変化の日 変化
「はぁ…本当に集られた…。」
「予想通りだね。若干多めに持ってきておいて良かった。」
「はぁ…腹いっぱい。」
食事後の三人は店を出て一斉にため息をついた。頭を掻きながら紫苑。薄い笑みを浮かべながらの戒真。そして腹をさすりながらの吏都。元々金など払う気もなかった状態の女子軍は相変わらず止まらない会話を続けている。
ふと見れば時刻は1時15分。
「そろそろ…か。行こうよ。三番地に。女子たちはどうする?」
「何言ってんのよ。あたし達も元々はそれが目的だって。」
一番に気付いたのは胡風。紫苑は仕方ないという表情で歩き始める。それに続いて戒真、吏都。そして残りの女子たち。一向は三番地に向かう。
そして到着。
「まだなーんにも起こってないのねー。つまらない。」
「でも時間は今1時28分。もうすぐ何か起こるかもしれないね。」
時計を見ながら紫苑が言う。他の人たちも一斉に紫苑の時計に覗き込めば確かにその時間。
今現在一時二十九分。
「60、59、58…」
まるで新年のカウントダウンのように誰かが口ずさむ。すでにバラバラと報道陣はいる模様。実質何処から何がくるのかも分かっていないことから辺りを見渡している。
「そういえばさ…なんで警察とかが一切誰もいないの?此れだけの騒ぎだったら普通包囲網でもあるんじゃない?」
ふと疑問に思ったかのように戒真が呟く。そういえばと数人も頷く。
「……警察は無理。ニュースでやってた。この辺の警察署とか…色々が混乱状態にあるって。……詳細は知らないけど」
「それって…都合が良すぎない?」
苦笑いを浮かべる美琴。いまさらながらこの場にいることが危険だという実感が湧いてきた。『でなければ』のことは考えていたものの『でてくれば』のことを一切考えていなかったのである。
そして…聞こえてくるカウントダウンは残り…5、4……2…1…0.
一時半。予定の時刻。しかし何も起こらない。
「なぁんだ。やっぱり愉快犯の仕業よね。ハァ…どきどきして損したァ。」
「にっひっひ…良い顔してたよぉ?美琴。押しつぶされそうで緊迫した表情。いいねぇ。」
「何はともあれ…良かったよ。もし現れたらどうしようと思ってたところだからさ。」
全員思い思いの感想を述べていく。報道陣はまだ粘るようだがこれ以上いても何も起こらないだろう。とりあえずお腹は満たされているし、どうしようか皆話し合っていた。
そして―――――――――――意識は途絶えた。
目を覚ました場所は知らない空そう表現するのが一番適切かと思った。―――そこには鳥は一羽もおらず、太陽がるべきはずの場所には何も無い。ぽっかりと穴が開いたかのような黒の場所が顔の覗かせる。
星は輝かず空には摩天楼が連なり、人と思われるものが歩いている。その中に一つ…赤にまみれる場所が在った。
「目が覚めたかよ、紫苑。」
よく知った声を聞き、今まで見ていた不思議な空から声の持ち主へと視線を向け直す。
「吏…都?…此処は…夢?」
「それは俺だって思ったさ。だけど目はさめねぇぜ?ためしに頬でもつまんでやろうか?」
笑う吏都その笑顔はいつもどおりのものだ。なぜ此処まで悲しそうな顔をしているのか。
「紫苑…紫苑…。」
すがり付いて泣き出す吏都。泣いた顔を見るのはこれが三度目だ。一度は子供のころ。自転車の練習でこけたとき。二度目は隕石の時。これは思い出したくもない。
そして…三度目は今。
「どう…した…の?」
不思議そうに聞くも声が出ない。体にも力が入らない。
「俺にもわけわからねぇ…だけど…ッ…。」
突如顔を抑える吏都。声も出ない。
「やぁ、お目覚めですか。」
聞き覚えのない声が響く。それも頭に直接響くかのような声で。
「ようこそいらっしゃいました。紫苑様。そして…お久しぶりでございます。」
あたりの闇がよけていくかのように一人の男が浮かんでくる。一見すれば執事という名前が一番会いそうな男。そしてその横には、夢に出てきた妖弧の仮面を被った少女。
「申し送れました。私はログマ・ルシアと申します。そしてこちらは私のお使えするお嬢様。名をニーナ・グラトリアと。」
一礼する男性、ルシア。横にたたずむ少女ニーナ、仮面をつけたままその声は同じく頭に響くかのように聞こえてくる。
