■一日の終わり……そして……
「さてと……俺様は合格でいいよな?」
竜之介が音々に近寄って合否を確認する。
「あ……は、はいっ、君はもろ私のタイプなり!! じゃなかった合格なりっ!!」
先程、圧倒的な力を目の前で見せられた音々はまだ混乱していた。
「あっ!! そうだ、きっ、君の名前……!!」
受験リストを覗き込み、竜之介の名前を確認するや否や青い瞳をきらきらと輝かせた。
「風間……竜之介君!! 是非私の金組でと成になってほしいなりよ!!」
いきなり金組へのスカウトをし始める始末。
「ああ? 俺様は別にどこでも構わないけどな」
「そう!! 竜之介君なら、下克上ですぐと成になれるなりよ?」
「あ、下克上って言うのは、自信のあるヤツが申請して自分より格上の者に挑みその地位を奪うという、特別なルールなりよ」
「そして、全て全勝した場合は、今の王将に挑戦する権利が貰えるなりね」
「ね、ね?どうなり、竜之介君なら将来有望だから、私の為に一杯稼いで、あ、じゃない!! 私の元で役に立ってくれそうなり。なんなら、私の彼氏でもいいなりよ……」
「こらああぁあああっ!!」
その会話を聞いた瞬間、小梅、蛍、瑠理が息を弾ませながら、竜之介の方へ向かって一目散に駆け寄ってきた。
「抜けがけ許すまじいっ!!」
音々が一斉にブーイングを浴びせられた。そして口々に皆同じ言葉を重ねた。
「竜之介!! 是非うちの組に来て!!」
竜之介の周りで勧誘のオンパレードが始まり、それを見ていた他の男達が口々に文句を言い始めた。
「で、俺様は何処に行きゃいいんだ? さっさと決めてくれ」
その場に座り込み、竜之介は大きな欠伸をした。
「ちょっと待っててね!!」
声が一斉に揃う。ここから隊長同士の会議が始まる。
「ちょ、なんであんたらが出てくるなり、竜之介は最初に私が目をつけたなりっ!!これはもう、金組で決まりなり!!」
「な、なんでそんな勝手な事いってるにゃ!! 竜之介は桂組が最初から目をつけてたにゃ!!」
「いやいやいやっ、竜之介はうちの香組で決まりさね!!」
「み、皆さん、落ちついて。ここは公平に銀組で!!」
瑠理は一見冷静に見えたが、その口は物凄く理不尽な事を言っていた。
「あ、あんたらね、どうせあの方と竜之介君を重ねているだけなり!!」
「あの豪快な口の聞き方、面構え、物腰……そしてあの剣捌き!!」
「そして、最後に彼が言った武器名、獄龍!! 私は聞き逃さなかったなりッ!!」
「これはもう、間違いないっ!!」
一斉に一人の男の名を口にする。
「そうっ!! 織田長信様あっ!!」
その名が出た途端、赤い人魂が不機嫌そうに言う。
赤「織田……長信。長信? むぅうう、何だか物凄い吐き気がしてきました……」
「今までずっと探しても見つからなかった鍔をまさか竜之介が持ってて……さらにその長信様の技を出来る男が他にいたなんてっ!!」
なんとなくだが、俺も途中から気が付いていたんだよな……。こんな圧倒的な力を持ってる人なんてそう存在しない。そうすると的は自然と絞られてくる。この時、竜之介はあの慰霊碑の名を鮮明に思い出していた。
――特殊武駒竜馬 織田長信。
「あの……貴方は長信さんですよね?」
「長信? さぁ? ピンと来ないな……まぁ、今は名無しだからそう呼んでくれても別に構わないがな」
「あなたには、桜子さんという彼女がいるんですけど?」
「桜子ぉ?さぁて、全く記憶にないな」
そのやりとりの最中、隊長達の会議はまだ続いていた。
「だぁかぁら、諦めた人の生き写しが戻ってきたとか、そういう事じゃにゃいから!!」
「そうそう、誰も最大のチャンスが巡って来たとか思ってないなり!!」
