8話 魔法の修行
「つ、疲れた……」
大量の荷物を担ぎながら、俺たちは都市に戻ってきていた。
魔法の補助無しで、10kg以上の荷物を持って1時間移動は、ウィザードには厳しすぎる。
肉体労働は専門では無いのだ。
とりあえずはこれを売っぱらうためにもギルドへと向かう。
ギルドに入ると、俺たちに視線が集まる。
まあ、これだけの荷物を持っていればそうもなるであろう。
しかしローウェンの一件があったので、絡んでくる人間は誰一人としていなかった。
それはそれで有り難いので、そのまま受付に向かう。
「カルラさんにリオンさん、本日はどのようなご用件……いえ、聞くだけ野暮ですね。お持ちの素材や魔石の買い取りでよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
カルラは涼しい顔でドサドサと荷物を置いていく。
「色々な魔物が居ますね……。討伐依頼は受けてましたか?」
「いえ、魔の森へリオンを案内するのが目的でしたので……。全部リオンが勝手に倒してしまい……」
「1人でですか……。持久力も問題なしって事ですかね……」
その言葉に、辺りが少しだけざわつく。
「おいおい、あれだけの量を1人ってマジかよ」
「……いや、ありえるんじゃねえか? だって、あのウィザードだぜ」
「おう、俺もそんな気がする」
「ローウェンを指先1つでKOしただけはあるってか」
『指先1つでKO』などという事をした覚えはないが、わざわざ否定する気力もない。
俺が椅子に座って休憩している中、受付嬢以外のギルド職員も集まってきて、彼らは全力で素材の仕分けを行っていた。
「魔石に傷もついてなければ、毛皮の状態も良い、と。死体はどうされました?」
「放置して疫病になっても困るので、ちゃんと処分してきましたよ」
「それはありがとうございます。……こちら、全て査定が完了いたしました。手続きをしたいので、冒険者カードを貸していただけますでしょうか」
俺は言われるがままに、冒険者カードを渡す。
そして数分後、受付嬢は報酬とともに冒険者カードを返してくれる。
「今回の報酬に合わせて、リオンさんのランクをCランクに上げさせて頂きました」
「……良いんですか? そんな簡単に上げてくれて」
「はい。というかですね、ヘルハウンドを余裕で倒してくるような人間がDランクの方がおかしいんですよ。本来ならAランクに飛び級させてたかったんですが、そこはギルドの規定でして……」
「そ、うか。上げてくれるなら俺としても助かります」
冒険者カードを確認すると、Dランクと書かれていた部分がCランクと書き換わっていた。
「それと、1つだけ不躾な質問をしてもよろしいでしょうか?」
「? 別に構いませんが」
「単純に、リオンさんが今まで何処のギルドで活動していたかが気になっただけでして」
ああ、と俺は頷く。
冒険者カードには俺の職業やランク、そして名前が載っているが、何処で活動していたかまでは載っていない。
「エッケランって場所なんですが、知ってますか?」
「エッケラン、ですか。聞いたことはありますが、何処にあるかまでは……。ということは、リオンさんはこの大陸出身ではないんですね」
話から察するに、ここと俺が居た場所は、大陸からして違う場所にあるのか。
まあ、エリス達をなんとでも見つけ出して復讐する、という予定は今の所無いから構わないが。
「んー、まあ、そんな感じです。ちょっと諸事情で此処に居ますが」
「そうでしたか。詮索するような真似をして申し訳ありません。少々気になってしまいまして」
「構いませんよ。そういうのもギルドの仕事でしょうから」
「そう言っていただけると、私共としても助かります」
さすがの俺も、ギルドが冒険者一人ひとりに融通の効く企業だなんて思っては居ない。
どうしていきなりこんな力を手に入れたかを聞きたいだろうに、そこを聞かないでくれている以上、こちらとしても問題は無かった。
「ところで、この付近で魔法の練習を出来る場所はありますか?」
「練習でしたら、昨日利用していた空き地を使っていただいて構いません」
「ありがとうございます」
俺はお辞儀をして、カルラとともに裏手の空き地へと移動した。
空き地は俺たち以外誰も居なく、気兼ねなく魔法の練習ができた。
体力を使い果たしていても、魔力だけは残っていたので修行は可能だ。
俺は大気中ではなく、自身の魔力を使って火の初級魔法を放つ。
無詠唱だが、もうカルラはその程度では驚かない様子であった。
「リオンの魔力総量的には、あと何発ぐらい打てるんですか?」
たしかにそれは気になるな。
俺は自分の中の魔力量に意識を向ける。
今まではこんなこと出来なかっただけに、少しだけワクワク感があった。
「初級魔法なら、今の状態で7発。魔力量がMAXのときでも、12発が限界ってところだな」
「……想像よりも少ないですね」
「ま、仕方ないだろうな」
魔力量を増やそうだなんていう修行をしてこなかったからな。
メイジやプリーストなら、最初からもっとあるのかもしれないが、ないものねだりをしても仕方がない。
中級魔法を取得するためにも、まずは魔力量から増やさねばならないのだから。
「でも、どうやれば魔力総量を増やせるんでしょうか」
「魔法を使い続けていれば増える、とは言われているが」
実際に周りはその修業をして、魔力量を増加させていた。
である以上間違っていないはずである。
「とりあえず、今日はあと7発だけ打って魔力を空にする。明日になって回復すれば、多少は増えていると信じるしかない」
魔力を使いすぎると生死に関わるが、幸いにして俺は魔力切れのタイミングを簡単に把握することが出来る。
もしかしたら、これは非常に効率の良い修行法なのかも知れない。
俺は明日の自分に期待しながら、その日の魔力を空にして修業を終えたのだった。