EP 15
ポポロ・自衛隊 共闘戦線
「右舷、死甲虫型三体! 関節部を狙え、動きを止めろ!」
信長の鋭い声が戦場に響く。
陸上自衛隊レンジャー部隊の一斉射撃が、巨大な死甲虫型の脚部関節と、複眼と思われるセンサー部分に集中した。
ダダダダダッ!!
「ギチィィッ!」
装甲の薄い部位を正確に撃ち抜かれた死甲虫型が、バランスを崩して体勢を沈める。
装甲を貫通できなくとも、近代兵装の『面制圧』と『部位破壊』は、敵の機動力を確実に削いでいた。
「見事な制圧です。……では、清算と行きましょう」
そこへ、燕尾服の残像が滑り込む。
リバロンだ。
彼は闘気を纏ったネクタイ剣を、死甲虫型の首の隙間――自衛隊の射撃によって装甲が剥き出しになった箇所へ、流れるように突き入れた。
ズバァァッ!!
緑色の体液が噴き出し、巨体が音を立てて崩れ落ちる。
「うおっ……すげえ。本当に豆腐みたいに斬りやがる」
レンジャー隊員が息を呑む。
これこそが、近代兵器による『戦術的制圧』と、異世界武術による『超火力確殺』の完璧な化学反応だった。
「リバロンさん! 空から『死蝿型』の群れが来ます!」
ポポロ村の自警団が、空を指差して叫んだ。
「空(上)は俺たちが引き受ける! 対空射撃、開始!」
信長の号令と共に、レンジャー部隊の銃口が上空へ向けられる。
正確無比なタップ撃ちが、鱗粉を撒き散らそうとする死蝿型を次々と撃ち落としていく。
撃ち漏らして急降下してきた個体には、信長が『タクティカル・マチェット』を抜刀し、北辰一刀流の鋭い踏み込みと共に両断した。
「背中はお任せしますよ、坂上1尉」
「おう。俺たちがいりゃ、あんたは前の敵だけ見てりゃいい」
人狼の執事と、日本の侍。
背中合わせに立つ二人の間に、種族も世界も超えた戦友としての『信頼』が生まれていた。
「クソッ……! クソォォォッ!」
その光景を木の梢から見下ろしていた魔人ギアンは、仮面の奥でギリッと歯軋りをした。
「なんだいアレは! 美しくない! 僕の描いたシナリオは、互いの疑心暗鬼で殺し合う悲劇だぞ! なぜ手を取り合っている! なぜ希望を見出しているんだ!」
彼のバイブルである『群衆心理』は、恐怖と混乱が人々を支配するという前提で成り立っている。
だが今、ポポロ村の広場には『絶対的な恐怖の不在』があった。
「ありがとう……みんな、がんばれっ!」
戦場の中央。
血を流し、息も絶え絶えになりながらも、キャルルが微笑みながら治癒の光を放ち続けている。
彼女の存在が、絶望に染まるはずだった戦場を、強烈な『善の光』で照らし出していた。兵士たちの士気は、下がるどころか限界を突破して高揚している。
「あのウサギ……! あのウサギがいる限り、僕の悲劇は完成しないッ!」
ギアンの殺意が、キャルル一点に集中する。
その様子を、村の防壁から双眼鏡で見下ろしていた政宗は、赤マルの煙をゆっくりと空に吐き出した。
「……持ち堪えてはいるが、ジリ貧だな」
信長たちの共闘は見事だ。
だが、所詮は局地戦の勝利に過ぎない。
キャルルの魔力は限界に近く、日本政府は信長を裏切り者として処理し、いずれ更なる火力を投射してくるだろう。アメリカや中国も、この隙を突いて必ず動く。
(現場でどれだけ綺麗事を並べても、資本の暴力には勝てねえ。……だから)
政宗は、手元の魔導端末を開いた。
画面には、ゴルド商会の裏ルートを通じてアクセスした、地球側の『国際金融市場』のチャートと、各国の軍事物流ネットワークのシステム図が映し出されていた。
(算盤ごと、叩き割ってやる)
政宗の指が、常人には理解不能な速度で端末を叩き始める。
彼が仕掛けているのは、魔法でも武力でもない。
地球の怪物たちを最も恐れさせる『悪辣な経済トラップ』の構築だった。
「もう少しだ、キャルル。……あと少しだけ、その馬鹿みたいに綺麗な光を灯してろ。俺が、世界に『借金』を背負わせてやるからよ」
政宗の瞳の奥で、修羅の狂気が静かに燃え上がっていた。
その時。
戦場を、今までとは比較にならない『巨大な地鳴り』が襲った。
ズンッ……!!
地震ではない。森の奥から『何か』が歩みを進める、巨大な足音だ。
「……なんだ? レーダーの反応がおかしいぞ!」
レンジャー隊員が叫ぶ。
「アハハハッ! そうだ、盤面ごと叩き潰せばいいんだよォ!」
狂喜するギアンの背後。
森の木々が、まるでマッチ棒のようにバキバキと薙ぎ倒されていく。
姿を現したのは、ビルほどの高さがある超巨大な蟲。
厚さ数メートルの漆黒の重装甲に覆われ、口には戦車すら噛み砕く大顎を備えた、死蟲軍の戦略級兵器。
『死王蟻型』。
「嘘だろ……なんだよ、あのデカさは……」
信長が、アサルトライフルを構えたまま呆然と呟く。
近代兵器の弾丸など、文字通り『豆鉄砲』に過ぎない絶望的な質量。
ポポロ村の防衛線が、本当の死地へと変わろうとしていた。




