■桜の木の下で
ぞろぞろと一次試験に合格した者達が次の試験会場に移動し始める。
次の試験会場に続く桜並木がとても美しく、竜之介の横には美しい精霊……とはいかないが、半分ふてくされた可愛らしい精霊が傍らにいた。
今の自分に納得がいかないらしく、何やら独り言を呟いている。その桜並木の道中、竜之介は桜の木に身を任せ、空をぼんやり眺めている大柄な女に気付いた。
よく見るとその女の肩には片目に眼帯を付けたカラスが乗っている。
――あれ? この人どっかで……?。
この時竜之介は元治の説明で出てきた人物を思い出した。
――間違いない、この人が斎藤姫野だ。
姫野の横を通過する受験者を低い声を出し、肩のカラスが威嚇している。
「こ、こんにちわ」
竜之介は思いきって挨拶してみたが、途端に大きく艶のある羽を広げて鋭そうな嘴を大きく開けながら威嚇されてしまった。
「よせ……黒丸」
姫野は鋭い視線を竜之介に向ける。
「お前も同じか……私に近寄るな……不幸になるぞ」
気だるそうに姫野は桜の木から離れると何処かにいってしまった。竜之介はその口ぶりから何処かやるせない寂しさを感じ取った。
「よし、お前達、すぐニ次試験を開始するなり!!私は二次試験管を務める豊臣音々(ねね)なりッ!!」
音々は金髪で耳に銀貨のイヤリングを身に付けており、険しい表情をして受験者に厳しく叫んだ。竜之介はその音々の声ではっと我に返った。
「ここでは、お前らの武器能力を確かめさせてもらうなり!! まず戦具の鍔を手に持つなりよ!!」
まさか自分が持ってきた鍔を自身が使う事になるとは夢にも思ってもいなかった。
「次に抜刀の掛け声で、己の武器を出すなりッ!!」
音々の厳しい表情を見て動揺し、竜之介は慌てて自分の鍔を手に取った。
「あわわわ!! 早く、や、やらなきゃ!!」
「ばっ、抜刀ぅう!!」
頭の中が真っ白になり、弱々しい声で竜之介が叫んだ瞬間、鍔から光線のようなものが放たれ、その光が徐々にその形を現わし始めた。
「こっ、これは……!!」
その剣は、他の者を圧倒するくらい青い光を放つ見事な青剣であった。それを見た者が竜之介を指差して叫んだ。
「おい見ろよ!! あいつの剣!!」
「すげえ!! どこの者だよッ!!」
――こっ、これが俺の剣……凄いっ!!。
この騒ぎに、音々も注目する。
「ちょ、きっ、君ッ!!その剣!!一体どこの一族なりっ!?」
「あ……俺は、風間の者で……」
「風間……風間一族?うーん……知らないなりねぇ。でも、その武器は一目で物凄い代物だという事は分かるなりよ!!」
音々は青剣を見て、思わず興奮していた。
こっ、これは新人の中できっと大物候補になるなりね、あとでしっかりリストをチェックしないといけないなりいっ!! などとこの時の音々の頭は邪な思考を巡らしていた。
舞い上がっていた音々はやがて落ち着きを取り戻すと、一度だけ咳払いをした。
「さてお前達、抜刀はすんだな? ではこれよりリンクを開始する!!」
「じゃ、手本をみせるから、良くみておくなり」
音々が飛燕の鍔を持ち、気合を入れて抜刀!! と叫ぶとその武器が姿を現した。
音々が持つ武器、それは大型のライフルガンであった。その重たそうなライフルを左手で軽々と掲げ精霊を召還する。
「いくなりよ? アイリス」
*オーケー。音々*
水晶から、氷の精霊が現れた。
「よしッ、リンクするなり!」
音々の言葉でアイリスはライフルにそっと手を置き、融合を始める。アイリスが完全にライフルと融合した時、ライフルの動体部分に罰点の形をした刻印が表れ始めた。
1つ、2つ、3つ更に4つと表れ、全部で4個の刻印が激しく光りを放つ。
「いいか!! リンクをすると、このように己の強さのレベルが刻印で表されるなり、最大でLV5、つまり5個の刻印が表示されるなり……くっ!!」
