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IF早過ぎたラグナロク20話 雷神4

夢を見た。


 度々見る夢だ。しかも、夢だとわかる夢。ユーミルの能力で見る予知夢――そう理解しているが、何度見ても慣れない。まるで悪夢のように、終わりなき地獄を見せつけられる。




 世界には私とスルトしかいない。


 焼け野原と化した大地、崩れ去った城、白かったはずの空が赤黒く染まり、すべてが燃えている。私は何度も攻撃を仕掛けるが、大してダメージにならない。逆に、スルトの火炎で燃やされ、その豪腕に叩き潰され、死にかける。その繰り返し。



 本来なら死んでいただろう。


 それでも、ヘルの超再生能力で私は立ち上がり、何度でも戦いを再開する。自分でもどれだけ繰り返したか分からない。いくら攻撃を重ねても、スルトはびくともせず、世界を焼き尽くしていく。ここには神も人もいない。ただ私とスルトの最終決戦が、不毛に続いているだけ。



 白かった空が赤く染まり、周囲は炎と瓦礫の山。神界そのものが崩壊寸前だ。それでも戦いは終わらない。いつ終わるともしれないこの最後の戦いに、私は力が続く限り立ち向かうことをやめない。私が諦めれば、世界の破滅が確定するから。





---





「はっ……はあ、はあ……」



 現実に引き戻される。荒い呼吸が肺を焦がし、心臓の鼓動が聞こえてくる。視界には、廃墟のように荒れ果てた城下町の跡。戦いの痕跡が色濃く残り、砂埃が舞う。その白い空と冷たい風に一瞬混乱するが、ここは終末の世界ではない。私がよく知る現実だ。



「私は……死んだはず……」



 体を起こしながら、記憶を手繰り寄せる。トールとの決戦で体を真っ二つに切り裂かれ、上空から落下したところまでは覚えている。そのあと、何も思い出せない。けれど、今こうして生きているのは、ヘルの超再生のおかげだろう。首を落とされても蘇ったくらいだ。半身が失われた程度では死なないということかもしれない。



 ただ、当然ながら着物までは再生されない。下半身が裸のままだ。人目を気にするような相手はもう誰もいないが、肌寒さに身体が震える。早く家に帰って着替えたい……そんな欲求が、私の生存を実感させる。




「そういえば、トールは……」



 辺りを見回すと、遠くにトールらしき姿が見える。まるで立ち尽くしたように、身動き一つしない。その状態が嫌な予感を生む。私は警戒しながら少しずつ近づいていく。いつ背後から襲われてもおかしくはない。


 しかし、近づいてみて分かった。トールの胸は、私が投げたグングニルに深々と貫かれている。



「グングニルに貫かれて死んだのね」



 呟く声が震える。あの最後の一撃で、彼もとどめを刺されていたのだ。トールはミョルニルを投げ、私の身体を上下に真っ二つにし、ほぼ死なせた。けれど、私はヘルの能力で再生した。一方、トールにはそんな能力はなかった。


 勝負は引き分け。だが、生き残ったのは私だけ。ヘルの超再生はここでも私を救ってくれた。何度死にかけてもこうして再生する。その恩恵に、もはや恐怖すら感じる。



(悪いけど、爺さん……その力も、私のものにするわね)



 弱い神なら見逃すつもりだった。しかし、トールほどの力を持つ存在を無視する手はない。私の目的は“ラグナロクを乗り越えるための力を手に入れる”こと。手段を選んではいられない。


 死体の処理を終え、彼の力も手に入れた。そして、私は下半身裸のままでグングニルとミョルニルを引きずって歩き出す。城下町を後にし、自宅へと向かうために。




---




 何とか家に戻って、まずは着替えを探す。ミョルニルとグングニルは家のお倉庫に隠すように置いておく。さすがに二度も同じミスを繰り返すつもりはない。


 それから、度重なる戦闘で消耗しきった身体を休めるべくベッドに沈む。意識がゆっくり遠のいていき、思考すらままならない。



(はあ……疲れた)



 一度まぶたを閉じたら、いつ起きたのか分からないほど眠りこけた。あれだけの激戦の後だ。途中、何度かあのスルトの夢を見ては目を覚まし、また寝落ちする。いまや時間の感覚が麻痺している。



