28.対抗馬を狙え
エニケーちゃんとのお話が終わってしまった後、もらった手土産などを持ち帰りましてすぐに騒ぎが起きていないか確認しましたが、残念ながら何もなし。
ただ周囲の話を盗み聞きすると推定主人公ちゃんが対抗馬に話を聞きに行ったことは間違いないようで、現在は個室でお話し中のようですわ。
重要な部分は聞けないわけですが、面白いものがないわけではありません。
個人的にお気に入りなのは、王子の顔ですわね。心配していることはもちろんですが、なぜ対抗馬に会いに行くのかという困惑と自分の良くないことを知られてしまうことへの恐怖、そしてわざわざ自分を置いて対抗馬に会いたいと思う推定主人公ちゃんへの怒りなどが入り混じった表情が見れますわ。
とても面白いですわよ。待つことしかできな人間というのは、本当にいい顔をしてくれますわね。
「…………マター!」
「あっ、ケヌ君」
「大丈夫だったかい?何も変なことはされなかった?」
「う、うん。大丈夫だったよ」
しばらく王子の顔を眺めていると、推定主人公ちゃんが帰ってきましたわ。王子に駆け寄られて少し驚いている様子でしたが、あまり表情が暗いわけではありまんね。対抗馬との話はうまくいったのかもしれません。
しばらくその場でとどまっていると勝手に向こうから話を聞かせてくれまして(ただの盗み聞き)、
「私も観察していましたが、特に変なことはされませんでしたね。念のため出された物には手を付けないようにしましたので、問題ないかと」
「そ、そうか。それならよかった」
「リトー殿下は良い人そうだったよ。ただ、ケヌ君が良い人だっていうのはどうしても伝わらなかったけど……」
「ア、アハハ。それは仕方がないよ。恨まれてるみたいだからね。そう簡単には変わらないよ」
王子としては、というか王子派閥としてはあまりうれしくないことですが、推定主人公ちゃんは対抗馬に良い人という評価を下したようですわ。王子さえ絡まなければ凡人以下かもしれませんが、それでも人間性が終わっているわけではないということのようですわね。
きっと、どちらかと言えば王子の方が性格は終わっているのでしょう。平気で悪口とか言えてしまう人間なわけですし~。
では、推定主人公ちゃんはそうした評価を下して悪くない結果を得たようですが、対抗馬たちがどうなっているかと問われますと、
「全く。殿下ももう少し危機感という物をですね」
「分かってる。俺があいつに心を奪われないかが心配ないだろ?それは問題ねぇよ。俺があいつと並ぶことなんてないからな」
「そうは言いますが」
こちらも盗み聞きさせてくれまして、対抗馬がエニケーちゃんにお小言を言われていますわね。ただ、王子は推定主人公ちゃんにたぶらかされることはないという自信がある様子。
個人的には推定主人公ちゃんなら惚れさせられるかと考えてましたけど、思ったよりガードが堅いのかもしれませんわね。たとえ王子と同じような扱いにはされたくないと思ったとしても、対抗馬の事ですから王子より推定主人公ちゃんを惚れさせて自分だけを見るようにさせるとか言い出すかと思っていましたが。
これは対抗馬の心が強かったからなのか、それとも推定主人公ちゃんの力が落ちているのか…………。
ただ、個人的には原作の方に対抗馬が攻略対象として登場しなかったから推定主人公ちゃんの力が通用しなかったという可能性が1番高いと考えておりますの。正直、対抗馬は若干他のイケメンとキャラ被りしているんですわよね。俺様系はもう逆ハーレムの中にいますし、そこのポジションがなくなると対抗馬はキャラが薄いのですわ。
下位互換であると考えると、攻略対象外として出てくるキャラの可能性が高いと思うんですわよねぇ。
「とにかく、あれに陥落してしまった者はケヌマ王子1人ではないのです。十分警戒をしていただけると」
「分かったわかった。お前らのいないところでは話さねぇようにするよ」
いや、俺様系ではなくちょっとチャラい系でならワンチャンありまして?まだ希望を捨てきるのは早いでしょうか?
