毒の魔剣 その一
「毒の魔剣を回収、もしくは破壊してきて欲しい」
ある日、シロウが私とマスターを呼び出したと思ったらそんなことを言ってきた。藪から棒と言うか、話が見えてこない。当然、マスターもわかっていない様子である。
「なによその、毒の魔剣というやつは。私は聞いたことがないけれど」
「そりゃそうだろう。言ってないからな」
シロウは悪びれもせずに言う。こいつは昔から肝心なところを説明しなかったり、ぼかした言い方をする癖があるのだが――今は置いておこう。
毒の魔剣。おそらく名前の通りの剣なのだろうが、なぜこのタイミングで話題に出したのか。そしてそれをどう使うつもりだったのか。気になるのはその辺りである。
「毒の魔剣っていうのは、お前たちが原初の魔物に勝てなかったときに使うつもりだったものだよ。言わばスペアプランだ。これは確か以前に話したことがあったな」
それなら確かに聞いたことがある。具体的に言えばシロウとの模擬戦の時だったか。マスターが死んだときには、スペアプランがあると言っていた気がする。
「あの時は確か……あまり使いたくない、とか言ってませんでした?」
「まあ、そうだな。結果として使わずに済んだし、誰も使わないだろうから放っておいても良いかと思ってたんだが……『星が落ちた日』以来、妙な生物が辺りをうろつきまわっているだろう? まかり間違って合体なんてされても困るからな」
だからこの際に回収しようと思ってな、とシロウが言ったところでナナミが人数分の紅茶とお菓子を持ってきた。話も概要がわかったため、一旦小休止を挟むことにする。
それにしても、と考える。こいつは何をどれだけ作っているのか。おまけにシロウが作ったものの全容を知っているのはシロウだけである。シロウにもしもがあったときはどうするつもりなのだろうか。
あるいは、シロウならばもしもの時の対策も立てているのだろうか。
「合体とは言うけれど、魔剣ということは無機物なのでしょう? そんなことがあるのかしら」
「ついこの間、黄金の林檎相手にヘマしかけたのはお前だろうに。そうでなくても毒の魔剣は回収しておくにこしたことは無いから、やってくれるとありがたいんだが」
私が黄金の林檎に取り込まれかけたことを引き合いに出されては頷くしかない。あの林檎が何だったのかは未だによくわかっていないし、似たようなものが出てくる可能性は確かに否定できない。
否定できないだけで、対策の立てようがない気もするのだが。生きていれば事故にあう可能性は当然あるが、どのような事故にあうかはわからないのだから対策が立てられないのと同じだ。
「危ないものなら、回収しておいた方が良いんじゃないかな。ほら、人間を守るのも精霊剣の仕事でしょ?」
私があまりノリ気じゃないのを察してか、マスターがそんな風にフォローを入れる。いや、私も断る気はないのだ。嫌な予感がするだけで。
シロウが作ったもの、しかも放っておけばマズいと判断して回収しようとするような代物だ。どう考えてもまともではない。
「……別に嫌とは言ってないわよ。それで、毒の魔剣ってどんな特徴があるのよ。それくらいは教えてくれても良いでしょう?」
「どんなっていっても、名前の通りだよ。毒を生み出し、操る。そういう剣だ」
「六本目の精霊剣ということですか?」
「いや、違う。どちらかというと寄生剣に近いな。剣自体は意志を持たず、命令が入力されればプログラムを実行する」
道具としての在り方は、そちらの方が正しいのだろう。余計な思考や感情は持たない方が良い。
ただし、意志を持たないということはストッパーもないということである。今回はその辺りが問題になるのかもしれない。
「毒の魔剣は強力な代わりに使えば被害がでかい剣なんだよ。だからスペアプラン扱いしたし、使わなくて正直安心したんだが」
「……まあ、名前からして安全なものではないわね」
「自爆装置に近いんだよなぁ。あるいは感染を防ぐために患部を切り落とすような。より大きな被害を食い止めるために、小さな被害を我慢しようって発想だ」
おい。ちょっと待て。シロウは一体何を作ったんだ。こいつがそこまで言う魔剣なんてかかわりたくない。かかわりたくないのだが――そういうわけにもいかないのだろう。
「隠し場所についてはナナミに教えてある。最初にも言ったが、持ち帰るか破壊するかの判断はお前らに任せるよ。ヤバいことになってたら破壊しても全然かまわんぞ」
ナナミの方を見れば、給仕の間に準備を済ませていたようだ。
「今回は微力ながら私も協力致します。一緒に頑張りましょう」
そんなことを言いながら胸元で拳を軽く握っている。あざとい。どこでそんな仕草を覚えたんだ。またシロウの入れ知恵だろうか。
「僕たちも準備して出発しますね。……そういえば、行き先を聞いてませんでしたけど、どのあたりに行くんですか?」
「水上都市の近くですね。毒の魔剣は街の水源から離れていますが……」
「万が一もあるから回収しろという話ね。わかった、わかったわよ」
マスターの方を見るが、問題はなさそうだ。これまでの旅でマスターがお人好しであることはわかっているので、当然と言えば当然なのかもしれないが。
マスターと共に旅の支度を整える。とはいえ、今回は長旅にはならないので荷物はそれほど多くない。何が起こるにしろ、今日中には帰ってこれるだろう。
「それでは出発いたしましょうか。なぁに、ちょっと行ってすぐ帰ってくるだけですよ」
「だから、そういうフラグを立てるのは止めなさいと言っているでしょうに……」
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