 ヘルの能力による超再生と、肉体的・精神的な疲労は別問題だ。再生するだけでは回復しない心と体を、しっかりと休めないと戦力は維持できない。


 私は時折スクルドの位置を遠見で確認する。彼女は世界樹の泉から動いていない。まるでそこに縛り付けられているかのようだ。何にせよ、こちらに干渉してこないのは好都合……と開き直り、私は数日を怠惰に過ごすことにした。



(誰にも邪魔されない生活って、こんなに楽なのね……)



 そう思いつつも、朝日が眩しい日があったり、夜が長引く日があったりした。正確に数えてはいないが、少なくとも数日はベッドにこもった。


 スルトの夢が繰り返し私を苦しめるが、目覚めてさえしまえばそれも終わる。幸い、ここは安全だ。神々をほとんど始末したのだから、襲われることもない。



(ラグナロクまで、まだ時間があるはず。次はヴァン神族の領域に攻め込んで力を奪ってやろう)



 数日の休養で体力は大分戻った。消耗は激しかったがヘルの超再生も働き、ようやく心と体が落ち着きを取り戻す。私はベッドから起き上がると、軽く伸びをする。


 部屋の窓を開ければ、相変わらず白い空。冷たい風が一陣吹き込む。私がこれほど穏やかな気分でいられるのは、敵がほぼいなくなった安心感ゆえだろう。




「遠征する前に、スクルドに会いに行きましょうか……」



 そう呟き、私は外へ出る。


 全斬丸だけを腰に差し、歩いて行くことにした。空を飛べば早いが、スクルドに疑いをかけられるのはまずい。今は怪しまれないよう自然に振る舞う方がいい。



 家の外には、戦闘の余波で焼け焦げた平原が広がる。原初の時から白いままの空は変わり映えせず、今日もひんやりした風が吹く。戦闘で荒れた地面は黒く焦げ、まるで死の土地だ。


 世界樹の森に足を踏み入れれば、青々と茂った緑が広がっている。神々がいなくなっても、植物や小動物は相変わらずの営みを続けている。私が殺したのは神々だけ……という現実を、改めて思い知る。



(もうこの世界には、私とスクルドしかいないわけだし、少しだけゆっくり過ごすのも悪くない。……何か忘れているような気もするけど)



 そう考えると、少し胸がざわめく。スクルドだけは、どうしても殺したくない。一方で、彼女が私の所業を知れば、どう思うだろうか?  怒るか、悲しむか、あるいは絶望するか。


 そんな葛藤を抱えながら森を抜け、世界樹の泉へ着く。スクルドは相変わらず泉のほとりで、白い束に対して何かの作業をしているようだった。



「久しぶりね、スクルド。元気にしていた?」



 声をかけると、スクルドが振り向く。その顔を見て、私は思わず息を呑む。かつての明るい表情がまるで消え失せ、目が充血し、頬がこけている。何日も不眠不休で働いているかのようだ。



「ああ、エリカ。……姉様たちは、まだ見つからない?」



 焦点の合わない目で私を見ながら、スクルドが尋ねる。彼女の声はか細く、息も絶え絶えに聞こえる。



「ええ、まだ見つからないわ」



 嘘をつくしかない。私がヴェルザンディたちを殺したなんて知られたら、スクルドがどう反応するのか。想像するだけで背筋が凍る。



「そう……じゃあ、あたしが頑張るしかないわね」



 スクルドは白い束のような何かに向かって作業を続けている。その手足は細く痩せ、体には生気がほとんど残っていないように見える。私は唾を飲み込み、なんとか声をかける。



「スクルド、少し休んだ方がいいわよ」



 優しく言ったつもりだが、彼女は首を振り、必死に目を見開いた。



「それはダメ! 姉様たちがいないなら、あたしが……頑張らないと……」



 声を荒げたかと思うと、足元がふらつき、ばたりと倒れ込んでしまった。



「スクルド!」



---





 現在のエリカのステータス



 神力……550万



 特殊能力……発明、暴食、ちょっとだけ未来視、毒耐性、無限成長、超再生、予知夢、変身、遠見、エインフェリア召喚、過去視、超神術、魅了、瞬間移動、極大神力波、叡智、ルーンの知識、グングニルの所有者、召雷、ミョルニルの所有者




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