「ご無礼を失礼します。しかし貴方に伝えることもある。そのために貴方の意識へと幾度となくお邪魔させてもらいました。…しかし成果は皆無。今となってやっとお話できるというわけです。まず始めに…貴方方は死にました。」
流れえるかのように伝えられる言葉。思考とともに言葉も失う紫苑。
「死んだ?…生きてるじゃないか。」
常識的な言葉を口にする紫苑、横の吏都は依然として嗚咽をあげている。
「理解していただけないのは百も承知。しかし…これが真実です。」
ルシアと呼ばれた男が手を上げる。
【時の地点】
その言葉が耳に入るとほぼ同時に、紫苑の頭の中にはありえないほどの情報量が駆け巡り、そして目の前には少女と少年が現れた。それは確かに数分前の自分たちの姿だった。
「此処は…街…三番地。」
見覚えのある世界。さっき、数分前までいたはずの世界が目の前に広がっている。
『ねーこれからどうする?』
『そうだね。目的も終わったし、遊ばない?』
『あ、俺カラオケ行きてぇ!一緒にいかねぇ?』
少女たちが話し声をあげる。そして吏都が同調して案を出す。まるで時間を撒き戻したかのようにまったく同じことが起こっていく。そして、その中には自分ともう一人、みんなの中にいる紫苑が存在していた。
そして、次の瞬間。戒真の頭が消え去った。まるで…その場所に穴を開けたかのように。
次に腕に穴が開く、足に穴が開く。そして…血しぶきすら残さず消え去った。
『キャアアアアァア!!!』
突如訪れた恐怖、不安、驚きが悲鳴として口からあふれ出す。そして背後からまた新たな声が聞こえる。
『ヒャッハハハハッハ!!忠告どおり登場だぜぇ!』
高鳴り声。声をたどった先には…テレビにあった顔、赤髪のいかれた声。あいつだ。
『まったく…貴方はもっと面白い殺し方はないのですか?』
隣から現れる学生服の少年。彼が手を振り上げればその場にいる全ての人達の背後に剣が現れる。そしてそれが容赦なく…。
あるものは急所へ、あるものは足や腕へと、胴体へと剣が突き刺さる。数人にはわざとはずしていると見られるものもあった。
吏都はそこで絶命していた。残ったのは…もう一人の自分のみ。
紫苑は絶句していた。いったいこれは何なのだと。
『ったくお前は意地悪いなぁんならこれでどうだァ?』
不気味な含み笑いを浮かべながら男は手を横へと振り切る。それに連なるかのようにどこからともなく現れた炎が全てを焼き尽くしていく。
何が起こったのかわからないまま目を見開いて死んだ死体。
恐怖に顔を歪めながら死んだ死体。
ふざけるなと言いたげなうちに死んだ死体。
全てを燃やしながら―――。
目の前の光景は消え去った。残ったのは瞼に写ったあの光景。消し去ろうと必死に頭を振る。それでも…涙が止まらない。
「お帰りなさい。そして…これでお分かりになりましたか?貴方方が死んだのだと。ちなみに…トリックでも何でもありませんよ。貴方の夢に出てきたお嬢様がここにいること、そして今のような貴方の頭の中に直接記憶を投げかけたという方法が何よりの証拠。トリックなど使用もできません。」
薄ら笑いを浮かべ続けるルシア。そしてその横で何のモーションも起こさないニーナ。
「仲間に…会いたいですか?」
そして初めて聞いた少女の声。透き通るかのような、全てを見通したかのような声。幾度となく聞いたかのような懐かしいもの。
「会い…た…い…。」
涙と嗚咽で言葉がうまく発せない。吐き気もする。最悪の状態だ。それでも…仲間に会いたいという気持ちは拭えなかった。そしてこれをみて吏都はないてたんだなとどこか客観的な感情も残していた。
「貴方方にはこれを…これはどこかで助けてくれると思います。…では。」
闇に消えていく少女。一人残る執事。
「生憎ですが私たちには貴方方に説明をする時間がありません。…今から貴方方をある場所へと、送ります。ある少年が貴方たちを待っています。その方から全てを。」
そういい残してルシアは消えていった。そして同時に吏都と紫苑の意識も薄れていった。
「また…知らない空か。」
見上げれば赤く夕日に染まったかのような空。しかしそれは夕日ほどの柔らかなものではなかった。