音々が説明の途中で一瞬だが、苦しい表情を見せる。ライフルの中のアイリスがそれを見て心配そうに声を掛けた。
*音々……無理しちゃ駄目……ッ!!*
「ふん、これしきなんともないなり、さぁ!! お前達いよいよ本番なりッ!! やって見せるなり!!」
竜之介もハルと顔を見合わせリンクを開始した。
「ハル、頼む!!」
*仕方がないのう……*
ハルが竜之介の剣に触れ、リンクを開始する。音々は竜之介に大きな期待を寄せ、そのレベルに期待して心中のを胸躍らせた。
――あれほどの剣なら……もしかしてもしかすると、LV5とか出ちゃったりするかもッ!!。
「いっけえええええ!! 俺の青剣んッ!!」
「おおおおおおお!!」
物凄い歓声の渦巻く中、竜之介の青剣の刀身部分に現れた刻印は1つだけであった。
「なっ!? ひ、1つだけ?あの剣で!?」
音々は愕然とした。竜之介に注目していた他の者も見掛け倒しの剣に呆れ果てた。
「ぷっ、1つって」
「何だよ、見掛け倒しの剣かよ!!」
「青剣が聞いて呆れるぜッ!!」
一瞬にして大きな笑い声が竜之介を埋め尽くしてしまった。
「う、嘘……刻印がひとつだけ?」
*お前、本当に惨めじゃのう……*
竜之介はハルにも同情され、剣を握ったまま真っ赤になってその場に立ち尽くしていた。
「はぁ……君の持ってきた武器は本当に凄いんだけど……それを扱う者のレベルがこれではねぇ。猫に小判、豚に真珠なり。はぁーっ、もったいないなり」
それを見ていた音々は嘆きながら深い溜息を付いた。
「さて、茶番も終わった事だし、試験を続けるなり。今、皆の武器に表示されている刻印がお前らの強さを表しているなり」
「今見た通り、武器がどれだけ凄かろうが、当の本人に力が無ければ、何の意味もないなり、正に宝の持ち腐れなりね」
竜之介を見て音々は苦笑した。それと同時に周りもクスクス笑い出す。
「くうっ、は、恥ずかしい……顔から火が噴出しそうだ。」
その空気に耐え切れず、竜之介は心が押し潰されそうになった。
「……さてと、次に向こうに立っている棒みたいなものが見えるなりね? あれは試念柱といって、衝撃によってその能力が分るものなり」
「目標はあの試念柱なり。では実際に私がやってみるなり」
音々は照準を合わせ、トリガーを……引かなかった。
「うーん、私ではちょっと的が近いなりね……」
規定の倍近く後方に下がった音々が再びライフルを構え直す。
「こんなものなりか……じゃ、よく見ておくなりよ?」
試念柱に照準を合わせ始め狙いを定めた音々はゆっくりとトリガーに手を掛けた。
「飛燕……烈弾」
音々が静かに言った瞬間、ライフルの銃身が、轟音と共に上下に揺れた。同時に試念柱はガラスが割れた様な音を出しながら、粉々に消し飛んだ。
「……やってしまったなりよ。まだ後だったなりか」
額に手をやり、音々は首を振った。
「音々さん、それでは全然、お手本にならないです」
傍らにいた別の試験管がおどおどしながら、話掛けた。
「瑠理、わかってるなりよ、でも、力加減が難しかったなり」
その瑠理という女は、ここからでは目があいているのか、いないのか良く分からない位、円らな瞳であった。
「なんだ瑠璃、春の陽気につられて職場放棄で居眠りなりかぁ?」
先ほどの険しい表情から一変して音々が悪戯っぽく微笑んだ。
「いえ、私起きてますからっ!! 目をちゃんと開けてますからっ!!」
瑠理はあたふたしながら必死に反論している。
「んじゃ、君、次やってみるなりよ!!」
遂に竜之介の番となった。竜之介はぎくしゃくしながらも定められた位置に立ち、青剣を構える。
「俺に、で、出来るだろうか……?」
*ふふん、くだらん試験だのぅ。このようなもの楽勝じゃ!!*
ハルは竜之介の不安の声を他所に物凄く余裕のある声で言い放つのであった。




