしたといううだけで王子とかなり近いのですから大きなマイナス要素ですの。そこから相手が推定主人公ちゃんだったとなればさらに状況は悪化しますが、そうでなくても十分効果は出ます。
ということで1番ドキドキするシチュエーションにできる相手という物を選んでみたわけですわ。夜中に歩いていたらばったり会うなんて、敵ではないかと疑う気持ちもあるでしょうしきっと内心は心臓バクバクだと思いますの。
本来であればこの対抗馬の相手には親友キャラちゃんを持ってきたかったのですが(それならどういう展開になっても推定公ちゃんとの争いなどあって面白そう)、残念ながらそうもいきませんでした。意外なことに、親友キャラちゃんは人質を取られたりしなかったようなんですの。おかげで、まだ中立派にいるのですわ。
中立派にいる状態でハニートラップ要員にしてしまうとエニケーちゃんの派閥と中立派に溝ができてしまいますし私も疑われかねませんから、泣く泣く使う人間を変更することに。
そうした時に私が目を付けたのが、王子派閥でスパイ活動っぽいことをしている平民の子だったというわけですわ。
「どういった道筋をたどるにせよ、恋仲になってくれればそれで構いませんわね」
私としてはその程度に考えていましたわ。
ただ、実際にやってみたら驚きの結果に。
対抗馬が夜む飲み物にカフェインを混ぜて夜眠りにくくした後少しの物音を立てて偶然平民の子と鉢合うように仕掛けたわけですが、意外なことにそこで出てくる対抗馬のセリフが何ともそれっぽいこと!まさに、恋をするにふさわしい台詞の数々を口にしてくれたのですわ!
なぜかは分かりませんが、推定主人公ちゃんたちよりもよっぽど素敵な恋に見えますの。
私だけの感覚かもしれませんが、やはり苦労などが見える分美しく感じるのでしょうか?対抗馬は才能がなくてこれまで苦労してきたわけですし、平民の子の方は家族が誘拐されてますからね?
…………推定主人公ちゃんの方も家族は誘拐されているはずあのに、どうしてここまでシリアスの度合いが違うのか。
「とはいえ恋は芽生えても、すぐにどうこうなるわけではありませんわよね」
恋に落ちたからと言って、王子たちのようにすぐ恋人関係になるということは当然ありません。
対抗馬にだって立場という物がありますし、王子たちと同じような状況になることは避けたいはず。そして平民の子は家族を人質に取られているので敵対派閥のトップと仲良くするなどもってのほか。そんなことをしてしまえば即座に1人家族の首が飛ぶでしょう。いや、首ならまだマシなのかもしれませんわね。
ということで、2人をくっつけるにはもう少し努力が必要。
まず平民の子の家族を救出する必要がありますし(もちろん私はやりませんけど)、表立って平民の事対抗馬がイチャイチャするにはそれなりに好感度を上昇させる必要があります。つまり、もっと惚れさせなければならないというわけですわね。特に、対抗馬から平民の子への愛を大きくする必要があるでしょう。
さて、それらに必要な順番がどうなるかといいますと、まず最初に行なうことは当然2人の対話。
ここで対抗馬がどれだけ平民の子に惚れるかによって、平民のこの家族を救出できるかどうかも、その後に対抗馬が自分のパートナーとして全面的に押し出すかどうかも変わってくるのですわ。
ということで、動きましょうか。
「…………よぉ」
「ああ。殿下。また、ですか?」
「良いだろ別に?俺が好きに動いたって責められる奴は誰もいねぇよ」
「そうだとしても私がバレてしまう可能性があるのですが。あまり接触しない方が派閥の利益にはなると思いますけど」
「ハッ。冷たいこと言うなよ。仲よくしようぜ」
平民の子が目を細める。
あまり自分の言葉を真剣に受け止めていない対抗馬の態度が気になるようで、若干の不機嫌さすら感じさせた。
それを見た対抗馬は苦笑を浮かべつつも退散する気はさらさらないようで、
「で?今日はどんな情報を持ってきたんだ?」
「それは置いた資料を見てもらった方が速いと思うのですが、口頭で説明するより伝わるよう簡潔にまとめたつもりですので」
ツンツンした態度の平民の子。本来王族にやるにしては無礼なそれだが、対抗馬は気にしない様子。逆に面白そうに笑みを浮かべるくらいである。
嫌そうな表情の平民の子を無理矢理部屋へと連れ込み、特に襲ったりはすることなく使用人に用意させた御茶屋お菓子を出す。
「毎日のようにこんなことをしていれば、確実にバレてしまいますよ。とはいえ殿下にとっては、私や私の家族のことなどどうでもいいのかもしれませんが」
「おいおい。そんなつもりはないぞ?こっちはお前が安全に帰れるように人を使ってるっていうのに」
「人を、ですか?」
毎日のように密会していればそれはもう周知の事実になり始めてしまうが、対抗馬はそれでもただ平民の子を1人で行動させるよりは安全性が高まると考えていた。
なぜならば、配下を使って安全に帰ることのできるルートの確保とそのタイミングをつかむための仕込みをしているのだから。
それはそれでリスクが高まることは確かだが、1人で行動させるよりはよほど安全だと思えた。
