原初の魔物と土の精霊剣
翌日。私たちはシロウの呼び出しを受け、リビングに集められていた。だが肝心のシロウの姿が見えない。呼び出しておいて本人がいないのはどうかとおもうが、そこを突っつくのも野暮か。その辺り、あいつは出会ったころから変わっていない。
「シロウ様はもうすぐいらっしゃるそうです。それまでこちらをどうぞ」
ナナミがクッキーと紅茶を差し出してきた。特に拒む理由もないためつまむことにする。さくさくと小気味よい音を立て、二枚、三枚と口にする。
「美味しいわね」
「ありがとうございます」
紅茶も香りと味が良い。私の語彙力では美味しいとしか表現できないのだが――まあ、それでいいだろう。別に品評会をやっているわけではないのだ。美味しい。それだけで十分だろう。
「そもそも精霊剣には食事は不要ですわよ」
「あ、そのくだりは二回くらいやったからもういいわよ。不要ではあるけど、娯楽として楽しめるからいいじゃない」
「……変わりましたわね。やはり恋は精霊剣を変えるというやつでしょうか」
そうだろうか。私としてはあまり変わったつもりはないのだが。というか、くねくねするな。スイーツ脳か貴様は。そもそも恋ってなんだ。誰が誰に恋しているというのだ。
「美味しいものを楽しめるのは良いよねぇ。僕も最近は食べ歩きが趣味みたいなものだし」
「良くも悪くも、皆変わったとは思いますね。まあ、結果を出せればそれも良いのではないでしょうか」
アズールとセイブルも積極的に食事を楽しんでいる様子である。精霊剣五本中三本の意見が一致したので過半数で可決である。何がだ。
「お、全員そろっているな。んじゃ話を始めるか」
話題が尽きたタイミングでちょうど良くシロウが部屋に入ってきた。相変わらずその大きい胸が揺れている。くそ、見せつけやがって。
「シロウ様も紅茶をどうぞ」
「ん、悪いな。……自分で淹れるのも良いが、やはり人に淹れさせるのが一番だな」
シロウが紅茶を一口飲み、しばし間を開ける。もったいぶるのがシロウの悪い癖だ。
「くつろいでいるところ悪いけど、話を始めてくれるかしら。時間がないとは言わないけど、無駄に時間を使うのも良くないわよ」
「まあそうだな。といっても、なんとなく想像はついてるかもしれないが。まずは原初の魔物について話そうか」
「普通の魔物とは、違うんですよね?」
「ああ、違う。というか、全ての魔物は原初の魔物から生まれたものだ。そして魔物は原初の魔物からしか生まれない。要するに、だ」
「その、原初の魔物さえ倒せばこれ以上魔物は増えない?」
「その通り。残党を退治する必要はあるが……原初の魔物さえ倒せれば世界は安泰と言えるだろう」
シロウが再び紅茶を口に含み、一息つく。私の方もクッキーをもう一枚つまむことにする。うむ、やはり美味い。
「でも、魔物がいなくなったら魔石を利用している設備とか人々はどうなるんでしょう……?」
「知らんよ。さすがにそこまでは責任持てん」
ばっさりである。まあ確かに、原初の魔物は放っておけば世界を滅ぼしてしまう以上、倒す以外の選択肢は無いのだが。そのアフターケアまで求めるのは酷だろう。
「ま、なるようになるだろう。とにもかくにも原初の魔物を倒さなければこの世界に未来はない。近い将来、滅ぼされることになる。それを止めようって話さ」
「その後の話は、倒した後に考えれば良いってことかねぇ」
アズールがそう付け加える。本来は倒した後のプランも考えておくべきなのだろうが、それはそれである。
「そういうことだ。まあ、この世界の人々は基本的に平和主義だから、めったなことにはならんだろう。ゆっくりと、時間をかけて新しい時代に適応していけば良い。人間、生きてさえいればどうにかなるさ」
シロウがそう締めくくる。その持論に関しては意見が分かれるかもしれないが――そこについては触れないでおこう。
「さて、もうひとつの話題は土の精霊剣についてだ」
シロウが紅茶のお代わりを要求しながら、次の話題について触れる。土の精霊剣。マシコットについてだ。
「マシコットを回収してこい。奴のゴーレムを操る力は、原初の魔物との戦いで有効だろう」
「それは良いけど、肝心のマシコットはどこにいるのよ。それがわからないと動きようがないわよ」
「慌てんなよ。奴は豊饒都市ロンド……のはずれにいる。ここから歩いて三日ほどだな」
マシコットの居場所はわかったが、どうもシロウの様子がおかしい。なんというか、面倒くさいことがおこっています、とでも言いたげだ。
「その様子だと、何かあるみたいだけれども……」
「ん、まあな。肝心のマシコットなんだが、現在、魔物に取り込まれている」
「……は?」
それは、どういうことなのか。いや、言葉通りなのかもしれないが。とにかく話の続きを促すしかない。
「そういうわけで、お前らが次にやることはマシコットの救出だ。居場所は教えるから、ちゃっちゃと魔物を倒してマシコットを取り出してきてもらいたい」




