9話 若干の挫折
次の日、俺とカルラは昨日と同じ宿で食事を摂っていた。
俺はどことなくテンションの低い面持ちで、パンをかじる。
「リオン、魔力量はどうなりました?」
「……一応増えてはいたな」
「おお! それは良いことです。ちなみに、どのくらいでしょうか?」
俺とは対称的に、カルラは明るい雰囲気を保っている。
表情から察しているだろうに、わざと暗くならないようにしてくれているのだろう。
「初級魔法を打つのに必要な、30分の1ぐらいだな……」
「……なるほど」
俺としては、凄い成果を期待してしまっていただけに、あまりの微妙な結果に溜息をつかざるを得ない。
ウィザードという職業が不遇扱いされている理由を、今更ながら実感してしまう。
「で、ですが、増えているのは増えているし、成功じゃないですか! それに、この修業を1年間続ければ魔力量は今の2倍ですよ!」
「それはそうだが……」
今の魔力量が低すぎるという前提を無視するのであれば、確かに2倍になる。
2倍になったところで中級魔法を使うには少し足りない気もするが。
というか、本当に成長で増えたのかすら怪しい。
今日は調子が良いから増えているだけで、調子が悪ければ減っているかも知れないのだから。
「しかし、コツコツやるのには慣れてるし、愚直に頑張るさ」
「はい、その調子です!」
必死に応援してくれるカルラ。
その健気さが、俺には何処か辛いものがあるが、有り難く受け取ろう。
――とは言っても、正攻法で魔力量を増やして中級魔法を使う、というのは出来なくなった。
となると、強くなるとするなら別の方向性からアプローチしていかないといけない。
その辺りは実践で培っていくか、発見するしか無いか。
300年頑張ったんだ。今更1年や2年増えたところで、誤差というものだ。
「では、今日はどうしましょう? 森に行くのも良し、ダンジョンに潜るのも良しですが」
「そうだな。ダンジョンの1~4階がどうなっているのかも知りたいし、今日はダンジョンを案内してくれるか?」
「了解しました」
と言った感じで、その日はダンジョンに潜ることにした。
俺がカルラとパーティーを組んでから早3日。
段々とここでの生活も慣れてきていた。
魔力量に関しては微量ながら増えている。
加えて、俺の力を実践でどう使うか、というのも段々と明確になってきていた。
俺とカルラはいつものようにギルドの依頼を探していると、ギルドの職員から声をかけられる。
「お二人とも、今はよろしいでしょうか?」
「なんでしょう? 私達で力になれることならば是非」
ありがとうございます、とお辞儀をされ、事情の説明を受ける。
「今回依頼したいのは、ゴブリン討伐です」
「ゴブリン? あのゴブリンで良いんですか?」
俺たちが森に行くたびに、ついでのように狩られてくるゴブリン。
あの程度を狩ってこいというなら幾らでも構わないが、それはわざわざ俺たちに頼むほどでは無いように思える。
「はい。ですが、今回は群れ。しかもゴブリンキングの存在まで確認されています」
「ゴブリンキング……?」
名前だけなら聞いたことはある。
ゴブリンの上位種として存在し、彼らを束ねる存在。
本体の強さもだが、ゴブリンキングが指揮するゴブリンの群れは、通常よりも何倍も面倒になる。
「とは言いましても、ヘルハウンドを倒したリオンさんであれば、決して苦戦する相手ではないかと」
「……ふむ。しかし、俺たちに頼むということは、他のパーティーでは駄目なんですか?」
「元々はBランクのパーティーに依頼したのですが、ゴブリンキングが想像の数倍成長しているらしく、討伐は困難と判断されました」
なるほどな。
魔物を種類ごとに分けても、当然個体差が生まれる。
今回のゴブリンキングは、その中でも上位の個体ということだろう。
「依頼内容は把握しました。場所は何処でしょう?」
「それに関しましては、実際に依頼を受けたBランクパーティーの方に道案内をして頂きます」
「誰です?」
その質問に、受付嬢が答えるよりも早く、聞き覚えのある声が後ろからした。
「俺だよ」
「……む?」
何処かで見たことのある顔。
「……ああ、ローベルトか」
「ローウェンだ! わざとかテメェ!!」
数日前に俺と喧嘩をした男が、そこに佇んでいた。
……コイツが道案内ってマジか?
受付嬢に視線で訴えかけるが、微笑まれるだけで返事がなにもない。
「チッ、俺だって出来ればやりたくねえよ。だが俺以外が全員怪我しちまってるんだ、仕方ねぇだろ!」
「そうか。それはそれとして、お前が道案内は流石に嫌だぞ。即刻チェンジをしてくれ」
「そのチェンジする先が居ねえんだろうが!」
「しかしゴブリンキングと戦ってる時に後ろから殴られたら困る」
「どんだけ俺の信用ねえんだよ……」
そりゃあ無いだろう。
なにせ初対面で喧嘩を売ってくる男だ。
因縁のある状態で、同じ依頼を受けるのは流石に断りたい。
隣にいるカルラも、口には出さないが不満そうな顔をしていた。
「あのな、俺だって冒険者だ! それなりに依頼もこなしてきてる!」
「だから依頼ならしっかりこなすと?」
ちげえよ、とローウェンは吐き捨てる。
「テメェは確かにむかつく。だが、その強さは本物だ。人間に敬意は払わなくても、その強さにだけは人一倍、敬意を払っているつもりだ。テメェならゴブリンキングを殺せるってな。でなけりゃ、道案内なんて死んでもするかよ」
……へぇ。
なんというか、面白い考えだ。
あまり共感できるモノでもない。
が、Bランクだから信じろ、みたいな話よりは何倍も信頼を置けた。
カルラも、どうしようか、と困った顔をしている。
俺は、はぁ、とため息をつく。
「分かった分かった。信じてやろう。それに、戦闘中に横槍を入れられたところで、どうせ大事にはならん」
「……チッ、相変わらず一言多い野郎だ」
「ただし、1つだけ条件だ。仮に、俺を裏切ったならば、今度は手加減をしない。後悔する間もなく殺す。良いな?」
「ケッ、好きにしやがれ」
「り、リオン、流石に殺しては駄目ですよ?」
あたふたと困惑するカルラ。
そして、話がまとまったのを察したのか、受付嬢は笑顔で依頼の報酬に関する詳しい内容の説明を始めた。
そんなこんなで、話を受けた俺たちは、ゴブリンキングの討伐に乗り出すのであった。