「わ、私だって、昔から恋心なんて抱いてません!!」
長信はそのなんともいえない光景をぼんやり眺めていた時、自分を見つめる視線に気付き、そちらに目を向けると姫野が冷めた目でじっと見ていた。
姫野は他の隊長とは違い、長信に全く興味はなく、すぐ立ち去ろうとしている。
その時、長信は姫野の肩に乗っている眼帯のカラスに興味を持つと、姫野の方へすたすたと歩み寄っていった。
「だ、駄目ですよ長信さん!! カラスに襲われますよ!!」
その眼帯のカラスを見た時、赤い人魂がぼそりと言った。
赤「眼帯のカラス……私は何処かで見た気がします」
「え? ほ、本当ですかッ!?」
赤「それにあの凛とした素晴らしい女の人を見てると私は何故か懐かしいような気がしてくるのです……何故なんでしょうか?」
「まさか……あなたは……」
竜之介はその時点でカラスの攻撃範囲に入ってしまっていた。姫野もそれに気付き、咄嗟に竜之介から距離をとろうとする。
「よぉっ!! くそガラス、お前なかなかいい面構えしてんなぁ?」
竜之介はニカッと笑いながら、カラスに手を差し出した。その無謀な行動に姫野も驚きを隠しきれなかった。
――うわわっ!! もう駄目だっ!! 殺られるっ!!。
カラスが攻撃態勢に入り竜之介を威嚇しようと鋭い片目で睨んだ瞬間、羽をビクッとさせたかと思うとー。
カラスは静かに一鳴きした後、竜之介が差し出した手の上に乗り移ってきたのだった。
「おおっ、そうこなくっちゃな、お前名は何と言うんだ? 気に入ったぜ!!」
豪快に竜之介は笑った。信じられない光景を見た姫野は目を見開いて唖然とする。
「黒丸が……黒丸が懐いた……だと?」
姫野は呆然としながら呟いた。
「へえ、お前黒丸っていうのかぁ、よろしくな黒丸よぉ!!」
黒丸はおぅっ!!という感じで、竜之介に羽を広げながら声を上げた。
「……私以外に黒丸が懐く奴は、私が知る限り……一人だけだ」
「もし、長信ってんなら、それは的外れだぜ、俺様は竜之介。風間竜之介っていうんだ」
「違う……っ!!」
叫んだ姫野の顔がどんどん赤くなっていく。少し泣いているのか、瞳が潤んでいた。
「宗政……私の元に帰ってきてくれたのか!!」
その名が出た瞬間、赤い人魂がガタガタと震えだし、同時に竜之介もあの慰霊碑に刻まれていた名を思い返す。
――飛組と成 伊達宗政。間違いない!! この人だ!!。
赤「宗政……?」
「やっぱりか!! 貴方は、おそらく伊達宗政さんですよっ!!」
赤「駄目です……記憶が断片的で……確信が持てないのです」
長信はその名を聞いた途端に表情が曇り始めた。
「宗政あ? ……くそッ、その名を聞いたらなんかムカついて来たぜええッ!!」
その時、竜之介は急に苦しくなったかと思うと、バランスを崩しふらふらとよろめき始めた。
「う・・うううっ!!!」
更にその視界がどんどん狭くなり始める。
「ちぃっ、やはりずっとお前になれないようだな!! 意識が朦朧としてきやがったぜ!!」
「……俺も何だか朦朧としてきました」
そのまま倒れそうになった竜之介を姫野が両腕で抱き留める。
「……会いたかったぞ、宗政ッ!!」
姫野はこの瞬間、宗政の生き返りを確信し、先程まで全くと言っていい程、興味すら感じていなかった竜之介を自分の傍に置きたいという感情がふつふつと湧き上がってきた。
他の隊長達があーだ、こーだと揉めている最中、姫野は懐からと成のバッジを取り出し、竜之介の胸元にそっと取り付ける。
意識を失った竜之介を自身の温もりのある胸の中に抱き、目に泪を滲ませ、頭を優しく撫でながら静かに微笑むのであった。




