閃光と操作
消火活動へ向かうセイブルたちを見送り、私たちは魔物と対峙する。寄生剣も魔物もセイブルたちには興味を示さなかったのがありがたい。寄生剣は魔物とマスターしか敵視していないし、魔物はそもそもセイブルを隔離するために炎を放ったのだから当たり前といえば当たり前なのかもしれないが。
とにかく、現状を変えなければならない。寄生剣と魔物の挟み撃ちの状態では満足に戦うこともできないだろう。まずは寄生剣、魔物、私たちで三角形を作るように場所取りを行う。
「まずは魔物の方からなんとかしましょうか。最悪、寄生剣は放置するなり、仕切り直しするなりできるわ。でも魔物の方はここで倒さないと被害が広がってしまう……それは避けたいわね」
「そうだね。この間の鮫みたいに剣が通らないということもなさそうだし、まずは倒せそうな方から倒していこう」
問題の先送りという気もするが、倒せそうな方から倒していくしかないだろう。どちらにせよ両方倒さなければならないのだから、少なからず倒せる目途が立っている魔物を狙うことにする。
だが、それを寄生剣の少女が許さない。指先を針のように変化させ、魔物に接近しようとするマスターを妨害する。幸いにしてマスターは簡単に少女の攻撃を避けたため傷を負ってはいないが、代わりに魔物とは距離を取らされることになった。
「やっぱりやりにくいね……でも、寄生剣の方は斬っても斬ってもキリがないし」
「一応攻略の目途は立っているわ。でも、それをやるには魔物が邪魔だから、なんとか倒したいところだけど……」
「作戦はあるんだね。じゃあ、魔物を倒した後に聞こうかな!」
マスターが叫ぶと同時に、少女に向かって数回斬りつける。斬りつけた個所は予想通りすぐに再生されてしまうが、体勢を崩すことには成功した。その僅かな隙をついて、今度は魔物に向かって一直線に突き進む。
魔物も棒立ちしているわけではない。その大きな足や尻尾で攻撃を仕掛けてくる。――だが、少女に比べればその動きは遅い。マスターならば動き出しを見てから避けることも可能である。
「寄生剣の方が動き出すわよ! 気を付けて!」
斬り飛ばされた足を再生させ、少女がこちらに向かって近づいてきている。早めに魔物との決着を付けないとまた邪魔が入りそうだ。
魔物の攻撃をかいくぐり、マスターが再度接近する。だが同時に、魔物が口から何かを吐き出した。黒い球体状の何かだ――とそこまで認識した次の瞬間、爆音と閃光が辺りを包んだ。
「閃光弾……!」
これが魔物の隠し玉だったらしい。さすがのマスターもこれには目と耳を一時的に封じられた。動きの止まったマスター目掛けて、魔物が大きく口を開く。
「なめるなって、言ったでしょうに」
魔物の頭から剣が飛び出していた。魔物の口内から頭に向かって突き刺した形だ。マスターが反応した――わけではない。マスターの体を私が操作したのだ。
私も閃光弾を食らった直後は目と耳が使えなかったが、私には魔力感知がある。五メートル程度ならばどこに何があるかは見なくてもわかるのだ。
ずるりと剣を引き抜くと、魔物は霧となって消えた。あとには魔石だけが残っている。これで魔物の方は片が付いた。あとは寄生剣の方をなんとかするだけである。
「……あ、目が見えるようになった。魔物はメルがやってくれたのかな? ありがとう」
「お礼は良いわ。それより、寄生剣の方がまだ残っているわよ。油断しないで」
というか、マスターの方はもう治ったのか? 早すぎる。私なんかさっきの受け答えは勘と口の動きを感知して言っただけで、目も耳もあまり治ってはいない。
何度か剣に衝撃が伝わってくる。マスターと少女が斬り合いをしているのだろう。段々と目と耳の感覚が戻ってきたため、状況確認を行う。予想通り、少女の爪をマスターが剣で受け止めているようだ。
「それで、メルがさっき言っていた作戦って?」
マスターが少女と距離を取りながら質問をしてくる。そうだ、次は寄生剣の少女を相手にしなければならないのだ。
「簡単に言ってしまえば、ソナーの真似事みたいなものね。体を構成している液体金属と核では発している魔力の波長が微妙に違うから、それを検知すれば核の場所は特定できると思う」
「なるほど、それで、どこを狙えばいいのかな?」
「まずは右ひじの辺りね。ただ、私の感知範囲は五メートルが限界だから、それなりに接近してもらわないと感知できないわ」
「了解。頼りにしてるよメル」
さらっと嬉しいことを言ってくれる。期待されているからには、応えなければならない。精霊剣として作られた以上、担い手の要求を満足させるのが私の役目だ。
マスターが少女の右ひじを切り落とす。断面には核のようなものがあったが、どろりと溶けて形を失った。どうやらはずれのようだ。
「次は左胸。それから右わき腹と右太ももを狙って!」
私の指示通りにマスターが次々と少女の体を斬りつけていく。そのたびにひとつ、またひとつとダミーが消えていく。感知した限りでは、残りひとつ。
「次で最後、かな!」
マスターが最後に残った核を斬りつける。――だが、少女はすんでのところで本物の核を移動させたようだ。次の瞬間にはまたダミーを生成させている。
だが、甘い。
「腹のど真ん中よ。それ以外は無視していいわ」
核が残りひとつになった時点で、その魔力の波長は覚えた。あとはいくらダミーを増やそうと無駄である。すでに本物の核にマーキングは済ませているのだから。
マスターが剣を少女に突き立てた。少女は動きを止め、何かを掴むように手を伸ばす。やがて少女は風に吹かれるように消えていった。
「終わり、かな」
「ええ、そうね。お疲れ様。魔物も寄生剣も、よく退けたわね」
どうやらセイブルたちの方も消火活動は終わったらしい。アズールがこちらに向かって大きく手を振っている。
「さて、町に帰りましょうか」




