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■僕の精霊

 試験会場では数多くの受験者で賑わっていた。


「よし、では君達、この建物に入るさね」


 試験管に促され、決められた人数で順々に建物に入っていく。竜之介は突然体が小刻みに震えだす。それは気温が低いからではなく緊張から来ているものであった。


 いつの間にか竜之介の手が汗ばんでいる。建物の中でどよめきと落胆の声が更に竜之介を緊張へと引きずり込む。


 一体中では何が起きているんだろう? 物凄く気になるなぁ。竜之介が自分の番を待っていると、何人かの受験者が建物から出てきた。その受験者は肩を落として、そのまま入り口の方へと帰っていく。


――どうやら駄目だったらしい。まぁ、結局俺もあの様になるんだけどな。


 それを何回か目の当たりにしたところで、遂に竜之介の番が巡ってきたのだった。


「じゃ、次の受験者は建物の中に入るさね」


 竜之介が緊張した面持ちで建物に入るとそこには今まで見た事のない物を目の辺りした。


「あれが精霊か……」


 受験者の傍らにそれぞれ精霊がふよふよと浮いており、互いが始めての出会いに喜び、楽しく会話をしていた。


「いいなぁ、上手く召還できたのかぁ」


 竜之介は可愛らしい精霊達を見て羨ましく思った。


「それじゃ君達も精霊を召還して貰うから、水晶を手に持って……」


 試験管の次の言葉を待ち、竜之介は息苦しそうに唾を飲み込んだ。


「はい、やってみて!!」


「……はい?」


 余りにも酷い説明に受験者達は戸惑ってしまった。その様子を見ていたもう一人の試験管が慌てて口を挟んだ。


「ちょっと小梅、待つにゃ、いきなりそれはないにゃ!!」


「だってぇ……もう飽きたさね」


 小梅は飽きたという表情を見せ、肩をがくっと落とした。


「そういう事いっちゃだめにゃ、ちゃんと手本を見せるにゃ!!」


 少し小柄な試験管は怒りを露わにして小梅を一喝した。


「わかったよ蛍。やればいいんだろ、はいはい、やるさね」


 そう言うと小梅は、真剣な表情をして水晶に触れた。


「……来るさね、麻凛まりん!!」


 小梅が叫ぶと水晶が水色に眩しく光り始め、可愛らしい精霊が現れた。


*小梅!! いくら主従関係があるとは言えど、何の用事もないのに何度も何度も私を召還するんじゃないわよ!!*


 いきなり麻凛に小梅は怒られた。


「仕方ないさねー、今回自分が召還試験の担当に当たったさね」


*ふんっ!!*


 怪訝そうな顔をして麻凛はすぐ様水晶に戻っていった。


「……まぁ、あんな感じで自分の精霊を召還するにゃ。ちなみに精霊は自分の中にある属性がその水晶を通して精霊界に通じて現れてくれるんだにゃ。ちなみに小梅の場合は水属性だにゃ」


「自分の中にある属性……?」


「そうにゃ、ちなみに精霊は基本、水、土、風、氷、雷、炎、闇の7つにゃんだけど、未知の属性も存在するとかしないとか……私はそれを見たことはにゃいけどにゃあ」


「あと、君達には強さのLVが1から5まであって、それを知る方法があるんにゃけど、ま、それは次の段階だから省略するにゃあ」


「そうそう、精霊は自分の意志、もしくは精霊自身の力が不足した場合、或は主でもある君達が帰還を口に出して命じた時に水晶へ戻るからにゃ。良く覚えておくにゃあ」


 蛍は小梅よりも、精霊と属性について丁寧に説明をしてくれた。


「……というで、皆でやってみるにゃ!!」


 竜之介は覚悟を決め、水晶を手にした。


「無理だとは思うけど、俺にもその力があるなら、俺の精霊、お願いだから出てきてくれっ!!」


 竜之介が、祈る思いで水晶に祈った時、それは突然起こった。


 水晶が目が眩む程、白色に光だしそこから一陣の渦巻く風が吹いたかと思うと、渦と共にくるくると回りながら、巫女服を纏った可愛らしい少女が現れた。


「やっ、やったああああ!! 俺に風の精霊が出てきてくれたああっ!!」


 竜之介は召還が成功した事に夢中になって喜んだ。だが、召還された少女の機嫌はすこぶる悪いものだった。


 刹那、竜之介の臀部に強い衝撃が走り、弓なりな姿勢のまま、二三歩前に踊り出させられた。


「いだああっ!!」


 竜之介が臀部を抑えて、振り返ると少女は片足を上げたまま、怪訝そうな顔を見せていた。


*……お主、まさかこれだけしか自分の力を引き出せぬとは……嘆かわしいにも程があるわい*


 少女は深い溜息を付くと、首を横に振った。その言葉の通り竜之介の召還を見た他の受験者が一斉に騒ぎ出した。


「おい、あれ見てみろよ!! ガキの精霊だぜ??」


「うわ、なんだあれ?子供じゃん」


「だっせー!!」


「マジかよ、ありえねー。LV1もないんじゃねぇの?」


*なんじゃ? お前ら、わしをバカにしておるのかッ!!*


 その精霊は周囲を相手に怒りを爆発させている。この光景を見た小梅と蛍は顔を歪ませ、審議を始めた。


「小梅、これどうするにゃ?」


「う~~ん、召還には成功してるんだからとりあえず、合格でいいさね」


「そか、んじゃ君は一応合格にゃ! おめでとう!! ぱふぱふぱふーにゃ!!」


「えっ!? 俺、一次試験合格ですか!? やったあああ!!」


 竜之介は蛍に一次試験の合格を伝えられると、周囲の冷たい視線も忘れ喜び叫んだ。そしてすぐに目の前に現れてくれた少女に挨拶をする。


「あ、始めまして。俺は風間竜之介といいます。よろしく!!」


*そんな堅苦しい挨拶なんぞいらん!! 竜之介とやら、お前は幸運にも、わしを呼びだした。契約にもとづき、さっそく、わしに名を付けるが良いッ!!*


 竜之介の自己紹介は少女に軽く流された。


「そうそう、精霊にちゃんと名前を付けてあげないと、次の二次試験が受けられないさね。早く付けてあげるさね」


 小梅に促される。


「え?どうしようかな? んーと」


 ふと足元を見ると誰かがここへ連れてきたであろう桜の花びらが、何枚か落ちていた。


「そうだな……」


「桜、さくらかぁ……いやいや、風の精霊だし、春なんだから・・春風、で、ハルでいいかな?」


*ふん、ハルか……まぁ、よかろう。*


 ハルは不機嫌ながらも竜之介が付けた名前は気に入った様子だった。


「では、二次試験始めるから、次の会場に移動してにゃ!!」


 こうして竜之介は周囲の冷たい目に注目されながら、次の二次試験に臨むのであった。

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