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【資本主義無双】異世界が太平洋に出現したが、狂った転生商社マンとマッハ1のウサギ村長が地球の超大国を丸ごと買い叩く  作者: 月神世一


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EP 10

 魔王の遊戯(第一の試練・恐怖のインフレ)

「第一の試練を与えよう」

玉座のラスティアが、退屈そうに指を弾いた。

直後、政宗の足元のガラスの床が消失し、彼は真っ逆さまに虚空へと落下した。

「うおっ!?」

落ちた先は、四方を巨大な炎の壁に囲まれた、円形の闘技場のような空間だった。

空気が異常に乾燥し、肌がジリジリと焼けるような熱気。

「ここは『恐怖の闘技場コロッセオ』。……お前の算盤が、極限の死の恐怖の前でも正しく弾けるか、見せてもらおう」

ラスティアの声が、天から響き渡る。

ゴゴゴゴゴ……ッ!!

闘技場の地面が割れ、そこから3頭の巨大な魔獣が這い出してきた。

体長5メートルを超える、3つ首の地獄犬ケルベロス。その全身からはマグマのような高熱のヨダレが滴り落ちている。

「お前に武器は与えない。魔法も使えない。……制限時間は5分。逃げ切るか、あるいはその頭脳ロジックで3頭の番犬を『止めて』みせろ」

グルルルルル……ッ!!

3頭のケルベロスが一斉に政宗を睨みつけ、殺意を剥き出しにして咆哮した。

その圧倒的な熱量とプレッシャーに、政宗は一歩後ずさった。

(……チッ、初手から物理的な暴力デスマッチかよ)

『王様! ケルベロスの魔力反応、異常だよ! あれ、生身の人間なら1秒で炭になる火力エネルギーを持ってる!』

インカムから蘭の焦った声が響く。

「……金が使えない空間で、どうやって猛獣を手懐けろってんだ」

ケルベロスたちが、よだれを撒き散らしながら政宗に向かって突進してくる。

地響きを立て、大気を焼き焦がす3つの巨体。

(逃げる? 冗談じゃねえ、5分も逃げ切れる広さじゃねえし、俺の体力じゃ1分も持たねえ!)

政宗は、迫り来る死の暴力を前に、極限まで脳を回転させた。

——魔族のルールだ。必ず、理不尽の中にも「魔法特有のロジック」が存在するはずだ。

——こいつらの「欲」はなんだ? 「行動原理」は?

『王様! 3頭の動きを解析した! ……こいつら、連携してない! むしろ、お互いを牽制し合ってる!』

蘭のハッキング・アイが、猛獣の僅かな不協和音を見抜いた。

(お互いを牽制……?)

政宗の脳裏に、閃きが走った。

「そうか……! 3つの頭、3つの意志。……こいつら、自分の取りエサを一番多く欲しがってる『競合他社』の集まりじゃねえか!」

ケルベロスが、巨大な顎を開いて政宗に噛み付こうとした、その瞬間。

「——待てェェッ!!」

政宗は、逃げるどころか、自分から一番大きい真ん中の首に向かって、ボストンバッグの中から『ある物』を取り出して高く掲げた。

それは、ポポロ村で大量に仕入れておいた、超高濃度の『月光薬の結晶(純度100%)』だった。

「……ガウ?」

真ん中の首が、その結晶から放たれる圧倒的な『純粋な魔力エネルギー』の匂いに、ピタリと動きを止めた。

「お前ら、腹減ってんだろ? 俺のちっぽけな肉なんかより、この『濃縮エネルギー』の方がよっぽど美味いはずだぜ」

政宗は、極悪な商社マンの笑みを浮かべ、その結晶をわざと、真ん中の首の『少し右側』へ向けて放り投げた。

ガウッ!!

右の首が、本能的にその結晶に食らいつこうと飛びかかる。

だが、それを許す真ん中の首ではなかった。

ガァァァァッ!!

真ん中の首が怒り狂い、右の首の横っ面を強烈に噛みちぎったのだ。

「キャンッ!?」

「ガウゥゥゥッ!!」

血肉が飛び散り、一つの胴体の中で、首同士の凄惨な殺し合い(内ゲバ)が始まった。

「ほらほら、まだあるぜ! 欲しい奴は奪い合え!!」

政宗は、バッグの中から次々と『月光薬の結晶』を取り出し、絶妙なタイミングと位置に放り投げ続けた。

左の首が取ろうとすれば、右が噛みつく。真ん中が独り占めしようとすれば、左右が協力して真ん中を攻撃する。

これは、経済学における【過当競争のインフレ】の誘発だった。

限られた「パイ(極上の餌)」を前に、彼らの『強欲』を極限まで煽り立て、互いの利益を食い潰させる。

地球のブラック市場で、同業他社を潰し合わせる時に政宗が使った常套手段。

『……あはっ! すごい王様! 3頭のダメージ計算、自滅オーバーフローに向かってる!』

蘭がインカムの向こうで歓声を上げる。

「金(物理)が通じなくても、欲望システムの構造は同じだ。……頭が3つあるなら、仲違いさせて自滅させるのが一番安上がりなんだよ」

政宗は、安全圏でタバコを吹かしながら、三つの首が互いを噛み殺し合う凄惨な光景を冷ややかに見つめていた。

やがて——。

グシャァァァ……ッ。

3つの首は、互いに致命傷を負い、大量の血とマグマを吐き出しながら、闘技場の地面にドサリと崩れ落ちた。

完全に自滅。政宗は指一本触れることなく、魔王の放った番犬を沈黙させたのだ。

「……フッ、見事だ」

天から、ラスティアのわずかに感心したような声が降ってくる。

「まさか、己の血肉ではなく『餌』を使って獣の強欲を暴走させ、自滅に追い込むとは。……悪辣で、醜く、そして美しい算盤だ」

炎の壁がスッと消え去り、闘技場の空間が再びガラスの床へと戻っていく。

「だが、油断するなよ人間。次の試練は、そんな『獣の欲』など通じない。……貴様のその腐った『魂の重さ』そのものを量るゲームだ」

政宗は、額の嫌な汗を拭い、短くなった赤マルを靴の裏で揉み消した。

(第一試練はクリアだ。……だが、こんなのは前座にすぎねえ)

『王様、バイタルが持たないよ! さっきの熱気で、肺のダメージが深刻化してる!』

蘭の警告の通り、政宗は激しく咳き込み、口からどす黒い血を吐き出した。

人間の肉体が、アバロンの瘴気に耐えられる限界時間は、もうとうに過ぎているのだ。

「……上等だ。さっさと次を持て来い、バカ魔王」

政宗は、血だらけの口元を歪め、空に向かって中指を立てた。

玉座の足元に座る、感情を失ったキャルル。

彼女を取り戻すための、魂を削るデスゲームは、休む間もなく第二の試練へと突入する。

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