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魔剣に転生したけど使い手がチート過ぎて私の存在価値が危うい  作者: ゆとりの和田
第七章 水の寄生剣
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暇と将来

 手合わせの後、シロウはアズールとナナミとセイブルを連れて工房へ籠った。決戦に向けたメンテナンスらしい。スノウはいつの間にかどこかへと消えていた。観光か、修行か。まあ、その辺りはどうでもいいだろう。問題は、だ。


 「暇ね」


 「暇だね……」


 私とマスターにはやることがない。それが問題だ。シロウが言うにはメンテナンスは夕方までかかるとのことだ。まだ昼過ぎになったばかりのため、結構な時間がある。今更修行をやる気分でもない。かと言って観光しようにも。


 「さすがにこの町を観光する気にはなれないね……。その、なんと言うか」


 「最後まで言わなくても良いわよ……。まあ、大人しく時間をつぶしましょうか。本もそれなりの数と質があるみたいだし、なんなら間食でも作ってあげるわよ?」


 「え? 良いの?」


 「あまり期待されても困るわよ。ナナミ程うまくは作れないわ」


 適当に材料を物色する。何を作ろうか。軽く食べられるもの、夕食に影響が出ないものが良い。デザート系か。プリンでも作ろうか。そうしよう。


 鼻歌交じりに準備をする。何人分作ろうか。マスターと二人で楽しむのも良いが、一応全員分用意しておくべきか。


 さて料理開始、といったところでマスターの様子がおかしいことに気付く。なんと言うか、そわそわしている。またいつものやつだろう。何か聞きたいことでもあるのだろうか。放置しても良いのだが、お互いのために聞き出しておいた方が良いだろう。


 「何か聞きたいことでもあるのかしら。答えられる範囲なら答えるわよ」


 「えっと……」


 マスターが言葉を選んでいる間に片手で卵を割る。シロウはなかなか良い卵を常備しているようだ。などと考えている間に、マスターは質問したい内容を決めたようである。


 「メルは、戦いが全て終わったら、どうするのかな」


 なんだその話題は。死亡フラグでも立てるつもりか。この戦いが終わったら結婚するとでも言えばいいのか。


 「えっとつまり、僕が元の世界に戻ったら、メルはどうするつもりなのかな」


 少しはまともな質問になってきた。ふむ、マスターがいなくなった後の話か。とはいえ、それを考えても仕方のない話なのだが。


 「……メルは、どうなるのかな」


 そういう聞き方をするということは、だいたい想像がついているのだろう。タイミング的にスノウに何か吹き込まれたか。あいつも余計なことをする。


 質問への答え方はいくつかある。シロウに自由に動ける体を作ってもらって旅をする、次の使い手を待つ。そういう風にごまかすことはできる。できる。ごまかさなければならない。本当のことを言えば、きっとマスターはためらうだろう。いや、帰る気をなくしてしまうだろう。


 それは良くない。良くないとわかっているのだが、沈黙したという事実が答えのようなものである。観念して、本音を言うことにする。


 「わからないわね」


 「わからないって……」


 「魔物を倒すという目的のために、なんとなく生きてきただけだから。いざ目的が達成されたときどうなるのか、どうすれば良いのか。そんなの、わからないわよ」


 少しの間、風を通り抜ける音だけがキッチンに響く。自分でも料理の手が止まっていることには気づいているが、さすがに再開する気にはなれない。さて、この空気をどうしたものか。


 少しくらいは、良いだろうか。マスターがこちらの世界に残るように誘導しても。それくらいは、許されるだろうか。


 「もし、僕がこの世界に残ると言ったら、一緒に旅を続けてくれるのかな」


 なんだか告白のようだ――事実、ほとんど告白なのだろう。答えは決まっている。


 「もちろん、着いていくわよ。マスターの剣なのだから。あなたが必要とする限り、その期待に私は答えるわ」


 マスターの表情がわかりやすく明るくなる。そこまで喜ばれると気恥ずかしいものがあるのだが。


 「マスターの子孫を見守るというのも良いかもしれないわね。先祖代々伝わる家宝として扱われれば、暇になることもないでしょうし」


 「……スノーホワイトから、精霊剣を人間にする方法があるって聞いたけど」


 「あの娘はまた……。まあ、確かにその方法もあるわね。精霊剣として生きるのも、人間として死ぬのも、両方悪くない」


 どちらかといえば、きちんと終わりを迎えられる後者の方が良いのだろうか。人間として普通に生きて、普通に死ぬ。そういう未来。


 「まあ、なんにせよ、原初の魔物を倒さないと話にならないわね」


 「ああ、うん。そうだね。まずは生き残らないと」


 そういうことである。あまり将来の話をしていては、死亡フラグというやつになりかねない。この辺りでこの話題は止めておこう。


 「なんだか最終決戦前夜みたいな空気になっているけど、マシコットを救出する戦いも残っているのよ。戦いが終わった後の話をするのはまだ早いわ」


 「……そうだね。全部終わったら、改めて話をしようか」


 いつの間にか随分時間がたっていたらしい。作っていたプリンも、あとは冷ますだけである。メンテナンスが終わる時間には、まだ早いか。


 「それじゃあ、二人で先に食べちゃいましょうか」

第七章完結です。次回の投稿は8/3(金)を予定しています。

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