空は雲に覆われその雲自体が赤く光っている。
「起きたか…。」
隣では吏都がたちあたりの様子を眺めている。それにならい自分も立ち上がる。
「此処は…」
現在いる場所は廃れた荒野。すでに荒野となってしまっている。以前は栄えていたのだろうか、いくつかの建物がわずかに残って廃墟のような風貌も垣間見せる。
「此処が…あいつ等が連れてきた世界…だ。それで、少年から話を聞けっていってたな…。」
驚いたかのように紫苑は吏都へと顔を向ける。先ほどまで泣いていた吏都。もう立ち直ったのかと思い口を開く。
「相変わらず切り替え早いね…。あんなのを見せられて。」
若干愚痴に似た言葉を発する。今日ほど相手の能天気を恨むことはないだろうというほどに。
「しかたねぇだろ…俺たちが…あいつらを救う方法はこれしかんぇんだから。」
決してこちらを見ない。その厳格な目は自分が思っていたものよりも険しかった。
「クスクス…おはよう、お二人さん。」
突如声が静寂に響く。何もない荒野では風の音しか聞こえない。そのために突如の声は必要以上に二人の耳へと刺激を与えて、二人は驚愕を表すかのように振り向く。
「そしてこんにちは。僕は此処の案内人。炉祢魅瑠亜だよ。君たちは此処に来るのが初めてだろうからね。」
そこには黒の足まであるボロボロのコートに少し蒼の掛かったシャツ、赤色のマフラーに動きやすそうだがしっかりしている長ズボンをはいて、そして輝く緑色の髪の毛を持った少年がいた。
「君たちは此処に来るのは初めてのようだね。…まずはどこから説明すれば良いものか…。」
あごに手を当てて考え込む少年。そこにはあどけなさと同時に計りきれない何かを感じた。
「君は…炉祢さんは…何者?」
無意識に口から出た言葉に紫苑は驚く。思わず言葉を発した後に口を押さえて。
「『此処の案内人』それ以上でも以下でもないよ。ただ、普段は元の世界で学生をしている。」
そういってわずかに口角を上げる少年。そこにはわずかな憂いも混じっていたかのように感じた。そしてそんな人間観察を中断させるかのように魅瑠亜の口は開く
「君たちは…渡されたようだね。それを。」
魅瑠亜は紫苑と吏都の胸の部分をさし占めす。そこには光り輝く球体。吏都は赤。紫苑は紫のもの。
「二人は素質があったんだね。…まずは手助け程度となってくれるかな。『現鍵』」
その言葉を引き金をしたかのように二人の球体は輝きを増していく。そして現れたものは指輪、そしてガントレット。
「これ…は?」
まぶしさに堪えながらも目を開き現れたものを確認する。見たこともない装飾の施された指輪。
「んだ?これ。」
吏都の目の前に現れたものはガントレット。言わば先頭の際に手を保護するためのもの。
「二人はニーナからもらってたようだからね。良かったよ。それの名前は…と、その前につけてみて、二人とも。」
言葉のとおりに紫苑は指へと、吏都は腕へとそれぞれを装着する。それを確かめたかのように魅瑠亜は頷きそして言葉を紡ぐ。
「それは君たちの能力を引き出すための手助けをしてくれる鍵。『enbes』と呼ばれるもの。…何のことだろうかわからないだろうね。だけどそれには実践第一なんだ。」
微笑を浮かべる魅瑠亜。まさに意味不明。
「能力?鍵?なにを…っ」
不満に似たものをこぼそうとしていれば背後に起こった巨大な音によってそれは阻まれる。
砂が盛り上がり、そして現れたものは、易々と体長が100メートルはろうかという蛇に似たもの。違っている部分は左目の部分の崩れた装甲をつけていること。
「現れた。」
そういって魅瑠亜は楽しげな笑みを浮かべる。
「さぁ…始めようか。現鍵―――enbes――」
自然な動作であくまで笑みを崩さず振り向く魅瑠亜と呼ばれた少年。その口が開かれれば胸の前に一冊の本が現れる。それを手に取れば何気ない動作で襲い掛かってくる蛇を見ようともせず開く。
「6ページ。良かったね。グラトニーだ。」
開いたページには何も記されておらずそのページが淡く緑色を帯びて光り輝きだす。そしてその光が魅瑠亜を包み込めば全てが魅瑠亜の中に入っていった。
巨大な蛇との距離約3メートル。覚悟を決めて吏都と紫苑は目を瞑る。
「…ッ…?」
