再生と焼却
スノウが全体重を乗せた拳を魔物に突き立てた。ナナミが手首から大口径の貫通弾を撃ち出した。セイブルが圧縮した水を撃ちだした。そしてアズールが巨大な木の槍を生成し、魔物に突き刺した。
しかし、魔物は健在だった。攻撃を全て受け止め、傷ひとつ付いていない。あまりにも硬い。硬すぎる。
「さすがにこれだけやって無傷というのは、厄介ってレベルじゃないわね」
単純にスペックが高い相手というのは厄介である。普段マスターのスペックにおんぶにだっこの私が言えたものではないが、強い相手を倒すためには、より強い力が必要である。その辺りはマスターに頼るしかないか。
「いや、ちょっと違うみたいだね。無傷ってわけじゃないみたい」
私にはなにもわからなかったが、マスターは感じるところがあったようである。この際何でもいい、ヒントに繋がれば大助かりである。
「ちゃんとダメージはあるみたい。攻撃が当たった瞬間、殻が欠けている。ただ、その再生速度が早すぎる。ダメージを受けた次の瞬間にはもう治っている。あんまりにも早すぎて見逃してたけど、間違いないよ」
「つまり、あの魔物は防御力が高いんじゃなくて、再生力を防御力に転化しているってことかしら?」
「多分そうだね」
ふむ。全く攻撃が通らないのではなく、攻撃したそばから再生している。規模は違うが、ナナミの特性と同じようなものだろう。であるならば――攻略法はある。
ひとつはエネルギーの供給減を断ち、再生できなくさせること。ひとつはエネルギー切れを起こすまでひたすら殺し続けること。だが、今回はどちらも期待できない。魔物が何をエネルギーにしているかわからないし、底があるかも不明だ。
であるならば、だ。
「アズール、魔物の動きを止めてちょうだい」
「了解―。でもそんなに長くはもたないよ?」
地面から木の枝が伸び、魔物を拘束する。魔物は暴れだすが、その拘束をすぐに解くことはできない。ほんの少し、時間を稼げればよい。
「それじゃあマスター、準備は良いかしら」
「うん。いつでもいけるよ」
マスターの魔力を使い、剣の刀身に炎を纏わせる。新しく打ち直してもらった剣の力を見せる時である。
「炎よ――」
マスターが下から上に剣を振りぬくと同時に、炎の魔法を使用する。やることは単純だ。相手が瞬時に傷を癒してくるというのなら、一撃で仕留めれば良い。超高火力の魔法を使い、一瞬で蒸発させる。
剣から放たれた業火が、魔物を飲みこむ。規格外の魔力を、規格外の効率で行使した、規格外の魔法だ。おそらく、いや、間違いなくこの世で最も広範囲かつ高威力の一撃。炎が収まったとき、そこには何も残らなかった。
「これは、まあ。圧巻、ですわね」
「……ナナミなら、耐えられるのではないですか?」
「無茶言わないでください。塵一つ残りませんよ」
皆が思い思いの感想を口にしているが、私の意識は別の所に行っていた。通常の場合、魔物を倒せば魔石が出てくる。逆に言えば、魔石が出てきていないのならば、魔物は倒せていないということなのだ。
変化はすぐにわかった。黒い球体のようなものが空中に現れたと思ったら、周りの木々や土を取り込み、吸収し――先ほどの魔物が、寸分違わず再出現した。
「えぇ……」
アズールが困惑した表情と声を出す。その他の面々も、声には出していなかったが同じような感情を抱いただろう。しかも今度は二体。
だが悪いことだけではない。わかったこともある。この魔物の硬さはスペックによるものではない。仕掛けがある。先ほどの大規模な再生では、別の場所から魔力の供給を受けていた。その供給源をたどれば、仕掛けの種――この魔物の本体に行き当たるはずである。
「――爆ぜろ」
狙いは地中。大規模な爆発を起こす。さすがにこれで仕留めきれるとは思っていないが、本体を引き摺りだせれば上々である。
魔法を使って一瞬の間が空き、地震が起きた。地下から何かが迫ってきているようだ。
「……デカいのが来るわよ」
地面がひび割れ、魔物が姿を現した。先ほどまで戦っていた魔物も大きかったが、それよりも輪をかけて大きい。
「これは、また。魔物の長男というのも、伊達ではないようですわね」
「さっきまでの魔物とは気配が違うねぇ。間違いなく本物だろうね」
それぞれが戦いの構えを取る。ここからがようやく本番である。数はこちらが有利ではあるが、あちらは巨大な体躯を持っている。さらに、再生力もとびぬけている。
「早めに倒して、マシコットを助けてあげましょうか。あの娘は強かと言っても、早めに出してあげた方が良いでしょうし」
次回の投稿は8/7(火)を予定しています。




