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明けましておめでとうございます!
すみません、昨年に一度更新したかったのですが間に合いませんでした(涙)
ゆっくりマイペース更新ですが、今年もよろしくお願いします!
たくさんのブックマークに感謝です!(*´▽`*)
その後の彼女の容態の変化は、著しいものであった。
涙の雫を飲みほした直後は、変わらず苦悶を浮かべるも、時間が経つにつれて徐々に体動は減り、最後には穏やかな寝息だけを残して静かになってしまった。
小さく上下する彼女の胸が、生命の息吹が続いていることを示している。
(よ、良かったぁ~~~~…………!)
へなへなと膝から力が抜け、わたしはその場でへたり込んでしまった。
正直なところ、頼れるのはわたしの中で稼働する<体内精製>を経て感じる"直感"のみであった。これは誰の身にも宿っているものではなく、わたし自身にのみ内包された力――この力を信じるということは、自分を信じるということと同義である。
そしてわたしは、他人の命をその信頼に背負わせられるほど、自分を信じ切る覚悟が無かった。でも方法がそれしか思いつかないから……何もしないで見過ごすよりも何かした方がマシだと感じたから……行動に移した。つまり衝動的な行動だったと言えよう。
そんな自己分析を踏まえて、冷静な思考が戻ってきた今……改めて思い知る。
――その衝動的な行動が、どれほど無責任なものだったかを。
命を背負う覚悟がないのに、他者に勝手に共感し、あまつさえ安全性の確保さえされていない涙の雫を飲ませた。この結果、彼女がもし死に至るような事態が起こっていたとしたら……わたしは耐えられただろうか。この部屋にいる皆は受け入れてくれただろうか。
……きっと、自身の手で一人の尊い命の幕を降ろした罪悪感に押し潰されていた……と思う。
結果として――天秤の針は、善き方向へと傾いた。結果論だけで講じるならば、わたしの行動は正しかったのだろう。
成功からの安堵が胸に灯ってしまったからこそ、"在り得た最悪の未来"を想定してしまい、わたしの手足は勝手に震えてしまった。
(駄目……た、立てない……)
成功した"現在"を喜ぶべきか、失敗する可能性を孕んでいた"過去"を怖れるか。どこに己の心を置けば良いか分からないわたしの頭の中は、掻き混ぜた泥のようにグチャグチャだ。
「失礼」
――と、そんな目が回りそうな思考状態のわたしを抱え上げる影が。
(え、抱え上げる?)
一瞬、状況が理解できずにキョトンとしてしまったが、目の前にある顔を見て、今自分がどういう体勢なのかを把握した。
いわゆる……お姫様抱っこ。
「え、あ、あのっ……!?」
「無理やりその肌に触れることを許してくれ。妹を救ってくれた恩人である貴女を床に座らせたままにするなど、私の矜持が許さなくてね」
「へ、へ?」
金髪の美丈夫はまだ顔に疲れを残すものの、憑き物が取れたかのような微笑みをわたしに向けてくれた。
乾ききったわたしの心に、温かな火を灯すかのような微笑み。
懐かしさを感じる温もりだが、それが何だったのかは思い出せない。
(あったかい…………あった、かいなぁ……)
森に棄てられてから――いや、ここ数年前から伯爵家でも感じなかった他人との温もり。自分には何も残っていないと諦めていたはずなのに、この身体は勝手に他人の温もりを愛おしく思い――求めてしまう。
ああ、なんという不思議な感覚だろうか。
うんと冷えた身体を、お湯で清め溶かしていくような……芯から広がる温もりに、わたしは思わずウトウトと瞼が重くなるのを感じた。
気付けば戦慄から震えていた全身は、まるで母に抱かれた赤子のように落ち着きを取り戻している。
わたしを落とすまいとしっかりと抱え込む力強い腕から、絶対的な安心感が身体を弛緩させ、わたしは温かい太陽の下でリラックスするかのように、静かに目を閉じていった。
「本当に、ありがとう……クラリア」
薄れていく意識の中、そんな彼の声が聞こえた。
(あ、そういえば……どうして……わたしの名前、知ってるのか……聞きそびれちゃった……)
頑張って瞼を持ち上げようとするも、自分の身体じゃないみたいに言うことを聞いてくれない。
(……なんだか、わたし。寝てばっかりな、気がする……)
内心でそんな苦笑を浮かべつつ、わたしは森に廃棄されたあの時より――延々と貼り続けていた緊張の糸を自ら切るようにして、本当の意味での眠りについた。