何時まで待とうが迫ってくるはずの蛇は到着しない。恐る恐る眼を開く。
「これが僕の力。夢面相。」
眼を開いた先には頭だけを擡げて倒れ、大きく顔に穴が開けた蛇の上に立つ、先ほどの少年の姿だった。
眼前に広がる景色をにわかに信じられないままに不思議な力を使った少年は薄ら笑みを浮かべる。まるで何事もなかったかのようなやさしい、それでいて違和感の残る微妙な顔。
「これが現鍵。僕の力、夢面相はこの本の中に記述されている人間の罪、自らの精神の中から表面に浮かび上がらせる。人間は皆平等に罪を背負っているからね。」
何を話しているのか理解できない。通常ならば。しかし先ほど見た光景を思い出せば理解せざるを得ない。
「さっきのはグラトニー。聞いたことあるかな。この名前は有名だからさ。」
「……暴食。人間の大罪の一つ。」
吏徒が口を開く。思わず紫苑は吏徒へと視線を向ける。
「アニメかなんかでやってた気がするんだ。だから覚えてるだけだ」
何のアニメかは大抵検討はついた。もちろん言わないが。
そして少年は口を開く。
「正解。ただ問題はこの力を使っている間異常なほどおなかがすくってことくらいかな。……さて、僕のことはこれくらいにして本題にでも入ろうか。」
冗談ではぐらかすつもりだろうか、結局能力の核心である先ほどの化け物に風穴を開けた力の説明にはなっていないままに少年は次の話を始めてしまう。
「あぁ、そういえばニーナから説明をお前から受けろって言われてる。…ここは…どこなんだ。」
吏徒は口を開く。まったくの同意だ、自分も一番気になっていたこと。
「なるほど…また面倒な役ところからまわしてくる…。良いだろう、今から簡単に説明するから、まずこの場所はアンダーシティといって…――――」
結局、少年――炉祢魅瑠亜が話すことは半分も理解できなかった。
理解したことをまとめるとすれば、ニーナと呼ばれたお嬢様と執事のルシアは【Ander】と呼ばれる謎のゲームの主催者であるということ。
そしてゲームは全部で七回。それぞれの回に「クリア条件」が設けられていて、それらをクリアしなければこの世界からは帰ることはできない。また、その条件というのもほとんどの場合は送られた世界の中で自分たちが見つけ出さねばならないそうだ。
………なんともプレイヤーにやさしくないゲームだろうか。
そんなことを思ったのはおそらく吏徒もだろう。そして最も問題と感じたのが、障害物、いわば敵の存在。先ほどの蛇のような化け物もその敵なのだそうだ。名前は「スカァ」個別名は特になく総称しての名前らしい。正体は不明。もしかするとゲームの目的としてこの正体を暴くときがくるのかもしれない。
「ふぅ…とりあえず前説は終わったかな。…さて、ここから二つの本題だ。まず、君たちの友達の話。そしてもう一つは君たちの力について。」
そういって少年は笑みを浮かべながら言葉を切った。
「まずは友達の話から入ろうか。君たちもそれを知りたいと思うだろうしね。単刀直入に言って君たちの友達も、このゲームに参加することが決定している。そのためにこのゲームに参加することによって、君たちは友達を取り戻すことができる。というわけさ。」
「あん?俺たちと一緒じゃねぇ癖にあいつらも参加すんのか…。」
少々不安げな表情と、それでいてまた再会できるという希望の入り混じった表情で吏徒はつぶやく。しかし紫苑の頭には一つ、理解できていないながらに疑問が浮かぶ。
「僕たちは………死んだ。そう聞いてるんだけど……元には戻れないの?…また、あの生活に…。」
とたんに吏徒の表情が曇る。不安の核心を突いたかのような表情。
「いい質問だ。それを話すのならば先にもう一つの本題を話して置こう。君たちは特別な力…ここで生き残るための力を与えられた。それが紫苑君の指輪であり、吏徒君のガントレットである。それが君たちの現鍵なんだ。現鍵を用いることこそがこのゲームを生き残る唯一つの手段なんだよ。」
「僕たちにも…あの魅瑠亜さんみたいな…力が使えるようになるんですか?」
ふと言葉がこぼれる。素直な感想、それがこの言葉だった。
はい、ここからまぁ、本題です。ここまで速攻で飛ばしたので文がおかしいのはデフォ・・・すいません。