とは思いえますが、あまり推定主人公ちゃんに夢を見るのもよくありませんわね。とりあえず推定主人公ちゃんに惚れさせる作戦は失敗したということにしましょう。
これができれば当然対抗馬の派閥に大きな打撃を与えられたのでしょうが。
ただ、これが失敗したのであればまだまだ次の手は用意できますの。
対抗馬に推定主人公ちゃんの影響が全くないということはないと思われますし、今なら心にスキがあることでしょう。
狙い目ですわ。
「それに、あいつにケヌマの過去を教えてやったのは悪い事じゃないだろう?もしかすると少しだけ、あいつのことを見る目が変わったかもしれない」
「それはどうでしょう?多少悪い部分が見えたところで何か影響があるとは思えない関係のように見えるのですが」
おや。対抗馬が話の詳しい内容を言ってくれてますわね。やはり、推定主人公ちゃんには王子の悪い話を大量にしたようですわ。悪口を言った以外にどんなものがあるのかは正直かなり気になりますが、今はそれを聞くことはこらえましょう。
それよりも今は仕掛け優先ですわ。
決行はもう今夜くらいでもいいのではないかしら?
《side???》
夜。
いつものように私は、リトー殿下派閥の会議室までやってくる。
そこでやることはただ1つで、それは私が集めたこの情報をまとめた資料を置いておくこと。
こうして渡した情報はリトー殿下たちが上手く扱ってくれているようで、最近は平民へのいじめの過激さがかなり軽減されているように感じる。やはりあまり変なことをし過ぎると、それがバレた場合にデメリットが大きくなるのかもしれない。
私は貴族ではないから分からないけど、それでも確実にケヌマ殿下派閥の貴族たちが躊躇していることは間違いない。これを続けていけば、必ず…………。
「お父さん。お母さん、お兄ちゃん。待ってて。絶対に私が助けて見せるから」
攫われてしまった私の家族。
私も私の家族も悪いことはしていないはずだというのに、私がケヌマ殿下の派閥にいないからという理由で私の家族は誘拐され私を脅す道具となってしまった。
それでも私は、そんな脅しにおびえ続けるだけでは終わらない。絶対にあの人たちを打倒して、家族を解放してみせる。
そのためならこの命、惜しくはない。
私はそう改めて覚悟を決めて、部屋へと戻ろうとする。
いつも通り、厳重な警戒態勢は敷かれているけど敵意がなければある程度のところまでは侵入を許してくれるため私はぶじに帰路につくことができる。
そう思っていたのに、
「ん?お前」
「っ!?」
突然の声に思わず動転して、走って逃げようとした。
でも、向こうの方が動きは速い。声の主ではなくその騎士か何かが私の腕をつかんで、次の瞬間には地面に組み伏せられていた。
「そう慌てるな。誰だか知らないが、ここまで来たんだからそれなりの覚悟は………って、もしやお前、情報提供者か?」
嫌らしい声、そう思えるようなものを途中まではかけられていたけれど、私の正体に気づいてその声に含まれる感情はがらりと変わる。
「なるほど。それは邪魔をして悪かったな。だが、丁度いい。お前とは一度話をしてみたかったんだ」
ただ、見逃してくれるわけではないらしい。
私に声をかけた人、リトー殿下は騎士に命じて私をある程度自由にした後椅子に座らせる。さらには私が万が一の時のことを考えてしていた顔を隠すための覆面もはぎとられて、
「っ!?…………へぇ。良い目をしてるじゃねぇか」
そう言って笑うリトー殿下は、どこか楽しげだった。
その表情を見て、なぜか私の鼓動が速くなることを感じる。
「さぁ。楽しい夜を過ごそうじゃねぇか」




