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【資本主義無双】異世界が太平洋に出現したが、狂った転生商社マンとマッハ1のウサギ村長が地球の超大国を丸ごと買い叩く  作者: 月神世一


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EP 7

アバロン潜入(ハッタリと虚栄のパスポート)

空が、紫色に澱んでいた。

太陽は存在せず、代わりに空を覆う巨大な魔法陣が、妖しく美しい銀色の光を地上に落としている。

マンルシア大陸の最果て、魔法と退廃の絶対領域——アバロン皇国。

不老不死の魔族たちが悠久の時を過ごすこの国は、路地の一つ一つまでが芸術品のように美しく、そして死の匂いがした。

その帝都の裏路地に。

空間がノイズのように乱れ、一人の男がボストンバッグを提げて吐き出された。

「……ッ、オェェ……」

政宗は路地裏の壁に手をつき、胃液を吐き出した。

人間の肉体で無理やり魔導回線ゲートを通過した副作用で、全身の神経が千切れそうな激痛が走っている。

『……生きてる、王様?』

政宗の耳の奥に埋め込まれた極小の通信用インカムから、早乙女蘭の平坦な声が響く。

「……あァ、なんとか。お前の作った『密航ルート』、乗り心地は最悪だぞ」

政宗は乱れたネクタイを直し、口元を拭って立ち上がった。

『文句言わないの。キャルルを連れ去った時の「空間の歪み」を、地球の量子コンピューターで逆算して無理やり波長を合わせたんだから。……人間がアバロンの結界を抜けたのって、歴史上初めてじゃない?』

蘭の言う通り、ここは人間が呼吸することすら許されない魔の領域だ。

「よし。ここからは俺の領域ビジネスだ」

政宗は、赤マルを一本取り出して火をつけた。

彼の目的は一つ。

帝都の中心にそびえ立つ、空を貫くような漆黒の巨城——魔王ラスティアの玉座へ辿り着くこと。

だが、城の周辺は何重もの強固な魔法結界と、高位の魔族たちによって守られている。武力も魔力もない政宗が正面から挑めば、一秒で灰燼に帰すだろう。

(金は通じねえ。武力もない。だが……『商談ディール』の基本は、相手の【欲】を見抜くことだ)

政宗は、路地裏から大通りへと歩み出た。

大通りは、目を奪われるほど絢爛豪華だった。

美しい衣服を纏った魔族の貴族たちが、優雅に談笑しながら空中を浮遊して移動している。彼らにとって「歩く」という行為すら下等な労働なのだ。

政宗が歩いていると、すぐに上空から冷ややかな視線が突き刺さった。

「……おい。見ろ、アレを」

「人間……? なぜあのような下等生物が、我が帝都に紛れ込んでいるのだ」

三人の若い魔族の貴族が、空中から政宗の前に降り立った。

彼らの瞳には、圧倒的な侮蔑の色が浮かんでいる。

「迷い犬か? 薄汚い……。その貧相な足で、この美しい石畳を汚すな」

リーダー格の魔族が、指先から赤黒い火球ファイアボールを生み出した。問答無用で焼き殺す気だ。

だが、政宗は逃げもせず、むしろ呆れたような顔でため息をついた。

「……おいおい、アバロンの貴族ってのは、客商売の基本も知らねえのか? 田舎者丸出しだな」

「なんだと……?」

魔族の火球が、ピタリと止まる。

政宗は、ボストンバッグの中から、高級なベルベットの小箱を取り出した。

パカッ、と開けると、そこには地球の最新鋭の『ホログラム・プロジェクター』が、まるで魔法の宝石のように美しく輝きながら収まっていた。

「……俺は、ルーベンス卿の『直の取引先』だ。彼から、この『未知の幻想魔石』を魔王様に献上するよう、特別に依頼されてきたんだよ」

政宗の口から飛び出した、完璧なハッタリ。

ルーベンスという高位貴族の名前と、見たこともない機械の輝きに、三人の魔族は一瞬たじろいだ。

「る、ルーベンス様の……? 嘘をつくな、人間ごときが!」

「嘘だと思うなら、直接彼に確認してみろよ」

政宗は、わざと鼻で笑ってプロジェクターを高く掲げた。

「だが、もし俺が本物の使者だったら? お前らは、魔王様への『最高級の献上品』を燃やそうとした大罪人として、ルーベンス卿に魂を消されるぜ?」

『——蘭、今だ』

政宗がインカム越しに小声で指示を出す。

『オッケー、波長偽装ハッキング開始っ!』

次の瞬間。政宗の掲げたプロジェクターから、アバロンの魔族すら見たことがない、圧倒的に複雑で美しい【フラクタル幾何学のホログラム映像】が空中に展開された。

それは魔法ではない。地球の数学が弾き出した、純粋なデジタルアートだ。

「なっ……なんという複雑な魔法陣……!」

「我々の魔力探知に全く引っかからない……まさか、本当に未知の高位魔導具なのか!?」

魔族たちは、寿命が無限ゆえに「新しい刺激(美と未知)」に極端に飢えている。

政宗と蘭は、その【虚栄心と好奇心】という彼らの「弱点(欲)」を完璧に突いたのだ。

「す、すまなかった。ルーベンス様の使者殿とは知らず……」

リーダー格の魔族が、慌てて頭を下げる。

「分かればいいんだよ。……で、魔王の城に入るための『通行証パス』を持ってるか? 俺は人間だからな、正面ゲートの結界を抜けるための認証が要る」

「は、はい! 私のこの『貴族の紋章』をお使いください! 使者殿の案内の任、喜んでお引き受けいたします!」

魔族は、自分の紋章が入ったペンダントを、震える手で政宗に差し出した。

政宗はそれをひったくるように受け取ると、冷たく言い放った。

「案内は不要だ。……俺は、魔王様のサプライズを邪魔されるのが一番嫌いでね」

「は、ははぁっ!」

地面にひれ伏す魔族たちを尻目に、政宗は悠然と歩き出した。

(チョロいもんだ。……金がなくても、奴らの『常識』の隙間を突けば、いくらでもハッキングできる)

政宗の顔には、極悪なセールスマンの笑みが張り付いている。

『王様、城門の結界、その紋章の波長で突破できるよ。でも、城の中はもっとヤバい防壁だらけだからね』

「上等だ。……キャルルの奴隷契約を破棄させるための【バグ】は、見つかりそうか?」

『……魔族の契約のロジック、かなり複雑。でも、一つだけ「法務的」な抜け道を見つけたかも。……王様、これ、失敗したら魂ごと消滅するよ?』

「俺はギャンブラーじゃねえ。……勝算があるから、全額ベット(投資)するんだ」

政宗は、そびえ立つ魔王の漆黒の巨城を見上げた。

武力も魔法も持たない、たった一人の地球の商社マンによる、神話の城へのハッキングが、今、本格的に幕を開けた。

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