特に最近は、いい加減に貴族たちも行動の予定が一部察知されていることに気がつき始めてしまっているのだから。
本格的な捜査やは見張りが始まれば、仲間の少ない平民の子では捕まってしまう可能性が高いだろう。
なまじ頭がいい分そうしたことは何となく平民の子にも分かるようで、
「そう、ですか、ご配慮いただきありがとうございます…………ハァ」
「クククッ。感謝した後にため息をつくとは情緒の安定しない奴だな」
感謝こそすれど、対抗馬の態度が気に入らないことも間違いない。平民の子としては複雑な心境にならざるをえなかった。そして対抗馬は、その様子をただただ楽しげに見ている。
ただいつまでもそうしているわけではなく、さすがに2人での話も行われるわけで、
「ほぉん?貴族の心も分かんないものだな。平民の事を受け入れたり裏で叩いたり。こっちの派閥はこっちの派閥で、誘拐か何かしたって噂もあるのに数人は逆に保護してるしな」
「保護、ねぇ。言い分で言えばこちらの派閥も一応平民の家族を保護してはいるんですよ?」
「おいおい。そっちのものとは一緒にしないでくれよ。こっちの派閥は人質としては使ってないぞ?…………とはいえ、そうして家族を保護した平民は俺たちの派閥から出ようとは思えないだろうけどな」
「そうでしょうね。結局はあまり違いを感じられませんが」
平民の家族を名目上は保護している両派閥。
しかし扱いに差はあるとしても、結局その実情が人質として機能している物であることは変わらなった。たとえ心のうちが全く違っていてそれをされた平民の心持も全く別であるとしても、保護された家族という物を考えると途中で派閥を抜けるといった行動に出ることができないことも事実だ。
それは平民にとっては重要であり大きな悩みの種であるし、貴族にとってはどうでもいい事。もちろんその結果によって平民の仕事や信用度は変わってくるのかもしれないが、それでもたかが平民数人の仕事など気にするものでもない。
そうした考えや常識をお互いにすり合わせ、2人はお互いを理解していく。
そしてそれと共に、
「ケヌマも。結局はあのマターとかいうやつの家族を守らなかったわけだし、心の奥底では平民のことなどどうでもいいという思いがあるのかもしれないな。ただ、マターだけが特別なんだろう」
「特別ならその周囲の人間にも気を使うようには思いますけど」
「あいつらにとってのマターは、人というよりも宝という認識なのかもな。どれだけそれが愛しくても、その宝を作った人間やその宝が生み出された場所には興味がないってことだろう」
「なるほど。口では色々と言っていますが、根本的な部分では物としか見ていないわけですか」
自分たちが学ぶべき存在からやってはいけないこととやるべきことを把握していた。
無意識かもしれないが、王子たちや推定主人公ちゃんから自分たちの将来に悪影響が出そうなことと関係を保っていくために必要なことを学んでいるわけだ。
人のふり見て我がふり直しているのである。
そうして少しずつ歩み寄り、心の距離を縮めていく2人。
平民の子の方は家族への心配もあってかどうしても対抗馬に心を許したくないようではあったが、それでもその気持ちは少しずつ薄れていく。
そして、ある時転機が訪れた。
それは何気ない質問だったのだが、
「殿下は、いつからケヌマ殿下を嫌いだったのですか?決定的な理由は陰口を言われたところなのでしょうけど」
「それは…………昔からじゃないか?周りも最近になるまでずっとあいつを持ち上げ続けて、俺には見向きすらしなかった。まだ陰口を言うならいい方で、ほとんどのやつの眼中になかった、と言ってもいい。その理由は、全てあいつだからな。自分の才能がないことを他人のせいにするというのも情けない話ではあるが」
対抗馬の少し暗い気持ちがあふれ出した。今までずっと浮かべていた余裕を感じさせる笑顔の仮面が、はがれてしまったのである。
それほどまでに、対抗馬にとって王子という存在は不快な存在。何年も王子を恨み、妬んできたことがよく分かった。
ただすぐに対抗馬は顔を横に振ってその表情を取り繕う。だがその心の中では、失敗したという気持ちが渦巻いていた。そんな言葉は、まだ本気で何かする気はないとはいえ心惹かれる相手に言う言葉ではなかったから。
しかし、
「その……大変でしたね。殿下」
「お、お前っ!?」
平民の子から伸ばされる手。
それはお対抗馬の頭の上に置かれ、そのまま頭を何度か優しくなでるように動いた。
平民の子の顔には、少しだけだが同情や共感のような、そして慈愛の気持ちが浮かんでいた。
「ガ、ガキ扱いするんじゃねぇよ!そんなに歳は違わねぇだろうが!」
「ふふっ。レディーに年齢の事を言ってはいけませんよ、殿下」
嫌がるような口ぶりだが、対抗馬はその手をはねのけない。
不服そうな顔をしながらもそれを受け入れる対抗馬に、平民の子は笑みを深める。
何かが少し、進む気がした。
「よぉしよしよし!良い具合に進展してますわね!このままスパイがいることをバレないように工作を続けましょうか。私の力が通用する間にくっ付いてくれると良いんですけど」
あれ?この話の主人公って…………




